ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
3章5話 通学の途中で、ニセコイが――(1)
3章5話 通学の途中で、ニセコイが――(1)
「私は――先輩とは付き合えません」
告げると、アリスは申し訳なさそうに顔に陰りを作った。
明らかにレナードとは極力、目を合わせないようにしてことをすませようとしている。
「そうかよ……」
無力感のようなモノに叩きのめされ、無意識のうちにレナードは歯軋りをした。
自らの告白で意中の女の子の顔を曇らせたのである。アリスのその反応を咎めるのは筋違いだと理解はしていたが、すぐに消化できるようなリアクションではなかったのも事実だった。
だが、彼は苛立っているのを自覚していたが、それを自分以外の誰かにぶつけようとは思わない。本人の価値観で語るなら、それは「ダセェ」ことだからだ。
そして並びに、二律背反の感情に近いが、このまま素直に諦めるのもレナードの性分ではなかった。
「理由ぐらいは……訊いてもいいよな?」
「私は先輩のこと、よく知りませんので」
「前に、一度俺のことを注意したことは?」
「悪いことをしている人を見付けたら、私、けっこう首を突っ込む性格で……、その……、埋もれちゃっています」
「これから知っていこうとは思わねぇのか?」
「思いません。一目でこの人とは友達としてはいいけど、恋人としてはあわないってわかりましたので。シィにも失礼なことを言っていましたし……」
「これから知ろうとも思わねぇし、挙句、タイプでもない、か」
「そう、ですね……」
自嘲するようにレナードは笑った。
そろそろ始業のベルが鳴る時間だ。もう教室の外を歩いている生徒はあまりいない。
しかしこの雰囲気で、「じゃあ、そろそろ教室に行こう!」と、ロイは言えなかった。
いや、本来ならそう言うべきなのだが、このシリアスな雰囲気に口を挟む勇気がなかっただけかもしれない。
「……まァ、振られた女に駄々をこねるのはダサすぎるからな。しばらくの間、片想いぐらいは続けさせてもらうが、付き合えねぇのは納得できねぇけど、理解はした」
「……えっ? 片想い、ですか?」
「ん? アァ、当然と言えば当然だが、別の女に惚れるか、色恋沙汰以外に夢中になれることを見付けるまでだろうな」
そう言われて、なぜかアリスは思案顔になる。その顔はどちらかと言われれば、前向きに考えている感じではなく、後ろ向きに悩んでいる感じだった。
だとしてもアリスの性格上、片想いまで、しないでください! 絶対禁止です! なんて言うことはありえない。
片想いまで拒絶されるのはつらいことだし、そこまでいくと流石にアリスの方が筋違いだ。
一方的に想いを募らせることを制限することは、誰にだってされてはいけないし、誰にだってしてはいけない。
だがしかし、アリスには『とある事情』があった。
そのせいで、片想いすら許してあげる気になれなかったのである。
いや、許したとしても報われない確信がある。
だからこそ、ならば最初から認めない方が、レナードにとって優しい選択なのではないか? と、アリスは悩んでいたのだ。
「その……、あの……、追求してしまって申し訳ないですけど、諦めないってことは、友達で我慢するということですか?」
「? 迷惑に思われている俺が言えたことじゃねぇが、どうも話が噛み合わねぇな。普通に好きでい続けるということだ」
「…………」
ロイはなにかがおかしいと直感する。同じく、シーリーンとイヴとマリアも、アリスの様子に違和感を覚えていた。
いくらなんでも歯切れが悪すぎる。これが大人しくて引っ込み思案な女の子なら理解できるが、アリスは言いたいことをハッキリ言う性格だ。
それに、彼女は不純異性交遊には厳しいが、それは恋愛に対する誠実さの裏返しのはずである。
相手のことを思うからこそ、普段の彼女なら口ごもるのではなく、真正面から断るだろう。
むしろレナードの方が、心の整理が付いていないだけ、と、肯定的に捉えられるレベルである。
だから意外なことに、この場において煮え切らない対応をしているのは、レナードではなくてアリスの方だった。
「……迷惑、か?」
レナードもアリスの不自然さに気付いていたようである。そして彼は彼女の言いづらいことを予想して、もしかしてこういうことか? と、慎重に訊いてみた。
だがそれでも、アリスは首を弱く、横に振る。
「よくわからねぇが……テメェがここまでグダグダになっちまうってことは、なんか、それ相応の事情があるんだろうなァ」
「――はい」
「片想いさえも難しい。その事情についても、語れねぇのか……」
再度、アリスは顔を俯かせる。
流石にレナードだけではなく、ロイも
イヴでさえ、よくわからないけど、確実に雰囲気がおかしい! という感じで現状を理解していて、マリアは(もしもトラブルに発展したら、わたしと弟くんでなんとかしないといけませんね……)という眼差しで成り行きを慎重に見守っている。
「ロイくん……」
「これはアリスの返事待ちだけど、アリスが悪いわけじゃない。先輩なら義務と義務感の違いはわかっている」
「うん……」
「みんながみんな、別々の事情を抱えているわけだし……」
「でも、確かに義務があるわけじゃないし、アリスが悪いわけじゃないかもしれないけど、アリスが答えないと終わらないよね……」
「まぁ、正直、そのとおりなんだよね……。先輩は束縛男になりそうな人だけど、キチンと言えば理解してくれる人だって、ボクでさえわかる」
ロイとシーリーンが小声で話す。
しかしアリスにはその声が聞こえなかった。
小声というのもあったが、頭の中でいろいろ考えていたからだ。
どうするべきなのだろう、どう答えるべきなのだろう、と、彼女は頭の中で繰り返す。
実のところ、アリスが抱えている事情は、本人だけでは解決できないようなモノだった。
しかもあまり第三者に話せるような事情でもなく、そのタイミングで、追い打ちをかけるようにレナードから告白されたのだ。
確かにロイたちやレナードに相談していない以上、察してもらえるわけがないのはアリスも理解しているが――――悩ましい。悩ましい。全てを放り投げて自分の好きなようにしたい。
だが、このまま黙っているわけにもいかなかった。全部答える必要もないだろうが、少なくとも、レナードを納得させる程度は事情を明かさないといけない。場の空気という曖昧だけど確かに存在するモノのせいで、この気まずさから脱出する必要最低限のコストがアリスの秘密なのだ。
アリスは別に、レナードにだけなら、事情を話すのをまだ許容できた。
問題なのは(ロイにだけは――絶対に知られたくない)という羞恥心だった。
「あの……っ、えっ、と……」
まるで自分が自分ではないみたいだった。
が、そこで彼女は閃く。閃いてしまう。今、自分が自分ではないみたいなら、普段の自分ではありえないことで、この場をやり過ごしてはいいのではないか、と。
即ち、ウソを吐く、という手段を選ぶ。
ウソを吐くなんて、まず間違いなく誇らしいことではない。
しかしウソを吐かない人間もエルフもいないし、アリスだってウソを吐いたことがないわけではなかった。
他人を貶めるためではなく、イヤな情報を与えないためにウソを吐くならば、許されるのではないだろうか?
時と場合による。
それが彼女の結論で、恐らく一般的な認識だった。
しかし、この時のこの場合はウソを吐いていい状況だろうか?
考えてもすぐに答えが出てくる自問自答ではないが、吐かなければこの場を収めることはできない。
かなり時間が経ってしまったことへの焦燥感。
それに突き動かされるように、アリスは盛大な、爆弾のようなウソを吐くことに決めた。
「実は私! ロイと付き合っているの!」
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