3章4話 通学の途中で、告白を――(2)



「結婚、かぁ……」


 もしかしたらイヴとマリアの発言で、結婚についてなにかを考えてしまったのかもしれない。

 しかしロイには情報が不足していたので、アリスが考えていた『なにか』が、具体的になんなのかはわからなかった。


「ンで、そこの胸がデカい金髪ロリが、ロイのカノジョのシーリーン・エンゲルハルトだろ? ジェレミアと決闘することになった原因の」

「いや、先輩、ボクのカノジョをそういうふうに言わないでくれませんか……?」


 ロイはジト目で少し呆れながらレナードを咎めた。

 確かに事実、シーリーンは身長が152cmしかないのにHカップで、いわゆるロリ巨乳に相当するだろう。が、それを本人の前で口にするのは、流石に配慮に欠けていた。


「うぅ~、ロイくん……」


 と、シーリーンはロイの背中に隠れるようにして恥ずかしがる。

 ちなみに彼女はHカップだが太っているわけではない。スリーサイズは上から90・55・94だ。女の子として出るところは出ていて、くびれるところはくびれている体型で、それのメリハリが女の子として極端なだけである。


 バストとヒップは平均よりも膨らんでいて、ウエストは平均よりも細い。普通、バストとヒップが膨らんでいるならウエストは太くなるし、ウエストが細いならバストとヒップはなだらかになるのに、だ。

 要するに、ウエストが細いから、より巨乳が際立っている、ということである。


「それと、黒髪ツインテールが妹で、黒髪お姫様カットが姉貴か」

「イヴ・モルゲンロートだよ」

「マリア・モルゲンロートです。よろしくお願いしますね」


 どうやらレナードはシーリーンのことは知っていたが、イヴとマリアのことは知らなかったらしい。

 恐らく、シーリーンのことはジェレミアとの決闘の際に知ったのだろう。


「あれ? レナード先輩はアリスのことを知っているの?」


 ふと、シーリーンが小首を傾げた。

 話の矛先が自分に向くと、ようやくアリスはハッとする。


「初めまして、レナード先輩。私はアリス・エルフ・ル・ドーラ・ヴァレンシュタインと言います。エルフ・ル・ドーラ侯爵の次女で、ランクはウィッチです」


 まさに貴族令嬢の手本に相応しいほど、完璧に優雅な微笑みを浮かべてアリスは会釈する。

 しかしここで「「ん?」」と、ロイとレナードは頭の上にクエッションマークを浮かべた。


 ロイは思う。

 昨日のレナードの話が事実なら、アリスは彼のことを知っているのではないか? つまり、初対面ではないのではないか? と。


「先輩、1ついいですか?」

「ななんあななああんあな、ななな、なんだ?」


 わかりやすすぎるぐらい、明らかにレナードは動揺していた。

 彼のことがあまり気に入らないロイでさえ正直、これ以上、追い打ちをかけるのは気が引けた。が、確認にしないわけにはいかなかったので、ロイは覚悟を決めて、レナードに問う。


「アリスと話したのって何回ぐらいですか?」

「……察してくれ」


「あっ……わかりました」

「あれ? 私と先輩、どこかでお会いしたことありましたっけ?」


 確定だった。

 レナードは燃え尽きた真っ白な灰のようになってしまっている。


 そんな彼にロイは哀れむような視線を送った。

 一方でアリスは(私、なにか悪いことしちゃった!?)とオロオロしている。


「あっ!? そうです、先輩!」


「!? なんだ、アリス!?」

「どうして昨日、ロイに決闘を申し込んだんですか!?」


「……ハァ?」

「互いに譲れない想いがあって、場合によっては命を懸けることさえもある。決闘は他のあらゆる戦いとは違い、法律と理念を公に認められた唯一の戦いなんですよ? ロイのどこにどのようなイヤな部分があったんですか!?」


「……っ」

「ただ気に喰わなかったから、なんて理由は許しませんよ? 私には、貴族として秩序を守る義務があるんです!」


「あ、アリス……、その言い方はマズイよ……」


 ロイがアリスに警告するも、もう遅い。

 レナードは肩をプルプルと震わせていた。

 これではもう、彼は感情を制御できなくなってしまうだろう。


「――ッ、俺はなァ! テメェと前に会ったことがあって、その時、テメェに惚れたんだよ!」

「……ふぇ?」


「それでアリスの隣にいるロイが気に喰わなくて決闘を申し込んだ! そしてロイの方も、テメェを奪われたくないから決闘を承諾したんだ! 文句あっか!?」

「ろ、ロイが、私を奪われたくない……っ?」


 アリスは頬を赤らめてロイのことをチラ見した。

 このような状況なのに胸がドキドキしてしまい、自分でも、自分がロイに抱いている気持ちの正体がわからなくなってしまっていた。


「アリス!」

「えっ? あっ、は、はい!?」

「急で悪いが、俺はテメェのことが好きだ! 付き合ってほしい!」


 レナードは真剣な眼差しでアリスのことを見続けた。決して自分からは目を逸らそうとはしない。

 勢い任せとはいえ、ここまできてしまったら、ロイに止めることはできない。そもそも、止めようとさえ、もはや思えなかった。


 告白した以上、その事実がなくなることはない。あとはもう、どのような返事であれそれをもらうために、最後まで勢いに任せきってしまうべきである。

 ちなみにシーリーンはアリスのことなのに顔を真っ赤にして、イヴは正直、面白がっている感じで、マリアはどこか(あ~あ……)という感じだった。


 そして当の本人であるアリスは――、

 心底驚いたような顔をして――、


 しかしすぐに気まずそうに――、

 視線を逸らして俯いて――、



「私は――先輩とは付き合えません」


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