3章1話 通学の途中で、美少女4人と――(1)



 翌日、トパーズの月、13日の朝――、

 空は青く晴れ渡っていて、小鳥が木々の枝に留まってさえずっていた。


 白い雲が麗らかな風に流されている。これぞまさに秋晴れと言うべき一日の始まりだった。

 勉学のために、剣術のために、そして魔術のために、続々と生徒は続々と学院に通学してくる。そこに近付くにつれて、段々と活気に満ちてきて、喋り声も聞こえてくるようになった。


「ゴメンね、みんな。ボクに付き合ってもらって」

「ううん? ロイくんの隣が、シィのいるところだから♡」


 なんてデレデレしながら、シーリーンはロイの腕に、自らのやわらかいおっぱいを押し付ける。

 そして彼女はそのままロイの腕に、気持ちよさそうに、幸せそうに、目を細めながら頬ずりした。


 すでに直接的触ったことがあるとはいえ、慣れることなくドキドキしているロイと、好きな男の子に意識してもらって満面の笑みを浮かべるシーリーン。

 そんな2人の様子を、アリスはつまらなそうに、イヴは不機嫌そうに、マリアは笑顔なのになぜか怒っているみたいに、三者三様に眺めていた。


「コホン、それで、ロイ?」


「ん?」


「なんで決闘場なんかに用があるの?」


 ロイは今、シーリーンとアリス、イヴとマリアを連れて第1決闘場を訪れていた。

 ここは昨夜、レナードと剣を交わしたところであり、自分たちはその戦いの衝撃で、盛大にステージをぶっ壊してしまったのだ。


 しかし、勝負を預かると言ったアリシアが、特別に直してあげましょうか? と提案してくれたのである。

 要するに他の4人はロイの付き添いだが、本人は直ったか否かを確認しにきたわけだ。


「いやぁ、ちょっと用事があって……」


「アリスさんはその用事がなにか、って訊いているんだよ?」


「お姉ちゃんにも言えないようなことなんですかね……?」


 イヴが小さく、可愛らしく、いとけなく、キョトンと首を傾げる。

 一方でマリアは最愛の弟に隠し事をされたのかと思い、寂しそうにシュン……とする落ち込んだ。


 どうしよう、と、ロイは内心で焦りつつ、言い訳を考える。

 確かに普通、決闘場なんかに用事など、そうそうないのだから。


「もうダメだ、罪悪感に勝てない……」

「ぅん? ロイ、それってどういうこと?」


「特にアリスには怒られると思うんだけど、昨日、学院の許可なく勝手に決闘場を使っちゃったんだ……」


「ほぇ!?」

「ふぇ!?」


「お兄ちゃんが!?」

「弟くんが不良さんに……っ」


「それで、そのぉ……決闘場のステージを壊しちゃったんだけど、親切な人が明日までに直してくれる、って……」


「ロイくん、親切な人って……」

「完璧に詐欺の手口じゃない!」


「いや! ちょ、ちょっと待って! 確かに言葉だけ聞くとそうかもしれないし、ボクも他人から聞かされたら詐欺だと思う。でも、ひとまず、とりあえず、一応! 決闘場を確認しに行った方がいいかなぁ……って」


「お姉ちゃん、これ、もしも直っていたら、どうなるのよ?」

「修繕費を普通の10倍とか、かもしれませんね……?」


「大丈夫だよ、ロイくん! ロイくんが貧乏になっても、シィは一生、ロイくんと一緒だから!」

「そ、そう……? シィ、ありが……と?」


 もうロイは、曖昧に笑うしかなかった。

 確かに、主にアリスの言うとおり、言葉だけ聞けば詐欺の一環のように考えてもおかしくない。だがロイが言う『親切な人』とはアリシア、つまり特務十二星座部隊の一員で、オーバーメイジなのだ。


 貴族や政治家とは違い、魔術師の地位はシンプルに実力で決まる。

 裏でやましいことをコソコソする理由もメリットもないのだ。ゆえにすでに絶大な地位を確立している彼女が悪事を働いて、自ら地位を貶めるなんてありえない。


 無論、昨日のアリシアが偽物という意見もあるかもしれない。

 だが昨日、彼女は質量とエネルギーの等価性さえ利用した錬金術を、詠唱を零砕して使ったのだ。目の前でアレを見せられた以上、偽者だと主張する方が難しいだろう。


 それはさておき数分後――、


「本当に直っている……」


 ――ロイは思わずおののき、ある種、感動にも等しい言葉を無意識に零した。

 そう、ロイたち5人は決闘場のステージに辿り着いたわけだが、そこには傷1つさえ残っていなかったのである。


 たかがステージの修復、面倒くさいことは事実だが、なにも絶対に不可能というわけではない。

 その類のジョブに付いている人に頼めば、魔術を使い、6時間もあれば元通りにしてくれるだろう。


 だから美少女たち4人はそこまで驚愕しなかったが、ロイだけは知っている。


 ここで行われたのはただの決闘ではなく、聖剣と聖剣のぶつかり合いだったのだ。特に終盤、ロイが星彩波動を撃って、レナードはそれを真正面から対処してみせている。

 アリシアに仲裁されたあと、ロイたちは落ち着いて自分たちの周りを見たのだが――そこはまるで下位とはいえ、竜が暴れたように破壊されてしまっていた。


 しかもそれをしたのは自分たちだったが、大気中の魔力は乱れていて、魔術を発動するにも、なかなか難しい状況になっていた。

 大気中の魔力が乱れている状態で魔術を使うことは、嵐の中で気球を飛ばすようなものである。


 だというのに、粗がないどころか、むしろ前よりも綺麗にしました、そう言わんばかりの完成度を目の前のステージから見て取れた。

 ロイは思わずステージを触ってまで確認したが、破壊される前よりも細かい傷がかなり減っている。決闘場であることを踏まえれば、ロイとレナードが戦う前から、多少の傷はあるはずなのに。


 新品のペンやノートを買うようなレベルではない。

 建物1棟がまるまる新築になったように傷が消え失せており、ロイは手品でも見ているような錯覚さえしてしまった。


「あっ、ところでロイ?」


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