2章9話 決闘場で、学部最強の騎士と――(2)



「…………ッッ、Ich凱旋 bete目指し um我は Kraft in果てなく den Armen渇望する,


 レナードは【光り瞬く白き円盾】を解除すると、ロイが先ほど飛翔剣翼を撃つためにそうしたように、なにもない空間にアスカロンの斬撃を叩き込む。

 結果、当たり前だが空気が動いた。


Geschwindigkeit腕には強さ in den Beinen und脚には Stolz darauf速さを,


 しかし言わずもがな、それだけでは終わらない。

 大気がうごめき轟々と渦巻き始め――ついには風の大砲となって、ロイに向かって撃ち放たれる。


den Feind意志には im Willen zuを討ち往く besiegen気高さを! 」

「肉体強化しようがッッ、ギリ遅ぇ!」


 直前で詠唱が完了して、確かにロイは風の大砲の直撃は避けられた。

 だが、風の大砲は1つの方向に対する攻撃ではなかった。どうも、レナードの前方のほとんどに対する広範囲攻撃だったようである。


 竜が突進する時のような突風に煽られて、ロイは暴力的なまでの不可視の大砲を全身に叩き込まれた。受け身も取れずに背中から着地して、彼は胃の中の物が出そうになりながらステージの上をバウンドする。

 そしてバウンドが止めると、エクスカリバーを地面に突き立てて杖の役割をさせながら、息を乱しながらも、なんとかロイは立ち上がった。


「どうしたァ!? ジェレミアを倒したヤツが、この程度で終わるわけがねぇよなァ!?」

「――言っておきますが」


「アァ?」

「ボクは転んでもタダじゃ起きないですよ?」


 言うと、それを機にいったん攻防は中断された。

 ロイはレナードを強く睨み、レナードもロイに煽るような視線を送る。


「少しずつだけどわかってきましたよ、アスカロンのスキル」

「へぇ……」


「最初、アスカロンのスキルは斬撃舞踏の軌道を全て逸らしましたよね? しかも1つにしか衝撃を与えてないのにです。この時点で、ボクはアスカロンのスキルを炎を出すとか雷を撃つとか、物理的なモノではないと判断しました。恐らく、スキル自体に攻撃力はないけれど、斬撃を条件に特定の現象を引き起こして、斬った物質を操作すれば攻撃に繋がるモノでしょう」

「まァ、1つをぶっ叩いて4つの軌道が一気に逸れるってーのは、確かに物理的にはありえねぇなァ」


「となれば必然、風の大砲がボクに当たる前、先輩はなにもない空間を斬りましたが……あれは適当に剣を振ったのではなく、大気を斬ったんですよね? 大気になんらかの現象を起こして、風の大砲なんて攻撃を魔術抜きに成立させた」

「ハッ、そこまでバレてるんじゃ、否定しても意味はねぇなァ。つーか、ジェレミアの時もそうだったが、感情的な性格なのに、割と論理的に戦うじゃなぇか」


「とはいえ、もどかしいですね」

「なにがだ?」


「アスカロンのスキルは斬った対象の『本質に近いナニカ』を、上下させるスキルですよね? 【光り瞬く白き円盾】を斬った時は、それが硬くなりましたし、大気を斬った時は、風で敵にダメージを与えられるぐらい勢いが強くなりました。一応、斬ったモノをシンプルに強化するスキルも候補でしたけど、それだと斬撃舞踏の軌道を逸らされた意味がわかりませんし」

「ククッ、『本質に近いナニカ』ねぇ。ハハハッハ! 惜しいなァ、オイ! それさえわかれば、グンと俺に勝ちやすくなるのによォ!」


 レナードは素直にロイを称賛する。

 気に喰わなくても、それを理由に評価を捻じ曲げることは許さない。そう考えている彼にとってはそれが当たり前で、率直な反応だった。


 しかし裏を返せば、まだロイに称賛を送る余裕がある、ということだ。

 騎士学部序列第1位は伊達ではない。


「ところで、先輩はボクのことを論理的に戦う、と、評価しましたが……」

「それがなんだ?」


「――違いますよ?」

「アァ?」


「直感で大まかな予想を付けたことに対して、後付けのロジックで説得力を持たせているだけです。いわば直感の補強工事で――今考えればこういうことだったのか、ということをあとから言っているにすぎません。過大評価ですよ」


 ロイはこともなしに、そういうことを言う。

 ムカつく先輩ではあるが、レナードはロイの騎士としての強さは正当に認めていたのだ。ゆえに、ロイもロイで貶すのは相手の態度だけにして、騎士としては直実であろうと心がける。


 というより――イヤだったのだ。目の前のこいつがキチンと自分を評価したというのに、自分の方が誠実でないと、決定的ななにかで後れを取ったような気がするから。

 それを知ってか知らずか数秒後、決闘場にレナードの笑い声が響く。


「なるほど! なるほどなァ! 俺とテメェは真逆のタイプの騎士だったのか!」

「真逆?」


「俺はこんなバカみてぇな不良だがよォ、誰かとやり合う時は、できる限り論理的に敵をぶちのめす! それが一番効率いいからなァ! 誰だって勝てば嬉しいし、負ければ悔しい。だから人は勝利するために策を練る。だが、テメェは違う! 感覚的な人間だ! 直感的な戦闘スタイルで、バカ正直にしか剣を振れねぇ!」

「それがなにか?」


 ロイは問う。

 それに、レナードは威風堂々と応えた。


「感情的なだけじゃ俺には勝てねぇ、って言うこともできるが、それ以上に、面白れぇ、って言いてぇんだよ。俺と斬り結べるぐらいには強ぇのに、真逆のアプローチでそこまで達したんだぜ? アリスの件を抜いても、少しはテメェに興味が湧いてきた。折角だ。俺のテクニックとテメェのパワー、どっちが上か白黒ハッキリ付けようじゃねぇか」


「異論はありません。どちらにせよ、先輩は斬り伏せなければならない相手ですからね。では、そろそろ再開しましょうか」

「ハッ、異論はねぇ」


「では――ッ」

「……っっ!?」


 ロイが宣言したのと同時に、レナードの足場が崩れる。

 そう、これはロイがアリシアと戦った時に使った戦術だ。彼は先ほどからエクスカリバーをステージに突き立てていて、レナードの足元まで、地中を通してその刀身を伸ばしていたのだ。


 そしてこの刹那――、

 ――地面から数多のエクスカリバーの切っ先が咲き乱れる。


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