5章15話 その後の日常で、賑やかで大切な平穏を――(2)



 溜息を零しながら肩をすくめるアリス。

 彼女は少しばかり呆れながら、一歩引いてロイたちのことを視界に収める。


 シーリーンはロイにいつもかまってほしいらしく、彼が他の女の子と接していると、いじらしくもヤキモチを焼いているような表情かおを見せた。

 イヴもイヴでお兄ちゃんを奪われるのがイヤなようで、地味に弟を溺愛しているマリアも、地味にロイに恋人ができて寂しそうな雰囲気だった。


 恋人になったシーリーンに、奪う気満々のイヴに、少し諦め気味で、だけど諦められそうにないマリア。

 ゆえにアリスは――


(っ、こ、こんな女の子3人に囲まれるロイも大変ね……)


 ――と改めて深い息を吐いた。

 まるで他人事のようだが、事実、他人事である。


 だというのに、なぜだろうか?

 理由はわからない。しかし確かに、アリスはこの光景が、どこかつまらなかった。


「ほら! 3人とも! ロイは病み上がりなんだから、身体を引っ張ったり、揺すったりしちゃダメ!」


「「「は~い……」」」


「まったく、マリアさんまで……」


 どこかつまらない。

 どこか面白くない。


 そんなモヤモヤを振り切るように、アリスは4人の仲裁に入った。

 これならきっと他意がないように見える。と、本当に他意がないなら気にしないようなことを気にしてまで。


「ロイ、身体はどう? もう痛まない?」

「うん、痛くもないし、違和感もないよ。この調子なら、来週には実戦演習の講義には出られるって」


 実戦演習とはロイとアリスがペアになってゴーレムを倒した講義だ。

 2回休んだことになったが、講師が融通を利かせてくれて、決闘という経験を積んだことを2回分の出席として認めてくれたのは幸いだった。


「そういえば、まだ言っていなかったわね」

「? なにを?」


「ロイ、おめでとう。あなたの勇姿、カッコよかったわよ?」

「あっ、うん、どういたしまして」


「アリスさんが抜け駆けしたよ!? お兄ちゃん、わたしからもおめでとう! お兄ちゃん、カッコよかったよ!」

「弟くんが戦っている姿、お姉ちゃんとして誇り高かったですからね? 本当に自慢の弟です!」


「ふふん! シィの恋人さんだもんっ! カッコよくて当然♡」

「うぐ……、そう何回も言われると、流石に照れるね」


 困ったようにロイは笑う。


「でも、よかったわね、シーリーンさん」

「ぅん?」


「念願のパフェは美味しい?」

「もちろん! あっ、そうだ、アリスちゃん」


「? なにかしら?」

「シィのこと、さん付けじゃなくて、愛称で呼んでいいよ?」


「ふぇ!?」

「だって、ロイくんと同じぐらい、アリスさんもシィのことを考えてくれて、助けようとしてくれたんだよね? なら、もしもアリスさんが許してくれるなら、シィはアリスさんの友達になりたいな」


「ふふ、なら私もアリスでいいわ」

「~~っ、うんっ、これからよろしくね、アリス」


「で、ところでシィは、これからきちんと登校するのよね?」

「ほぇ!?」


 目を逸らして泳がせるシーリーンは、人差し指をツンツンさせる。

 そして自信なさげに――、


「いや……あの、その……、前向きに検討すると言いますか、できる限り善処すると言いますか……」

「まるで引きこもりのような誤魔化し方だよ……」


「もちろん学費だってタダじゃないし、卒業はしたいし、えっ、と……、うん。それは当然、登校すべきっていうのはわかっているんだけどね……?」

「シーリーンさん、せっかく弟くんがジェレミア卿を倒したのに……」


「そ、っ、それはシィもわかっています。でね? もう不登校の生活に慣れたから、突然登校するようになるのは難しいんじゃないかなぁ、って……、だから――」

「だから、なにかしら?」


「アリスちゃん、顔が怖い……」

「シィ~? 続きは~?」」


「あのね? ロイくん?」

「おっと、突然ボクに振られた」


「毎日、シィと一緒に登校してくれる?」


 上目遣いで瞳を潤ませ、遠慮しがちにシーリーンはロイに訊く。

 別に本人は狙ったわけではなかったのだが、それに対してアリス、イヴ、マリアがなにか言う前に――、


「うん、いいよ。ボクも恋人と一緒に登校とか、してみたかったし」

「えへへ♡ ありがと、ロイくん♡」


「シーリーンさんだけズルい! わたしも一緒に行くよ!」

「ひぇ……、アリスさん、なんだかとんでもなく怖いお顔していませんかね……?」

「べ、別にっ、マリアさんの気のせいです!」



 こうして、ロイの学院生活は幕を上げた――、

 ――最初のヒロイン〈永遠の処女〉を攻略して。


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