5章14話 その後の日常で、賑やかで大切な平穏を――(1)



 ロイが学院に復帰すると、その日だけで5人の美少女に告白された。

 そしてその誰もが、「この前の決闘を見て好きになりました!」みたいなことを言っていた。


 無論、ロイだって男の子だ。正直、告白されてイヤな気はしない。

 しかし――、


「ダメダメ! ぜ~ったいに、ダメ!」

「ああ~~……、そういうわけだから、ゴメンね?」


 告白の瞬間、どこからともなくイヤな感じを嗅ぎ付けたシーリーンが介入してきて、ロイの代わりに美少女たちの告白を全て断った。


 そして今、2人は放課後の学生食堂にいる。

 2人向かい合って座っていた。


「むくぅ……」

「ど、どうしたの、シィ?」

「わかっているクセに!」


 幼い感じに頬を小さく膨らませてご機嫌ナナメなシーリーン。

 自分の恋人が他の女の子に告白されたのだ。


 ヤキモチを妬き、不満で、少し悲しくて、少し寂しくて、切なくて、モヤモヤしてしまって、要するに拗ねているのである。

 そしていじらしいことに、拗ねている自分の姿をロイに見せて、かまってほしかったのだ。


「シィは一夫多妻制に反対?」

「種族柄、抵抗は特にないけど、シィが認めた女の子じゃないとダメだよ? 今日の女の子は、全員認められないもんっ! あのシィのための決闘を見て告白するなんて!」


 言うと、シーリーンは小柄なのにマリアよりも大きい胸を張った。

 で、その時だった。

 2人のいるテーブルに、とある物、が、運ばれてきた。


「こちら、クリーム&ストロベリー&チョコレートパフェになります~」

「わぁ!」


 そう、以前シーリーンが食べられなかったパフェを、今日ここで、もう1度頼んだのだ。

 もう、女の子限定メニューを頼んでも、シーリーンを笑う人はどこにもいない。


 それは当然、まだシーリーンをイジメようと企んでいるイジメっ子もいるかもしれない。

 しかしシーリーンの隣にはロイがいる。ロイが隣にいるのに、わざわざその状況でシーリーンを笑うバカは流石にいない。笑ったら、本気でロイに殴られる可能性すらあるから。


「ロイくんっ、これ、本当にシィが食べてもいいの?」

「もちろん」


 ロイは笑顔で頷いた。

 許可を得る必要などないのだが、ロイから許可を得ると、シーリーンは心の底から幸せそうに、目尻に少しだけ涙を浮かべながら「美味しいっ!」と、満面の笑みでパフェを食べる。


 嬉しそうで、幸せそうで、見ているこっちまでそう思えるヒマワリのような笑顔。


「ロイくん、ありがとう。シィがこうやってパフェを食べられるのも、ロイくんのおかげだよ♪」


 感謝されると、ロイは本当に満たされた気持ちになる。

 満足だ。今の自分の心は充実している。


 だからロイは、パフェを美味しそうに食べるシーリーンを眺めて思う。


(嗚呼――、この笑顔を取り戻せただけで、戦ったかいはあったかな――) と。


 そこでふいに、ロイとシーリーンのところに誰かがくる。

 アリスと、イヴと、マリアの3人だ。


 アリスはシーリーンの隣に、イヴとマリアはロイを挟むように席に座った。

 で、あろうことかイヴとマリアは、目の前にシーリーンがいるのに、ロイの腕に抱き付いて胸を押し当てるではないか。


「ほえ!? ちょっと! イヴちゃん! マリアさん!?」


「お兄ちゃん! シーリーンさんと恋人になったってどういうことなのよ!?」

「もう学院中で噂になっているんですからね!?」


「お兄ちゃんはわたしのお兄ちゃんなんだよ!?」

「弟くんは、私の弟くんなんですからね!?」


「ち、ちょっと、2人とも……っ?」

「うぅ……、イヴちゃんもマリアさんも、ロイくんから離れてください!」


「ハァ、やれやれね……」


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