ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
5章13話 月明かりの下で、世界一幸せな一瞬を――(2)
5章13話 月明かりの下で、世界一幸せな一瞬を――(2)
「シィは、シーリーン・エンゲルハルトは、ロイくんのことが大好きです。愛しています」
「――――」
その瞬間、ロイは声を出せなかった。
愛を告げるシーリーンが窓から差し込む月明かりに照らされて、どんな宝石よりも、どんな妖精よりも、愛おしいほど美しかったからだ。
月の光を浴びてキラキラ瞬く金色の長髪も。
つぶらでパッチリしていて、二重で黒曜石のようなあどけない瞳も。
白くて細い指も、滑らかな首筋も、赤らんだ頬も。
まるで『女の子らしさ』という概念の完成品と言っても過言ではないほど、女の子らしかった。
「あなたの優しいところが好きです。優しいだけじゃなくて、それを貫くカッコよさが好きです。人のために立ち上がって剣を握れる勇気が好きです。勇気があるだけじゃなくて、それを諦めない強さが好きです」
「――――」
「今すぐ、あなたに抱きしめてほしい。頭をなでなでしてほしい。耳元で、告白の返事を囁いてほしい。そして、こんなシィだとしても、キス、してほしいです」
「――――」
「シィは、あなたの全てが大好きです」
「――シィ」
ふと、ロイはシーリーンを抱きしめた。
そしてそのまま、彼女をベッドに押し倒すが――、
「……っ」
一瞬、戸惑ってしまう。
このまま、彼女の初めての秘密の夜を奪っていいのか?
自分はこのまま彼女を愛していいのか?
これでシーリーンは幸せになるのか?
まだ出会って少ししか経っていないのに?
戸惑いはもちろんある。でも、他にも、緊張もあるし、不安もあるし、動揺もある。
要するに、迷って、迷って、それで前に進めない。
「――ロイくん」
ロイが逡巡していると、彼の頬に、シーリーンの手が触れた。
やわらかくて、そして温かい。まさに女の子の手という感じがする。
「もしイヤなら、無理して、我慢してシィを抱かなくてもいいんだよ?」
「なっ……」
「えへへ……シィは、女の子であることを拒絶されることなんて、慣れているから」
優しい声で、優しい微笑で、シーリーンはロイに逃げ道を用意してあげる。
しかし、それが強がりということはバレバレだった。
(答えは決まっている)
ロイは自分自身に心の声で言う。
あのシーリーンが、自分が女の子であることに懐疑的で不安を覚えているシーリーンが、男の子である自分に告白して、そして、本心では抱きしめてほしがっている。
きっと、精一杯の勇気を振り絞ったのだろう。
彼女の肩は小さく震えていて、不安で少しだけ泣きそうだ。
イジメが終わっただけで、今の時点のシーリーンの自分に対する価値観が直るわけではない。
そして、きっとこれが、直るための第一歩。
自分はジェレミアを倒して、そして彼を否定したんだ。
そんな自分が、シーリーンの『女の子であること』を受け入れなくてどうする。
あるイジメっ子は、シーリーンのことを、将来の娼婦と言った。
またあるイジメっ子は、シーリーンの性に関することをからかった。
また別のイジメっ子は、シーリーンを汚いとバカにした。
(そんなこと、あるわけないじゃないか!)
男の子にしろ、女の子にしろ、自分の性を否定されるなんて許されないことだ。
自分の性をバカにされるなんて、残酷なことだ。
そして――、
シーリーンが、自分のことを好きだと言ってくれた女の子が、ここまで頑張っているのだ。ここで優しく抱きしめてあげないでどうする。
だから――、
ゆえに――、
ついに――、
「ボクも、シィが好きだ。ずっと、ずっと、キミを守りたい」
「~~~~っ」
「シィ、目を瞑って」
「はい、――、――、――んっ」
「――――」
2人の唇が重なる。
出会ってまだ少ししか経っていない?
そんなこと、知ったことではない。重要なのは、今と、そして本人の気持ちだ。
ロイはシーリーンを守りたかったのである。
ならば、守ったあと、その先の責任も取るべきだろう。
それで、数秒後、お互いに唇を離すと、シーリーンが「ふはぁ」と息継ぎをした。
「ねぇ、ロイくん?」
「ん?」
「その……えっ、と、初めての女の子は、嫌い?」
「嫌いな男の子なんていないよ」
「――よかった」
シーリーンは安堵すると、ロイの首に腕を回して、彼の身体を引き寄せる。
「シィのスキル、以前話したよね?」
「うん」
「シィの一族に伝わるスキル〈
「と、いうと――」
「ふふ、〈終曲なき永遠の処女〉の効果は3つ。創造主よって完璧な女性として作られたと伝えられているシィたちは、汗やツバ、排泄物ですらも、一切の穢れがない清らかなモノになっている」
確かに、ロイはシーリーンにキスした時、彼女の唇に付いているツバに触れたが、甘かった気がする。そう、ロイはまだ知らないが、女の子の肌もしょせんは人間の身体。どんなに幻想を抱いていても、味なんて普通、するわけがない。しかし、シーリーンの身体、そして汗やツバは、この世のモノとは思えないほど、蕩けるぐらい甘い。
「そして、相手の男の子の精力強化。1晩で100人と交われるぐらい、男の子の精力を強化、増加するの」
「最後は?」
「最後のこれが、シィたち特有のスキルが永遠の処女なんて言わせる
「それって――」
「前にも言ったけどね? シィは、朝日が昇るのと同時に、処女膜が再生するんだよ♡」
そしてシーリーンは――、
ロイの耳元でこう囁く――、
「ロイくん、毎日シィの初めてを奪ってね?」
この日の夜。
初めてシーリーンは、自分が女の子であることを心の底から大切にできて、自分の種族のことも、心の中で折り合いが付けられた。
ロイとシーリーン。2人で秘めたお互いの肌。
その光景を月と星だけが見守っていた。
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