ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
4章15話 決意の中で、少年は――(2)
4章15話 決意の中で、少年は――(2)
「キミぃ! わかっているのか!? 今キミが殴ったのは貴族の息子だぞ!?」
「ろ、ロイ! 気持ちはわかるけれど、その……っ、と、とにかくマズイわ!」
拳にわずかに血が付いたロイ、初手でここまでするとは思っておらず、慌ててオロオロし始めるアリス、そして唇を斬って地べたに尻餅を付いているジェレミア。
やがてこの3人を囲むように、少しだが野次馬ができ始めていた。恐らくは馬術部のメンバーだろう。
「ジェレミア、このままやられっぱなしじゃ、キミの貴族の息子としてのプライドが許さないよね?」
「なにを当たり前のことを……っ」
「だったら、ボクと決闘しよう」
「「は?」」
「「「「「えっ!?」」」」」
アリスとジェレミア、そして野次馬の声が重なった。
この騎士は今、ジェレミアを相手に、あの幻影のウィザードを相手になにを提案した?
そこにいた者は全員、当のジェレミアも含めて唖然とする。
ロイは剣術、近接戦闘を得意とするナイトで、ジェレミアは幻影魔術、即ち遠距離から一度でもそれをキャストできれば勝利確定のウィザードだ。
当然、ジェレミアは幻影魔術だけしか使えないわけではない。
切り札を最大限活かすために敵を近付けさせない魔術も習得している。ゆえに相性は最悪と言い切ってもいいだろう。
「ふふ、……フハハハハハ、アハハハハハハハハハハ!!!!!」
ジェレミアが不気味に哄笑を響かせ、頬を抑えたまま立ち上がった。
静かに怒りを燃やすロイに、愉快で愉快で仕方がない様子のジェレミア。
2人は野次馬の中で相対して、各々の想いを込めて睨み合う。
「ダメよ、ロイ! 撤回して!」
「ダメだね! もう撤回なんて許さない!」
アリスがロイに懇願するも、一度彼の方から提案した以上、ここはジェレミアの主張が採用される。
だがロイとしても、ジェレミアが仮に撤回を許そうが、引くつもりは微塵なかった。
「キミぃ、正気かい? このオレに決闘を挑むなんて」
「冷静に考えたら、確かにボクはとんでもないことを口走ったかもしれない。でも――」
「アァ?」
「――ボクは決めているんだよ。なにかに迷ったり悩んだりしたら、人として美しい道を選ぶって。そうすれば、後悔することはあっても、自分を嫌いにはならないから」
「ケッ、気に食わないねぇ! さっきはオレに反撃なんてできなかったクセに!」
「謝るよ。泣いている友達が近くにいたから、キミにかまってあげられる暇がなかったんだ」
貴族、それも幻影のウィザードと呼ばれるほど才能に恵まれ、プライドの高いジェレミアをロイは挑発しまくる。
当然、ジェレミアはその発言が気に喰わず、誰にも気付かれないように奥歯を軋ませた。
翻り、ロイはすぅ、と、一呼吸して自らの気持ちを落ち着かせる。
そして――、
「改めて、ロイ・モルゲンロートはキミに決闘を申し込む!」
「ジェレミア・シェルツ・フォン・ベルクヴァイン! その決闘、受けて立つ!」
「こちらが勝った場合に要求するのは、ボクの無礼を全て帳消しにすること。それと……っ、シィに対するイジメの恒久的な禁止と、それを全校生徒の前で宣言することだ!」
「ならこちらが勝ったら、キミには全校生徒の前で土下座でもしてもらおうかねぇ! ジェレミア様、逆らって申し訳ございませんでした、って! アッハッハッ、そしてその後は1週間ぐらい、全裸で暮らしてもらおうか!」
一応、ロイのやり方は合理的だ。
普通のケンカでは、平民が貴族の子どもにケガなんて負わせられるわけがない。ケガなんてしなくても、1回殴ればそれだけで貴族の親から呼び出しを食らうだろう。
しかし決闘は別だ。
その最中、あるいはそこに到達するまでのやり取りならば、貴族のことを平民が攻撃しても、少なくとも法的に罰せられることはない。
決闘は国が法で定めたモノである。そのようなモノで決めた約束事を、まさか貴族が反故になんてできるわけがなかった。
ゆえに今回の場合は、ロイが勝てばたとえジェレミアが貴族の血筋だったとしても、約束は守られる。シーリーンはイジメから解放される。
無論、ジェレミアはこの決闘を断ることもできるが、このようなところで頬を殴られたのに、そして、自分の魔術は学生最強レベルなのに、断るなんてありえない。むしろ、この状況で断る方が貴族の面目が潰れてしまう。
ここまででロイのやり方に穴はない。
問題は――、
――ナイトであるロイが、幻術を使うジェレミアに勝てるなんて、普通に考えたらありえないということ。
「なるべく早いに越したことはないよね? 週明けの放課後はどうかな?」
「かまわないさ、せいぜいオレを楽しませてくれよ?」
ロイは学院でも有名人である。ゴスペルホルダーにして聖剣使いなのだから当然だ。
一方で、ジェレミアも有名人である。学院に通っている貴族の息子、娘はそれなりにいるが、幻影魔術を使えるのは、この学院でジェレミアだけだから。
結果、この決闘が一晩のうちに学院の生徒ほぼ全員に広まったのは自明だった。
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