ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
4章6話 シーリーンの自室で、特別講義を――(2)
4章6話 シーリーンの自室で、特別講義を――(2)
「そういえば、ロイくんってすごく頭いいんだよね? すごいなぁ、憧れちゃう」
「ボク自身の努力の成果よりも、ゴスペルのおかげの部分が大きすぎるけどね。剣術の稽古も、魔術の訓練も、普通の勉強も、みんなみんな、一切苦痛に感じないんだよ」
「あっ、シィ、知っているよ? 〈
「うん、そうそう」
「ゴスペルホルダーって、カッコイイなぁ……。みんなが憧れるのも、よくわかる」
「とはいえ、ゴスペルを持って生まれたのは、完全に運のおかげだからね。だからこそ、それに見合うようなキチンとした大人にならないと、なんて思っているし、ボクはまだまだ未熟者だよ」
「ロイくんは立派だね。それに比べてシィのスキルなんて、そのぉ……、ぅ、なんていうか……、口にするのが恥ずかしいんだけど……、〈
「うん?」
「お……女の子、の、は、っ、初めての証……が、再生されるスキル、なの」
「ゲホっっ!?」
瞳を潤ませ、顔を真っ赤にして、俯いて所在なさげに身体を揺らしながらも、シーリーンは自らの事情を告白した。
まるで身体が燃えているみたいに恥ずかしい。それでもロイに明かしたのは、ただシンプルに、彼に知っておいてほしかったからだ。理屈なんて特になかったが、彼になら明かしても大丈夫だと思ったのである。
とはいえ、別になにかを飲んでいたわけでもないが、ロイは流石に咳込んでしまう。強いて言うならなにかを発音しようとして失敗して、唾液でむせるような感覚だった。
一応、思春期の男の子として、ロイにもそのスキルについて、詳しく知りたい気持ちはある。だが、人は建前を使えるのだから、冷静さを取り戻し、話の本筋の維持に努めることにした。
ちなみにこの世界では神様の女の子が言っていたとおり、ゴスペルはスキルの上位互換と認識されている。戦闘に使えるか否かはともかく、ゴスペルホルダーはかなり少なく、能力の内容も極めて珍しい。
一方でスキルは親から子へ遺伝することが多く、例えばシーリーンの祖先の場合、〈終曲なき永遠の処女〉を受け継いでいない個体の方が珍しかった。
「やっぱり、そのスキル……」
「うん、イジメの対象だね……。男の子からはからかわれるし……、女の子からは気持ち悪がられるし……」
悲しそうに、シーリーンは目を伏せた。
自分の身体的な特徴、それも、思春期の女の子なのに性に関することを弄られるのは、シーリーンでなくてもかなり不快なことだろう。
「ねぇ、シィ」
「ん? なにかなぁ?」
「シィは、自分で自分のスキルを、どう思っている?」
「どう、って……?」
「誰かに話したくて、でも話せなくて、溜め込んでいることとか、ないの?」
「――本当はね? このスキル、神話の時代から受け継がれている、自分の一存で途切れさせてはならない、大切なモノだって思っているよ? でも……」
「でも?」
「なんで性に関するスキルなのかなぁ、って」
「――そう、だよね」
「エルフが魔術の適性に長けているように、ドワーフが手先の器用さで誰にも負けないように、もっと周りから受け入れられるスキルはなかったのかなぁ、って」
「うん、イヤだよね……。ボクたちは1人で生きていくことはできない。それなのに、孤独を強制されたら……」
「ふふっ、ロイくんはわかってくれるんだ、シィのこと。悔しいよね。もっと別の遺伝だったなら、コンプレックスなんて、覚えなかったのに……。逆に友達を作って、みんなに自慢できたのに……」
「でもね、シィ」
「――ぅん?」
「1つだけ、シィにも間違っているところがある」
刹那、シーリーンの身体が強張った。
また否定される。身体が傷付けられなくても、人には心があるのだ。ロイなら理路整然とした意見を言ってくれるだろう。だがそれでも、怯える気持ちを、一度抱いた感情をなかったことにはできない。
しかしロイはそれを察した上で、シーリーンに告げた。
彼女を安心させるように、優しく穏やかな声で。
「シィが自分にコンプレックスを抱いていることは、誰かがキミをイジメていい理由にならないんだ。それだけは、覚えていてほしい」
「ほえ?」
「というよりシィに限らず、イジメの理由、いや、口実があったとしても、それは免罪符にならないんだよ。だからはシィは、なにも悪くない」
「――ロイ、くん――――」
ふいに、シーリーンの胸が高鳴った。1回だけだけど、一瞬だけだけど、キュン、と、胸が切なくなったのだ。
頬が乙女色に染まっているのを自覚できる。胸がドキドキして、顔が熱くて、身体が溶けてしまいそうで、ほんの少し息苦しくて、緊張している。でも、それが全然、イヤではない。むしろ身も心も蕩けるように、とても心地の良い感覚だった。
友達のはずなのに、出会ってまだ少ししか経っていないのに。
なのになぜか、ロイの顔を恥ずかしくて直視することができなくなってしまった。ほんの数秒前まで勉強を教わっていて、何度も顔を見合わせていたのに、どうにもこうにも、心が落ち着かなくなってしまったのである。
「ねぇ、ロイくん――」
「なにかな?」
「シィ、ロイくんには、シィの事情を、全部知ってほしい」
「――うん、ゆっくりでいいからね」
返事をするロイ。
それを確認すると、シーリーンは、ゆっくりと、不安そうに語り始める。
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