ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
4章5話 シーリーンの自室で、特別講義を――(1)
4章5話 シーリーンの自室で、特別講義を――(1)
ロイはシーリーン、イヴ、マリアの3人と一緒に、遅くならないうちに寄宿舎に戻ってきていた。
現在、イヴは友達になった同級生の女の子と庭でテニスの真似事をし始めて、マリアは自室で小説を読んでいるらしい。
そしてロイに関して言えば、彼は今、シーリーンの自室にて彼女の勉強を見てあげている真っ最中である。
椅子を貸してもらったロイの隣では、同じくシーリーンも椅子に座り、教科書と問題集とノートを広げ、一生懸命に頑張ってた。
(そういえば、この世界のこの時代にもテニスみたいな遊びはあるんだね。いや、確かボクの前世でも、テニスの原型は中世の時点ですでにあったらしいし、この世界に存在していてもおかしくないけど……)
不意に(思えば遠くへ来たものだ)なんて少しセンチメンタルになりながら、ロイは窓の外の夕焼けを見てボンヤリと思った。
西の彼方に夕日が半分沈んでいて、斜陽が王都の街並みを、煌々と燃え盛るような茜色に染め上げる。
ビルやマンションや鉄塔なんてあるわけもなく、まだ王都に来て日も浅いのに、赤らむ近世のような世界は、故郷の夕暮れ時のように懐かしい。
記憶にあろうとなかろうと、人はこういう自然に近い景色に、心が奪われる生き物なのかもしれない。
暗くなった部屋を明るくするために、壁面に設置されたガス灯が音もなく、淡いオレンジ色を放ち静かに揺れる。換気は1時間に1回と言われていたが、窓は開けっ放しの状態だった。
そこから風が吹き込むと、隣で勉強を頑張っていたシーリーンから、甘くていい匂いがしてくる。ミルクのような匂いというか、バニラのような匂いというか。とにもかくにも胸が切なくなり、
そこでふと、シーリーンの横顔を見ていたロイに、彼女の方から話しかけた。
「ロイくん、ここ、教えてくれる?」
「えっ? あぁ、魔術と物理学の相関問題だね……。魔術の教科書だけじゃなくて、物理学の教科書を開いてみるとヒントがあるよ」
シーリーンは今、不登校でもいつか講義に出席した時に困らないように、ロイに教わり少しずつ後れを取り戻しているのだ。
2人並んで勉強している姿は、人によっては恋人同士のように映るかもしれない。
「むぅ……直接答えを教えてくれてもいいのにぃ……」
「いやいや、暗記科目に近い問題なんだし、そこまでは教えられないかな」
「ロイくん、先生みたい……」
「それに、それだとシィが自分で解いたことにならないでしょ?」
一瞬だけシーリーンは頬を子供っぽく膨らませるも、すぐに楽しくなって笑顔になる。
表情がコロコロ変わり、一緒にいて楽しい女の子というのは、今のシーリーンみたいな女の子のことだろう。ロイとしては学院では無理でも、こうして寄宿舎の中でだけでも笑ってくれるならば、なにも言うことがないぐらい満足だった。
「む~ん……魔術学では『3つの媒体』と、それを元にして成り立つ『3つの波動』と呼ばれるモノがあります。『3つの媒体』とは空気と『 Ⅰ 』と、そして『 Ⅱ 』のことです。空気の波動が『Ⅲ』になるように、そして『 Ⅰ 』の変化を伝える波動が光になるように、『 Ⅱ 』の波動も『 Ⅳ 』と呼ばれるモノになります。む~ん……電磁場と、魔力場と、音と、魔力っと」
(そういえばこの世界、理論と実用化された技術の齟齬が大きいんだよね……。光とか電磁場とかについてある程度、科学的な研究が進んでいても。まぁ、確かに拳銃よりも
「う~ん、『 Ⅴ 』とは『Ⅲ』を利用して、周囲に漂っている『 Ⅱ 』に、空気ごと波を立てる行為です。これによって『 Ⅳ 』が成り立ちます。――『 Ⅴ 』は詠唱、かな?」
「うん、今のところ全問正解だね」
「ホント!? よかったぁ……。流石にこれぐらいはできないとだし」
「じゃあ、次――しかしただの『Ⅲ』は言語でも音楽でもありません。また、単一の光は景色でも写真でもありません。なので同じように、ただの『 Ⅳ 』は『 Ⅱ 』の波動なだけであって、この時点では『 Ⅵ 』には至っていません。
ですので『Ⅲ』の『 Ⅶ 』が言語や音楽になるように、まさに音楽のコード進行、その魔術バージョンである『 Ⅷ 』進行に基づき、『 Ⅳ 』を『 Ⅶ 』て『 Ⅵ 』は完成、発動します」
「えとえと……魔術、組み合わせ、術式、よし♪」
「あれ? 正解だけど、魔術と物理学の相関問題、次のページなかったっけ?」
「ほぇ、次?」
「質量保存の法則とエネルギー保存の法則がある以上、魔術を使っても、宇宙全体の質量とエネルギーは増減できない、とか」
「あっ……その、これ、中等教育上位の問題集で、実はそこまでは……」
「なるほど、ってことは、イヴがボクに泣き着くとしたら、このあたりの問題なのか」
「……気にしないの?」
「気にしてほしいの?」
「ふふっ、ロイくん、疑問文に疑問文で答えている」
「ほら、あと1問でこのページも終わりだよ」
「えぇ~と、まとめとして、物理学が研究者の任意の『 Ⅸ 』を用意して、どのような『 Ⅹ 』が引き起こされるかを追及する学問なら、『 Ⅵ 』とは引き起こしたい『 Ⅹ 』を指定して、世界に物理学的な『 Ⅺ 』を丸投げしてしまう技術なのです――物質、現象、辻褄合わせ。はい、終了!」
褒めてほしそうに、シーリーンはロイにノートを見せた。
物理学が研究者の任意の物質を用意して、どのような現象が引き起こされるかを追及する学問なら、魔術とは引き起こしたい現象を指定して、世界に物理学的な辻褄を合わせを丸投げしてしまう技術。
要するに――『焔で相手を攻撃しようとする場合、虚無から焔を生むのではない』『自然が著しく調和を崩さないように、巨視的に攻撃の材料を集め、解除したあとでも影響を
時属性と空属性の魔術にはまだ多くの未解決問題があるが、中等教育下位の魔術学の範囲なら余裕で正解だ。
ロイは前のページも全部確認し終わり、シーリーンのノートに100点と書いてあげる。
「やったっ! 100点だ!」
「ここらへんは完璧に覚えているし、明日の夜から、2学年次後期の内容までやってみる?」
「が、頑張る!」
「うん、頑張ろう」
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