ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
4章4話 医務室で、シーリーンとアリス、イヴとマリアと――(2)
4章4話 医務室で、シーリーンとアリス、イヴとマリアと――(2)
「シーリーンさんって、お兄ちゃんのことをどう思っているの?」
「アリスさんは恐らく安心ですけど、シーリーンさんは……」
「ふ、普通に友達です! シィは、その……、えっ、と……そ、そう! せ、性に関する魔術が種族柄、長けていて、イジメっ子から、い、イヤなからかい方されますけど、でもでも! そう簡単に男の子に惚れたりしませんので!」
不意に、その場の雰囲気がぎこちなくなる。
暗いというわけでも、重いというわけでもない。
が、強いて言うなら、気まずい。
一瞬、いろんなことに寛容なロイでさえ、シーリーンに対してどう反応すればいいか、わからなくなってしまった。
他人との会話における自虐ネタの不発。
部屋に引きこもっていたから仕方のないこととはいえ、シーリーンはコミュニケーションが苦手なのも事実だろう。
「やっぱり私、シーリーンさんのことをイジメるヤツらが許せないわ! 風紀的にはもちろん、そしてそれ以上に人やエルフとしても!」
「ほぇ!?」
シーリーンはウソ偽りなく自虐ネタのつもりで言ったのだが、イジメられっ子のそれは本人の予想以上に空気に響く。
ロイからしてみれば、正義感の強いアリスがこういう反応をするのは、自明の理と言ってもいいほど当然だった。
「ま、まぁまぁ、アリス、落ち着いて」
ロイが落ち着かせると、渋々といった様子で、アリスは一度、深呼吸した。
よくよく考えてここで苛立っても、ここには苛立ちをぶつける対象であるイジメっ子がいないことに気付いたのだろう。友達しかいない状況でイライラしても、みんなに気を遣わせてしまうだけだった。
「それにしても弟くん、よく医務室登校なんて思いつきましたね!」
「えっと――」
気分を一転させるために明るく言うマリアに、ロイは一瞬だけ口ごもる。
で、この世界の常識に照らし合わせて無難な答えを思い付くと、一拍置いて会話を再開した。
「ほら、剣術とか魔術の稽古でケガしちゃうことって、どうしてもあるよね? そうなった時でもみんなに遅れないために、前々から考えていただけだよ」
「それでもわたしはすごいアイディアだと思うよ!」
「そうですね。すごいと言いますか、提案されれば、あぁ~、納得、って感じですけど、そもそも普通に考えたんじゃ、誰かに提案するところまで、辿り着きませんからね」
「というより、思い付いても他人のために行動を起こす人なんて少数派よ。シーリーンさんのために、医務室の先生にまで掛け合ってまで」
「改めましてになるけど、ありがとね、ロイくん♪」
どうやら無難に乗り切れたようであった。
いや、4人もの女の子に褒められるあたり、無難どころか最高の乗り切り方だったと言えるだろう。
「あっ、そういえば……話を遮って申し訳ないけど、みんなに話しておきたいことがあるんだ」
「なになに?」
「ふふっ、もしやお姉ちゃんにデートのお誘いですかね?」
本気ではないものの、ロイをからかうためにマリアはあえて冗談を口にした。
が、ロイはむしろ、まるで便乗するように――、
「えっ? なんでわかったの?」
「――――ぇ、あっ、お、弟くん、ホント、ですか?」
「デートだよね?」
「デート、ですね」
目と目があうロイとマリア。
そこでロイはあっているよ言わんばかりに優しく微笑み、マリアもそれにつられて、心底嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。
「姉さんの言うとおり、実はボク、明日、シィと遊ぼうと考えて――」
「なんで今の流れでその相手がわたしじゃないんですかねぇえええええ!?」
だがその期待は1秒も持たずに崩れ去った。
マリアはテーブルに突っ伏し、頭を抱えて慟哭する。
「っていうかお兄ちゃん、それってどういうこと!?」
「ロイもシーリーンさんも、出会ってまだ3日目でしょ!? ハレンチだわ!」
「待って、アリス!」
「なによ!?」
「ボクはシィになにもするつもりなんてなかったのに、いったいなにを想像したの?」
「――――ふぇ」
顔を真っ赤にするアリス。
数秒後、彼女は全てをシーリーンに丸投げした。
「よかったわね、シーリーンさん。ロイ、ハレンチなことはしないって」
「アリスちゃん、たまにけっこうセコイ会話するね!?」
「ぐぬ……」
「風紀風紀と厳しすぎるからこそ、自分がエッチなこと考えた時、過去の自分に苦しめられるんだよ……」
「イヴちゃんにそんな論破のされ方を喰らうなんて……!」
「ダメですよ、イヴちゃん。真実は時に人を、そしてエルフを苦しめますから。そっとしておいてあげましょうね」
「マリアさんも私に追い打ちかけているじゃないですかぁ!」
「まぁ、それはともかく、シィと2人きりだと互いに緊張しちゃうし、だからみんなを誘おうと思って切り出したんだ」
「「「…………」」」
「ど、どうしたの……?」
「先にそれを言いなさいよぉ!」
「勘違いして恥ずかしい! ってわたしのあの感情はなんだったんですかねぇ……」
涙目でアリスはロイに文句を言い、マリアも微妙にいじけていた。
意外なことに、この場を一番少ないダメージで乗り切った女の子は、イヴということになるだろう。
「それで、どうかな?」
「改めて今この場でお返事するけど、シィは大丈夫だよ」
「もちろんわたしも大丈夫だよ!」
「わたしもですね」
「みんなが行くのに、私だけ行かないわけにはいかないじゃない」
「なら、全員集合できるってことで」
ロイがそれを確認すると、次にアリスかの質問が飛んできた。
「それで、具体的な時間や場所は?」
「明日の10時ぐらいに、学院の門の前、なんかはどう?」
「「学院?」」
イヴとマリアの疑問の声が重なる。
「学院の中で遊ぶの?」
「シィ、ちょっと惜しい。学院って言っても休日だから、クラブ活動で使っているエリアを避ければ、あまり生徒がいないよね?」
「うんうん」
「だから、シィのリハビリには丁度いいと思ったんだ。それに、流石に学院で夕方まで遊ぼうとは考えてないし、そのあとで、どこかシィの好きなところに行けたらなぁ、って」
「そ、そんな……休日までシィに付き合ってもらったら、みんなに悪いよ」
自信なさげに、シーリーンは上目がちにロイに遠慮した。
そこでふと、ロイは自分以外の意見も伺ってみる。
「ボクはそんなことないけど? アリスは?」
「私も全然平気よ。イヴちゃんは?」
「わたしも大丈夫だよ! お姉ちゃんは?」
「もちろんOKです。ふふっ、当然ですよね」
この場には誰一人として、シーリーンのことを迷惑だと感じている人たちはいなかった。
みな一様に、シーリーンの現状を放っておけなかったのである。
友達が困っていたら手を差し伸べる。
そんな当たり前なことを、4人はこともなしにやろうとした。
「もちろんシィが、まだ自分には早い、みんなと一緒だと少し疲れちゃうな、って、そう思うなら無理強いしない。っていうかその場合、ボクの方が勝手に話を進めたから、謝らないといけないぐらいだし」
少しだけ情けなさそうにロイは笑う。
自分は誰かに優しくしたけれど、その相手の意見を聞かずに進む傾向にある。シーリーンの瞳には、ロイがそれを自覚しているように映った。
優しくて、いい人だな。
でもそれだけじゃなくて、不器用で、性格が可愛いかも。
理由はわからない。だけどロイの困ったような笑みを見て、シーリーンにそういう感情が芽生えたのは事実だった。
それを自覚するのと同時にシーリーンは、自分がロイに懐いた、ということも自覚する。だから今、彼女の中で答えは決まった。
「あ、あのね……? 2回目のお返事だけど、シィも、みんなと一緒に遊びたい。ダメ、かな?」
「そんなことないよ、誘ったのはボクなんだし。それじゃあ明日は10時に、学院の門の前で」
「~~~~っ、うん♡」
◇ ◆ ◇ ◆
「ところで弟くん?」
「なに?」
「流石に学院内で遊ぶことを、デートとは言わないんじゃないですかね?」
「ん? あれってボクをからかうための比喩表現じゃなかったの?」
「えっ?」
「えっ?」
その瞬間、ロイは察した。
「あっ、ゴメン、姉さん……割と本気も混じっていたんだね」
「いやいやいやいや! 謝らなくても大丈夫ですからね!? それだとなんかわたしが、いたたまれない感じになっちゃいますから!」
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