ヘヴンリィ・ザン・ヘヴン ~願いで現実を上書きできる世界で転生を祈り続けた少年、願いどおりのスキルを得て、美少女ハーレムを創り、現代知識と聖剣で世界最強へ突き進む~
4章2話 医務室で、シーリーンとアリスが――(2)
4章2話 医務室で、シーリーンとアリスが――(2)
「……正直に言うと、私は学院に登校すること、イジメに屈するのは心が弱いということ。そういうのを当たり前って考えていたし、今も考えている。理由としては……、その……、入学できたんだから登校しないのはもったいないし、イジメなんて加害者側が悪いに決まっているのだから、私なら絶対にやり返すし……」
「……うん…………」
「でも、私にとっての当たり前は、別にシーリーンさんにとっての当たり前じゃない。そのことをようやく、私もロイのやり方を眺めていて、まだ漠然としているけれどわかり始めたの。感性なんてみんな違っている、こっちの事実の方が、よっぽど当たり前だったのにね」
「風紀さん……」
「私は私の価値観を、なかなか直せないと思うし、直す必要もないと思う。シーリーンさんがシーリーンさんであるように、私も私だから。けれど……、価値観を勝手に押し付けて、強引に登校させるように引っ張るような真似をしたのは……、その……、エゴっていうか、1人で突っ走った暴走だったわ」
「えっと……、そ、の……」
「あなたのことを考えていても、あなたの都合は考えていなかった。だから、なんていうか……、あなたが付いてこないのも、やっぱり当たり前で……、そのぉ……ゴメンなさい」
「そ、そんなことないよ? 風紀さん……あ、頭を、上げて?」
アリスは言われたとおり頭を上げる。
一方でシーリーンも、膝の上に置いていた小説をテーブルの上に置いて、アリスの正面に立つ。
「えっと、風紀さん……じゃなくて、アリスちゃん」
「ちゃん付けで呼ばれるの、こそばゆいわね」
「シィはたぶん、クラスに顔を出せるぐらい明るい登校なんて、まだまだできない。けど、こうして、少しずつなら登校しようと思う。その気持ちは、シィにだってちゃんとある」
「――うん」
「えぇ、っと、ね? アリスちゃんは確かにシィからしたら、ちょっぴり強引で、なんていうか、期待に応えることはできなかった。けどね? 一緒に登校しようって誘ってくるのは、むしろすごく嬉しかったの」
「――そっ、か」
「だからこっちこそ、勝手に、シィを無理矢理に引っ張ろうとする敵、みたいな
言うと、シーリーンは照れくさそうにはにかんだ。
一方でアリスは照れてしまいツンツンした様子で、髪の先端を指で弄りながら顔を逸らした。
これで、いったん区切りのようなモノは付いただろう。
3人はテーブルの近くにあった椅子に座って話し始める。
「そういえば、医務室の先生は?」
シーリーンに対して、ロイが訊き、アリスが視線で返事を促す。
「学院の植物園で育てている薬草を取りに行ったよ? ロイくんたちよりも少し前にケガした生徒がきて、その子に使っちゃったら在庫がきれたんだって」
「まったく、もう、伝統あるこの学院の先生なんだから、在庫の管理ぐらいきちんとしてほしいわ」
いつでもどこでも生真面目なアリスが、腕を組んでプンプンする。
「で、シィ、これが今日の講義のノート」
「わぁ、ありがとうっ」
すごく嬉しそうにシーリーンはロイからノートを受け取る。そして小柄な体型に似つかないほど豊満な胸の膨らみの前で、大切そうにノートをぎゅ、っとした。
「ロイくんも、アリスちゃんも、えっと……優しいね、本当に嬉しい」
「そんなことないよ」
「ええ、困っている人がいたら助けるのは当然でしょ?」
「それもそうだけど、2人はシィのことをイジメない、蔑ろにしないんだなぁ、って」
顔に陰りを作って、シーリーンは寂しそうに、意図的に自虐染みた微笑みを作った。
そんなシーリーンの手を、ロイは自分の手で安心させるように優しく握る。
「ほえ!? ロイくん!?」
「ボクはシィのことを絶対に蔑ろにしないよ。そもそも、イジメってカッコ悪いじゃん」
「うぅ~~」
「ボク、そしてアリスも、キミの味方で、友達だから、またイジメられたら助けを求めてほしい。シィがどうとかじゃなくて、ボクが助けを求めてほしいんだ」
「ろ、ロイ、くん……手、痛い……」
「あっ、ご、ゴメン……」
どうやらロイは、昔のことを思い出してしまって、熱が入ってしまったようだ。最初は優しく握っていたのに、いつの間にか強くシーリーンの手を握っていたらしい。
しかしシーリーンも、間違いなくロイとは友達で、恋愛的な感情を抱いているわけではないが、男の子に触れられて、頬を乙女色に染める。
顔が熱くなって、胸の奥が、トクン……トクン……と高鳴った。
「ううん? 痛かったけど、イヤじゃなかったから……」
「ラブコメはよそでやってくれないかしら?」
ジト目でアリスが2人のことを睨む。
と、このタイミングで医務室の先生が戻ってきた。
3人は医務室を出て、特に学舎に居残ってすることもなかったので、帰宅しようとする。
ちなみにロイとシーリーンが寄宿舎に住んでいるのに対して、アリスは自分の家族の屋敷に住んでいて、毎日そこから登校していた。
そういうわけで、アリスだけ、帰り道の途中で別の方向に行くことになってしまう。
「それじゃあ、また明日」
「バイバイ、アリス」
「うん、また明日、アリスちゃん」
最終的に、ロイとシーリーンは2人だけで帰宅することに。
茜色に染まる西の空。紺青に染まる東の空。その中間は、まるで世界一美しいパステルパープルを基調にしたグラデーションとなっていた。まるで、アメジストのような空である。
「そうだ、シィ」
「ん? なにかな?」
「2日後って、休日だよね?」
「うん、そうだよ?」
「よかったら、ボクと一緒に遊ばない?」
「えっ?」
「ん?」
「え? ええっ? ええええええええええええええええええええええええええ!?」
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