3章10話 ノーパンで、金髪の美少女が――(1)



 ノーパンだった。


「きゃあ! ど、どいてぇえええええ!」


 ロイとイヴとマリアの3人は寄宿舎に戻ると、それぞれの部屋に戻ってくつろぎ始めた。

 しかし、ロイだけは(運よくシーリーンさんに会えないかなぁ)と思い、部屋を出て寄宿舎内を歩き始める。


 そして男子禁制というわけでもなかったので、最上階からの景色をみようと階段に向かったその時――、

 足を滑らせ、1人の女の子が落ちてくる。


「えっ、はぁ……っ!?」


 唐突だった。

 だが、あまりにも綺麗な美少女ゆえに、全てを一瞬で瞳に映せた。

 時間がほとんど止まってしまい、世界の全てがスローモーションになるような感覚さえ覚えたのだ。



 まず目に入ったのはその子の顔である。まるで赤ちゃんのような童顔で、目は大きく、唇は小さく、肌はとても白くて清らかだった。

 誰も踏み入れたことのない雪原のように白い柔肌。それはたった一瞬視界に入っただけで心の底から言い切れるほど、女の子らしくやわらかそうで、絹のように滑らかで、瑞々しさに溢れている。



 そしてその純白と、やはり赤子のように黒目がちな瞳が、互いに互いを美しく見せるように際立たせ合う。

 パッチリとした二重のまぶたと、可憐な長いまつげの中に浮かぶ、少し幼さを残したあどけない黒曜石のような瞳。

 常に潤ませているような庇護欲が芽吹くそれと、タレ気味のおっとりとした目尻は、とにもかくにも可愛らしくて仕方がない。



 そして川を流れる水のようにサラサラで、この世のものとは思えないほど美しい、宝石を糸にしたような金色のロングヘアーがふわりと舞う。



 身長は150cmを少し超えるぐらいで、155cmは絶対にない。

 だというのに、胸は身体の他の部分に回るはずの栄養を全部食べちゃったかのように豊満に膨らみ、服を大きく内側から押し上げていた。余すところなく手に収めようとしても必ず零れて、実際に今も、落下にあわせて上下に揺れるほどである。



 自分の身体は同年代の女の子よりも、かなり良好に発育している。

 ということを誤魔化せないレベルで、胸だけではなく、太ももをおしりまで、フワフワで、プニプニにしていて、抱きしめたら絶対に気持ちよさそうなルックスの持ち主だった。


 宙になびく髪から流れるバニラの香りと二重奏をするように、身体からはミルクのような甘い匂いがしてくる。

 それはもう、ウソ偽りなく頭が蕩けるほど官能的でさえあった。


 そして最後に見えたのは――、

 ――パンツを穿いていなかったからこそ見えた、純潔の乙女の花の楽園。



「へぐぅ!?」

「ぐえ!」



 可愛らしい声をあげる美少女。

 一方で、情けない声をあげるロイ。


 美少女の階段からの落下地点にロイがいたので、あろうことか、2人は激突して廊下に音を立てて倒れてしまう。

 しかも、ロイの顔面に、女の子がノーパンのまま花園を押し当てる形だった。


「ほぇ!? すみません、すみません、すみません、すみません!」

「い、いえいえ……怪我がないようならなによりです……」


 すると、金髪の美少女は立ち上がるも、太ももを切なそうにスリスリさせながら、頬を紅潮させ始めた。


「あれ? どこかお怪我でもしましたか?」

「重ね重ねすみません! お、おトイレ……を、その……我慢、していて……」


「っっ、し、失礼しました! どうぞ行ってください!」

「うぅ……、お詫びをしたいので、申し訳ないですがそこで待っていてくださいぃ!」


 そして3分後。

 唐突という言葉では足りないぐらい、想像を絶する展開を終えたロイは、なぜか先ほどの女の子の部屋のベッドに寝かされていた。


 当然と言えば当然だが、このベッドはこの女の子が毎晩使っている物だ。

 呼吸すれば自然と彼女の残り香が流れてくる。


「はい、ヒーリング完了! これで大丈夫のはずです」

「うん、そうらしいね、ありがと」


 女の子が癒しの魔術でロイの頭を癒し終えた。

 トイレを済ました女の子は、ロイが自分のせいで床に後頭部をぶつけたとわかっていたので、自室に呼び出して癒しの魔術をかけてあげたのである。


「えっと、キミは――」

「あっ、自己紹介がまだでしたね。シィは、シーリーン・エンゲルハルトって言います♪ 魔術師学部ヒーラー学科のシスターです。気軽に、シィ、って呼んでください!」


「ボクは――」

「ロイ・モルゲンロートくんだよね?」


 ヒーリングが終わったので、ロイはシーリーンと並んでベッドに座る。

 流石に寝転がったままなのはマズかった。


「知っているの?」

「あはっ、有名人だもん」


 屈託のない笑顔でシーリーンは応じる。


「ところで、1ついい?」

「ほぇ? なんですか?」

「非常に訊きづらいんだけど、どうしてさっき……、その……、パンツ、穿いてなかったの?」


 間違いなく女の子に訊くようなことではなかった。

 しかし同時に、好奇心を抑えられるようなものでもない。


 パンツを穿いていない女の子が階段から落ちてきたら、普通、どんな感情に基づくものであれ、事情を訊いておくだろう。


「その、シィって……あんまり学院には行ってないんだけど、このままじゃダメって思って……、今日は頑張って学院に行ったんだけどね?」


「うん」


「シィのことをイジメている女の子たちに捕まっちゃって、パンツ、脱がされちゃったんだ。あ、あはは……」


 その瞬間、ロイは罪悪感に駆られる。


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