3章5話 実戦演習で、女の子たちから歓声を――(2)



「はいはい! わたし、ロイくんと一緒にやりたい!」

「あ~っ、あたしもあたしも♪」

「わたしもロイくんとお近づきになりたぁい♡」


 講師が言うと、すぐに女子生徒が反応した。

 しかし、ロイは――、


「アリス、お願いできるかな?」

「えっ、私?」


「うん」

「理由は?」


「男子だと、後ろから刺されそう」

「ゴメンなさい、否定したいのに否定できないわ……」


「とはいえ真面目な話、アリスが一番、魔術の勉強頑張っていると思うし、それ以上に、今までボクと仲良くしてくれたから、かな」

「わかったわ。そういうことなら、一緒に頑張りましょう?」


 女の子たちから落胆の声が上がるが、ちゃんと友達をやっていたアリスの勝利だった。いや、勝ち負けの問題ではないだろうが、少なくとも2人には、他の生徒以上に信頼関係があったのだから。


 そしてロイとアリスと講師はいそいそとゴーレムとの模擬戦の準備を始める。


 とある1体のゴーレムに命令を入力する講師。

 一方、そのゴーレムの前方、50歩程度離れた座標にロイとアリスは陣取った。


 最後に、講師はゴーレムに命令を入れ終えると、ロイに一言だけ。


「ロイ、君は騎士学部だろう? 剣はあそこに用意したが……自前の剣を使うのか?」

「はい、用意してきましたので」


 確かに講師が指差した方には、車輪付きで移動が簡単な剣立てがあった。

 そこには数本の剣が並んでいたが、ロイは首を横に振って遠慮する。


 続いて、ロイはその場から一歩だけ前に出た。

 さらに続き、右手を前方の虚空にかざす。


 刹那、ロイの右の掌に、眩いばかりの純白の光と、神聖な圧力のようなモノで肌を痺れらせる黄金の風が渦巻いた。

 それは数秒をかけて髪と木の葉と砂埃を強くなびかせ、竜が唸るような音を響かせ収束し始める。



「 顕現せよ、エクスカリバー 」



 ロイが唱える。

 すると次の瞬間には、王に命じられ、颯爽と馳せ参じた騎士のごとく、彼の右手には聖剣・エクスカリバーが握られていた。 


 神々しく、人智及ばぬような聖なるオーラを強く感じる。

 理屈抜きで圧倒的で、絶対的で、だとしてもその外見は芸術的。まさに聖剣と呼ぶに相応しい一振りであった。


 エクスカリバーがロイの右手に顕現したのと同時。


「きゃあああああ~~っ! ロイくんカッコイイ♡」

「応援してるから頑張って~~♡」


「絶対に勝ってね! 応援してる!」

「ロイくんカッコイイところ、期待してるよ~~♡♡♡」


(足が速くてモテモテだった前世の男子って、こんな感じだったのかな……? 正直に言うとかなり羨ましい)


 女の子たちがとろけたような、白馬の王子様と出会えた乙女のような顔で、ロイにラブラブな声援を送る。

 彼に送る視線は熱っぽく、瞳は潤んでいて、頬も乙女色に染まり、表情はもはやデレデレになっていた。


「じゃあ、よろしくね、アリス」

「えぇ、こちらこそよろしくお願いするわね」


「まず、なにか簡単な合図でも決めておきたいんだけど……」

「援護射撃がほしかったら援護、防御してほしかったら防御。こんな感じで、ただ名詞を叫ぶだけの方が、即興タッグならわかりやすくていいと思うわ」


「うん、ボクもそれが一番いいと思う。あと、肉体強化に関しては、ボクが自分で調整した方がいいよね?」

「そうね。魔術師の方がやっぱり魔術の手数が多くなるし、常時発動状態の魔術はロイの方でキャストしてくれると嬉しいわ」


「最後に、一応確認だけど、ボクが前衛で――」

「――魔術師である私が後衛、でしょ?」


 アリスはロイに応えるように、にっ、とはにかんだ。

 それを受け取り、ロイはエクスカリバーを、彼の斜め後ろに下がったアリスは自分の右手を、眼前のゴーレムにかざし宣言を待つ。


 そして戦いの幕はついに――、



「模擬戦、開始ッッ!」

Ich凱旋 bete目指し um我は Kraft in果てなく den Armen渇望する, Geschwindigkeit腕には強さ in den Beinen und脚には Stolz darauf速さを, den Feind意志には im Willen zuを討ち往く besiegen気高さを! 」



 開幕速攻を狙い、ロイは肉体強化の魔術、【 強さを求める願い人 】クラフトズィーガーをキャストした。

 あの図体を疾さで翻弄するように、彼は風より速くゴーレムに突撃を仕掛ける。


 速い、速い、速い。

 それは生身の人間の限界に挑戦するかのような疾走だった。


 そして10秒もかからずロイはゴーレムの間合いに入り込む。


「GAAAAAAAAAA!!!!!」

「――――ッッ」


 ゴーレムは力任せに、土塊を圧縮して固めた剛腕を振りかざす。

 砲弾のように直線的な拳を、ロイは真横にかわし斬撃を与える隙を計算した。


 ロイの聖剣とゴーレムの剛腕。

 両者、互いに互いを攻撃の間合いに入れている。


「これ、当たったら一撃で飛ぶよね」


 アホみたいな破壊力の拳をロイは6回連続で避け続けた。

 圧倒的なパワーが長所である反面、ゴーレムは関節の可動域が狭く、小回りが利かない。


 ゆえに――、

(だからこそ一回でも防げば、懐に入れる!)


 轟、ッッッ、ッ! と、ゴーレムはおのが剛腕を再度振り上げる。

 振り上げただけ。ただそれだけの駆動音で地鳴りのような音が木霊した。


(少しずつ、相手のテンポより先に動く!)


 そしてさらに3回、ロイはただひたすらに攻撃を回避した。

 だが、臆していたわけではない。

 満を持していたのだ。


「今だ、防御お願い!」

Gottes其は Segen顕現 erscheintする聖き in diesem光彩、 Moment als神の御加護 heiligesは今、 Licht此処に! 【 光り瞬く白き円盾 】ヴァイス・リヒト・シルト!」


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