3章4話 実戦演習で、女の子たちから歓声を――(1)



 ロイとアリス、そして2人と同じ講義を受ける30名ぐらいの生徒たち。

 彼らは実戦演習の講義のために、グラウンドに集合していた。


 空はどこまでも青く晴れ渡っており、かといって過度に気温も湿度も高くなく、身体を動かすには絶好の日和ひよりだろう。

 グラウンドにはすでに男性講師が到着していて、彼の背後には10体ぐらいの粘土でできた、寸胴な人型のオブジェがある。


 大きさは3mぐらいで、色は黄土色、額に相当する部分には『 אמת 』と記された羊皮紙が貼り付けられていた。

 前世でファンタジー小説を愛好していたロイは知っている。


 これは、ゴーレムだ。


 しかし、こちらの世界に来て実際にお目にかかれたのは初めてである。

 少しばかり童心に帰ったように、ロイは浮足立って隣のアリスに訊いてみた。


「ねぇ、アリス」

「? なにかしら?」


「確か、額に貼り付けられた羊皮紙に書かれている文字、『 אמת 』って、グーテランドの言葉に直すと emeth真理 って意味だっけ?」

「えっ? よ、よく知っているわね……」


「で、ゴーレムを破壊する時には emeth から1文字消して『 מת 』にすると、グーテランドの言葉に直すと meth死んだ って意味になるから破壊できる……だよね?」

「…………」


「あれ? アリス? なにか変なこと、言っちゃったかな?」

「負けたわ……」


「なんで!? 意味がわからないよ!?」

「私も昨日予習して初めて知って、ドヤ顔で講義受けるつもりだったのよ……。しかも、なんでそんなキラキラした子どもみたいな瞳で、学術的なことを語れるわけ……?」


「えぇ……」


 ロイは田舎者である以上に異世界人なのだ。

 彼本人としてはウソ偽りなく、目の前に本物のゴーレムが現れて、興奮を抑えきれずに現地人に確認を取った。その程度の認識でしかない。


 だが振り向けば、ここにいた全女子生徒から熱っぽい視線を送られていた。


 ある女の子は恋愛的に瞳を潤ませて、またある女の子は憧れと恋愛感情が混じった視線をロイに向ける。

 他にも別の女の子はシンプルに尊敬の眼差しで見つめて、さらに別の女の子はロイに勉強を教えてほしそうに、上目遣いをしていた。


 そしてさらに言うなら、一部の男子からも(モテていてムカつくけど、それでも勉強してんだな)という目で見られ始める。


「ロイ・モルゲンロート。君はその知識をどこで?」


 ふと、講師の男性が訊いてきた


「えっ? その……昔、小説で読んだので」

「なるほど」


「はい」

「いいかい、ロイ・モルゲンロート」


「なんでしょうか?」

「普通」


「普通?」

「小説に」


「小説に?」

「そんなことは」


「そんなことは?」

「書いてない」


「またまた御冗談を」

「なぜ最後だけ復唱しないんだ……っ!」


 ロイの天然ムーブに、講師の男性が嘆いてゴーレムを叩き八つ当たりする。

 と、その時だった。


「きゃあ~~っ! ロイくん、すご~い♪ 今度、あたしに勉強教えて~♡」

「ねぇねぇ! 今度、わたしと二人きりで図書館に行きましょう? ねっ? ねっ?」

「ロイくんってやっぱり頭がいいんだね~っ! わたし、すごい尊敬しちゃうなぁ♡」


 ロイは女の子に群がられて、胸やら腕やらでもみくちゃにされた。

 ぱつんぱつんなボディの女の子には、腕にたわわに実った双丘を押し付けられて、背が小さい女の子には、正面から思いっきり抱き付かれる。他にも右からも左からも女の子からアピールされる。

 

「あ、アリス、た、助け……っ」

「こら! ロイが困っているでしょ! 淑女として恥ずかしくないの!? 風紀的に考えて、今すぐロイから離れなさい!」


「「「「「……実は一番くっ付いてる子が言ってもねぇ」」」」」

「なっ……べ、別に! 私と、ロイは、そんなんじゃ……。コホン! 普通に友達よ、友達! クラスメイトとして接しているのに、意識させるようなこと言わないで!」


 アリスの言うことを聞きそうにない美少女たち。

 そしてついに、講師が状況を見かねて口を挟んだ。


「諸君、もう講義は始まっているんだぞ? 単位、落とされたいのか?」

「「「「「はぁ~い……」」」」」」


 ここでようやくロイは女の子たちから解放された。

 それを確認すると、やっと、講師は講義を開始する。


「この講義は実戦演習だ。期末試験にレポートや筆記テストはなく、評価、点数は実技テストで決まる。そして――」


 一呼吸、置く講師。


「初回はみんなの実力を測るためにゴーレムと戦ってもらう! 一番手はゴーレムの倒し方を知っているし、ロイにでも頼もう」


「ボクですか?」

「あぁ、そうだ」


「ちなみに、理由を伺っても……」

「講義が始まっているのに女子とイチャついたから」


「し、私怨が見え隠れしていませんか!?」

「だがぐぅの音も出ないほどの正論のはずだ!」


 これでロイが戦うということで決定だろう。

 その結果、ロイのカッコイイところを間近で見られるかもしれない! なんて思い、女の子たちは黄色い歓声を上げるのだった。


「とはいえ、講師としては初回の講義でゴーレムと1対1は不安だ。ということで1人、パートナーを選んでくれ」


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