3章3話 教師にヒミツで、バレないように筆談を――(2)



「さて、授業に戻るぞ」


 言うと、講師は再び黒板にチョークを走らせる。

 翻ってロイとアリスは、講師がこちらを向いている時は筆談せず、板書するタイミングで背中を向いた時に、筆談を再開する。


『でも、ロイってシーリーンさんと会ったことないわよね?』

『うん。ただそれでも、困っている人、悩んでいる人には、力を貸してあげたいなって』


『やっぱりロイって優しいわね。あっ、でも――』

『?』


『シーリーンさんは人間とかエルフとか、メジャーな種族の女の子ではないから、そこだけ注意ね』

『人間の女の子じゃない、って、もしかして?』


『あまりこういうことを認めたくないけれども、シーリーンさんがイジメられている理由は、種族差別によるものなの』

『……具体的に訊いても、大丈夫かな?』


『?』

『力になりたいと言って、実際、有言実行しようと思う。なのに、事情も知らないで、なにか種族特有の悩みや悲しみに、土足で足を踏み入れちゃマズイと思うから』


 一瞬だけ、アリスは黙考した。


『彼女はいわゆる混血なのよ……。ニンフやルサルカ、他にはグゥレイグや東方の天女の血も流れているそうね』

『混血か……』


『しかも彼女の場合、イジメられている理由はそれだけじゃないのよ』

『他にもあるの?』


『……まず、種族スキルが恥ずかしい感じのヤツ』

『……なるほど』


『シーリーンさんの血には、むしろ神性が多く宿っていて、サキュバスやインキュバスのような悪魔とは違うのだけれどもね』


 サキュバスとは悪魔の一種で、男性とセックスをして、その精気を搾り取る性質、つまりスキルを持つ種族である。

『性』に関連するスキル、魔術の他にも『変身』のスキルや魔術に長けており、逆夜這いする男性の理想の姿に変身することで有名である。


 また『性』に関連するスキル、魔術の一種に、男性の残りの寿命を精液に変えるという魔術もあるらしい。

 インキュバスとは、サキュバスの男性版で、女性に夜這いをかける悪魔、という認識で問題ない。


『シーリーンさんの祖先と悪魔であるサキュバスは当然、正反対な性質の存在。なのだけれども、ただ1つ、どうしても同じところをあげるなら、『性』に関するスキルを保有していることだけは否定できないわ』


『なるほど……』

『真面目な話、神話と性的な営みは切っても切れない関係なのよ。だから当然、シーリーンさんのような女の子、種族だって、いても当然なのにね……。それに――』


『それに?』

『言ったでしょう? 彼女の場合、イジメられている理由はそれだけじゃない』


『3つ目もあるの!?』

『ニンフやルサルカ、グゥレイグとか、東方の天女とか。中には神話の時代から存在していた種族もあるらしいけれど、別に、空想の存在ではないわ。事実、シーリーンさんがこの学院に在籍しているし』


『つまり、遺伝や、敬っているかもしれない祖先までからかわれている、って状況でもあるのか……』

『そうね。だから低劣な男子が、サキュバスとの違いも理解せずに、彼女の性質を三重や四重の意味でイジメるのよ』


 ここで終業の鐘が鳴る。

 次の講義は実戦演習で、またもや他学科のアリスと一緒の講義である。


 そもそも、ロイとアリスは友達になった日の数日後、カリキュラムを組む際に、他の学部、他の学科、だけれどもなるべく一緒の講義を受けられたらいいよね。と、話し合っているのだ。


 で、なるべく一緒の講義を受けられるようにカリキュラムを組んで、2人揃って教務課に提出した。


 なのでロイとアリスは、他の生徒と比べても一緒に受ける講義が多い。


「さぁ、次の教室に行きましょう? モヤモヤしたままだとイヤだし、思いっきり身体でも動かしましょう!」

「うん」


 と、アリスに促されながら、ロイは教科書とノートを、カバンにしまう。


(そういえば、講義中にノートの端を使って女の子と筆談って、よくよく考えると、前世でボクがやってみたかったことの1つなんだよね)


 口元を緩めるロイ。


 さあ、次の講義は前述したように実戦演習。要するには実際の戦闘を念頭に置いて、模擬戦、戦いの訓練をする講義だ。


 となれば必然的に、エクスカリバーの使い手、ロイの見せ場である。


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