2章5話 自室で、妹と姉と――



「イヴちゃ~~んっっ!」

「おねえちゃ~~んっっ!」


 ロイの部屋にて、ひしっ、とイヴとマリアは互いに強く抱き合った。

 一先ず落ち着いたあと、ロイは机の前にある椅子に、イヴとマリアはベッドに並んで座る。


 イヴの子どもっぽい黒のツインテールに対して、マリアの大人っぽい黒のストレート。イヴのハツラツそうな紅のツリ目に対して、マリアの穏やかそうな紅のタレ目。

 対照的だろうが、そして2人は数回しか会っていなかろうが、姉妹、家族とわかるような外見をしていた。


「そろそろいいかな、姉さん」

「はい、どうぞ」


「どうしてこの寄宿舎に?」

「ズバリ、ここで暮らしているからですね。具体的には507号室で。街から帰ってきて、5階に着くまでおトイレを我慢しようとしたのですが、危険だったから4階に」


「お姉ちゃん、ここでグーテランド七星団学院の寄宿舎だよ?」

「そうですね。まぁ、要するに実はわたしも、七星団学院に在籍しているんです。弟くんとイヴちゃんが中等教育課程なのに対して、わたしは高等教育課程ですけどね♪」


 ふと、ロイは思考を前世の記憶に集中させる。

 ロイが前世で暮らしていた日本では大学のことを当たり前のように大学と言っていた。だが、それ以外にも大学は高等教育課程と呼ぶこともある。実際には、そのことを知っている人はかなり多い一方、普段の会話、日常生活の中で大学のことをそう呼ぶ人は少ないが。


「ちなみに、姉さんのクラスは?」

「わたしは魔術師学部ウィザード学科、クラスはアークウィッチですね。弟くんとイヴちゃんは?」


「ボクは騎士学部アサルトナイト学科、まだ王都にきたばかりだからアレだけど、クラスはナイト」

「わたしは魔術師学部ヒーラー学科、クラスはお兄ちゃんと同じく、王都にきたばかりだからアレだけど、駆け出しのヒーラーだよ!」


 生前のロイの願望とは裏腹に、この世界に魔物を討伐して経験値を稼ぎ、その上、自分の実力までレベルという概念で数値化するシステムはない。

 ゆえに必然、レベルアップという概念もなければ、それによる上位職業の開放や、ステータスの向上なんてモノもなかった。


 ロイで言うところのナイト、マリアで言うところのアークウィッチ、イヴで言うところのヒーラー、おまけとしてエルヴィスで言うところのキングダムセイバー。

 これらは全て、一般的には在学中に専攻していた学部と学科、そして国家試験によって決定される。


 王立グーテランド七星団学院には中等教育の段階で、生徒は騎士学部と魔術師学部、他には後方支援学部、法学部や経済学部、理学部や医学部などなど、それらを自らの意志で選ぶことになる。

 さらに騎士学部には、アサルトナイト学科とガードナイト学科。魔術師学部には、ウィザード学科とヒーラー学科。後方支援学部には、兵站学科や鍛冶学科、諜報学科や栄養学科など。このような小分類があった。



 アサルトナイト学科に所属する生徒は『ナイト』に始まり、試験に合格すれば『ロードナイト』に、次の試験に合格すれば『ルーンナイト』に、その次の試験に合格すれば『クルセイダー』に、最後の試験に合格すれば『キングダムセイバー』になれる。


 ガードナイト学科に所属する生徒は、アサルトナイト学科とルーンナイトまでは一緒で、それ以降、ルーンナイトの次の試験に合格すれば『パラディン』、最後の試験に合格すれば『ロイヤルガード』となれる。



 ウィザード学科に所属する生徒は、男子の場合『リトルウィザード』で女子の場合『リトルウィッチ』に始まり、試験に合格すれば男子の場合『ウィザード』で女子の場合『ウィッチ』、次の試験に合格すれば男子の場合『アークウィザード』で女子の場合『アークウィッチ』、さらに次の試験に合格すれば『ワイズマン or ワイズウーマン』もしくは『サモナー』あるいは『アルケミスト』になれて、『ワイズマン or ワイズウーマン』のみ最終試験が用意されて、合格すれば『オーバーメイジ』になれる。


 ヒーラー学科に所属する生徒は、『ヒーラー』に始まり、試験に合格すれば男子の場合『モンク』で女子の場合『シスター』、次の試験に合格すれば『ビショップ』、さらに次の試験に合格すれば『アークビショップ』もしくは『アストロロジャー』あるいは『エクソシスト』になれて、『アークビショップ』のみ最終試験が用意されて、合格すれば『カーディナル』になれる。



「ふふんっ、わたしは絶対にカーディナルになるよ! ここに宣言するもん! そしてお兄ちゃんにいい子いい子って、頭を撫でてもらうよ!」

「カーディナルって、枢機卿って意味だよ?」


 ちなみにモンクは修道士、シスターは修道女、ビショップは司教で、アークビショップは大司教である。

 そして、王国の民が大雑把に約7000万人いたとしても、現在、枢機卿は王国に50人ぐらいしかいない。簡単に計算して140万人に1人しかなれない計算である。


「でも、目標が高いのはいいことですね」

「だってよ、お兄ちゃん」


「わかった。ならイヴがカーディナルになれたら、もちろん頭を撫でてあげるし、他にも1つだけ、なんでもお願いを聞いてあげる」

「わーいっ」


 万歳して喜ぶイヴ。

 服が引っ張られたので、白くて子どもっぽいぷにぷにのおへそがチラチラ覗けた。


 さて、ここで部屋の壁の近くに置いてある振り子式の時計をロイは一瞥した。

 もうすぐ19時で、クリスティーナに説明されたとおりなら、夕食の時間帯である。


「姉さん、イヴ、そろそろ夕食に」

「そうですね」

「は~いっ、だよ」


 部屋を出るロイと、イヴと、マリア。

 そしてロイが鍵を閉めると、全員で揃って階段を下りた。

 こうして、ロイの王都での生活は始まる。


 王立グーテランド七星団学院の入学式まで、あと3日。

 長いようにも感じるし、短いようにも感じる。

 早く3日経ってほしいのに、現実的な時間はなかなか3日経ってくれない。


 そのようなもどかしさの中、ロイは一先ず、寄宿舎での日々を楽しむことを決める。

 そして、入学式当日――、


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