2章2話 王都で、新しい生活を――(2)



「ホント!? やったよ~っ!」

「じゃあ、まず――――すみません、リンゴを1個ください」


「はいよ~、銀貨1枚と銅貨1枚ね」


「ありがとうございます。――はい、イヴ」

「ありがと、お兄ちゃん!」


 そのまま、ロイは右手でトランクを2個重ねてカラカラしながら、左手でリンゴを食べるイヴの手を握って、商人と王都の住民で賑わう商店街を真っ直ぐに進んだ。

 余談だが、リンゴにかなり似ている概念でも、日本語とこの国の言語は当然違うため、ロイは当たり前だがこの国の言語でリンゴと言った。


「すごいよ! 武器屋だよ!」

「そういえば、ボクも剣術を習っていたけど、武器屋を目にするのは初めてだなぁ」


 武器屋の窓から中を覗くイヴ。

 ロイもその後ろから控えめに中を覗いた。


 エクスカリバーが例外なだけで、基本的に地方で流通している剣よりも、王都の鍛冶職人が鍛え、王都で売っている剣の方が立派である。

 武器屋には名匠が鍛えたブロードソード、レイピア、サーベル、フランベルジェ、バスタードソード、クレイモア、ツーハンデッドソードなどが置かれていた。他には盾、槍、弓、そして鎧なども見える。


 そして2人は少し移動して、隣の店を見た。

 十中八九、魔術に必要な道具、魔術作用があるアイテムを置いているアーティファクト・ショップだろう。店内では杖や魔力を貯蔵している宝石、なにかの液体の入ったガラス瓶、書物、壺、植物、爪や牙など動物の身体の一部、そしてアーティファクトと呼ばれる詠唱しなくても魔術が簡単に使えるアイテムが売られている。


「そういえばボク、まだイヴの魔術適性を聞いてなかったよね? どれぐらいなの?」


「えっと――、

 無属性魔術適性が7で、

 焔、雷、風、水、土が全部4、

 闇属性が0で、

 時属性と空属性の適性が3、

 ――そして!」


 にっ、とはにかむイヴ。

 ロイが目で続きを促すと――、


「光属性魔術の適性は10だよっ!」


 魔術適性は各々の項目ごとに0~10の数値で評価され高い低いが決まる。

 つまり、イヴの光属性魔術に対する適性は最高ランクだった。


「――えっ、本当に?」

「本当だよ!」


 まさか天才なんて持てはやされて、エクスカリバーの使い手に選ばれたロイよりも、妹であるイヴの方に、より優れた魔術の才能があったらしい。


 ちなみに、ゴスペルは遺伝的なモノではなく、兄がゴスペルホルダーだからといって妹もゴスペルホルダーとは限らない。

 ゴスペルホルダーが生まれるのは約100万人に1人の確率と言われている。ゆえに彼らの両親は、イヴにゴスペルホルダーか否かの検査を受けさせなかった。


「それにしても――」


 再び寄り道をしながら寄宿舎を目指すロイとイヴ。

 ロイは辺りを見回しながら、心を弾ませて足を動かす。


 昼間から繁盛している酒場に、宝石などが持ち込まれている換金所、先ほどの武器屋とアーティファクト・ショップ、他には冒険者ギルドの集会所や、宿屋、服屋などもあるではないか。

 そして広場に目を向けると、噴水の前で旅芸人が自分の芸を披露して、その少し離れたところでは吟遊詩人ぎんゆうしじんが身体を穏やかに揺らしながら楽器を鳴らす。


「ついに、本当にファンタジー世界っぽくなってきたね」


 イヴに聞かれないように、けれども心の声で止めないで、口に出してその実感を噛みしめる。

 一方でイヴも、ロイが抱いている感慨深さとはニュアンスが異なるが、田舎から王都に出てきたという実感で、口元がにやけていた。


(正式名称はロマネスク建築って言うんだろうけど、まぁ、想像どおり、いや、想像以上に西洋風ファンタジーRPGのような街並みだ!)


 そのあとも、2人は王都を散歩する。


 結果としてロイとイヴが寄宿舎に到着したのは、遅めの昼食を食べて、王都に来た記念ということで2人お揃いの羽ペンを買い、お日様が西側に傾き始めた少しあとだった。

 鉄柵のような扉を開けて、2人は寄宿舎が建つ敷地内に足を踏み入れる。


「ここが、これからボクたちが暮らす寄宿舎」


 思わず感動で、ロイは身震いした。


 貴族のお屋敷にも引けを取らない豪奢な入口の扉。

 石造りの建物特有の固い質感を持った乳白色の壁。

 寄宿舎を象徴するような鐘の付いた時計塔。


 そして広々とした庭には天然の芝が広がっていて、2人から少し離れたところには、木製のベンチとガーデンテーブルが設置されていた。

 花壇には来訪者を心地よく迎えさせるために、とても綺麗な花々が咲いている。


 そのような寄宿舎の敷地を、ロイが先導して、その後ろからイヴが付いてくる形で歩き、玄関に立つ。


「開けるよ、イヴ」

「うんっ」


 そして新しい生活を送る、新しい2人の家の扉を開いた。

 真っ先に目に飛び込んできたのは――、


「お待ちしておりました、ご主人様、お嬢様! わたくし、ブラウニーという種族のメイド、クリスティーナ・ブラウニー・リーゼンフェルトと申します。お気軽に、クリスとお呼びくださいませ♪」


「は?」「えっ?」


「これから、ご主人様とお嬢様のメイドとして、ご身辺のお世話をさせていただきますゆえ、どうぞよろしくお願いいたしますっ!」


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