激戦
何体倒しただろうか。集まってきたそれらを落とし、翼をもたずトカゲのごとく走るそれの群れを始末し、新しい素材も貯まってきた頃。低く風を切る音がした。
「わ~お」
巨大な影。全長百三十メートルは下らないだろうシルエット。上空に現れたそれは伝説に消えた獣。まさしくドラゴンと呼ぶにふさわしい幻獣だった。こちらを睨みつけるそれは一瞬羽ばたきを止めると頭から降下し、さらに加速して突進してきた。
「回避!!」
大質量の突進はさすがに人間に受け止められるものではない。各々が散り散りに避ける。
「反撃!」
矢を放つ。続いて銃撃が通り過ぎたドラゴンを追い、旋回した瞬間の頭を狙撃していく。
「おいおい。ビクともしねぇな。チマチマ削るか?」
仕事のなくなったナイスが投げやりに問う。
「いや、ルナ、テシェロ。片翼に集中砲火。落としてから戦う」
「ラジャ」
旋回、突進。旋回、突進。単調ながら恐ろしい攻撃が繰り返される。直撃して立っていられる者がいたとしたらナイスくらいだろう。故に一瞬の油断もできない。そんな極限の集中状態だったからか、事前にそれを見ているからか。ドラゴンの口から洩れた光に怖気が走る。
「ブレス攻撃!」
警告に皆素早く対応する。突進と見せかけた火炎放射。低空まで降りてきてしかし、広範囲を巻き込める程度の高度は維持して火炎を吐きながら通り過ぎていく。
「ドラゴンだもんなぁ!そりゃ火くらい吐くよなぁ!」
皆が全力で散開する中、ナイスだけは盾を掲げてその場で耐えた。無茶を平気で行う馬鹿だが、ナイスが耐えられるなら戦いやすいというものだ。
「すまん、さすがに無傷は無理だった。アンナ!」
「はいはーい」
マリアが柄で地を小突くと大杖が淡い翠に光る。
短くも確かな詠唱と共にナイスの傷は癒えていく。射程は短いがマリアの回復量は十分量ある。
「サンキュ」
旋回し、再び突進してくるドラゴンに備える。突進やブレス攻撃を上手く織り交ぜ、フェイントらしきものまでかけてくるドラゴンに多少の賢さが垣間見える。だが、こちらも素人ではない。多くの狩りをしてきた者たち。それなりに対応して見せ、ついに片翼に過負荷を与えるに至る。
「落ちるぞ!攻撃準備!!」
墜落、といかないまでも翼を負傷し、やや乱暴に着陸するドラゴン。
だが、すかさずに踏みしめた前脚に嫌な予感を感じて叫ぶ。
「回避態勢!」
次の瞬間、ドラゴンが駆けた。元から地の獣だと主張するかのように素早く詰め寄り、大暴れを始める。
四肢で押しつぶそうとし、尻尾で弾き飛ばそうとし、鋭い爪で貫こうと巨体を忙しなく暴れさせる。
幼稚に見えるその動きはしかし、大きさが大きさだけにシャレにならない。倒木や雪崩などとは比べ物にならない暴力が目と鼻の先で荒れまわる。それでも各々が手の、尻尾の届く距離からなんとか逃れる。しかし、これで陣形は崩された。
なるべく離れながら矢を放つ。射撃音もしている。だが、ドラゴンが接近したことで彼らが動く。
「よっしゃきたああ!!」
「重いの行くぞー!」
ナイスとマリアが足に攻撃を始める。股下はバランスの問題でどうも攻撃がしづらいらしい。近接が大暴れできそうだ。堪らず、ドラゴンが駆けて距離を取る。散開したナユタと睨み合う。
「落としたら弱まると思ったけど結構暴れたなー」
「俺が活躍できるから問題ないぜ!」
「でも射撃はしづらくなるか」
ならばいっそ、距離を取ったほうがいいかもしれない。
「散開したまま回避に専念!手が空いた人が攻撃する!テシェロとルナは警戒しながら攻撃。ナイス!出来るだけ引き付けてくれ!」
「まっかせとけぇ!」
間隔が開きすぎた陣形をさらに広げる。ナイスが前にでながら剣をブンブン振り回す。
安い威嚇にドラゴンが乗った。ナイスを轢き潰そうと突進する。
アイネが紙で折られた手裏剣をナイスに投げた。それが背に当たると青白く光り、ナイスの身体を守るように結界を張る。
ガンナーは目標がナイスになった時点で全力射撃。追って俺も矢を放つ。
銃弾の雨を潜るように姿勢を低くしたマリアンナが疾走。逃げ続けるナイスに必死になって追撃している横面を、一回転させて勢いを十二分につけた大槌で殴った。
「______!!!」
堪らず悲鳴をあげるドラゴン。顔面の重い一撃に眩んでいると銃撃が容赦なく鱗を剥がす。真下からはチクチクと脚や腹を切り裂かれる。
真下のナイスに構えば大槌のマリアンナに殴られる。マリアンナを追い掛け回せばナイスが挑発しながら斬りかかってくる。銃撃が面倒だとそちらに行けば逃げられ、埒が明かない。
ドラゴンが距離を取り、口から火を漏らす。
「マリア!ついてこい!!」
ナイスが叫ぶ。マリアンナは一瞬だけにこちらに視線をよこし、同じく視線で行けと念じる。マリアンナは無言でナイスの後ろについた。
「アイネ!回復!」
ナラトの指示通り、アイネが丸い包みを取り出す。それをナイスの頭上に放ると包みが解けて中から粉末が散布される。真下にいたナイスにかかると、傷が少しずつ治っていった。
「__ッ_____!!!」
ドラゴンの火炎放射とナイスが走ったのはほぼ同時。逃げられるタイミングだが、ナイスは炎に向かって楯を構えて走る。
「うぉぉおおおおおあああ!!」
楯で直撃を避けてるとは言え灼熱に身を晒しているのだ。無傷ではすまない。しかし、それを押してナイスは走る。
炎を押し返しながら前へ前へ。ついにはドラゴンの目前まで迫り、
「だあああああ!!!」
楯で思いっきりドラゴンの顔を殴った。
「っふ、あっはははバカじゃん!?」
マリアンナが噴き出しながらナイスの脇を駆ける。
ドラゴンは殴られそっぽを向いている。今なら火炎放射を受けることはない。
大槌を一度振り回し、遠心力を乗せてもう一度ドラゴンの横面を殴る。
一際大きく悲鳴をあげると、ドラゴンはくずおれた。
それを好機とみて、叫ぶ。
「全力攻撃!!」
「おう!!」
ナイスが大剣を片手で振り回し、叩き斬る。マリアンナが大槌をぐるぐる振り回し、何度も打ち据える。ルナはその二人の間隙を縫って的確に頭部を撃ち抜く。
テシェロは走り、射線に二人が入らない位置取りをして全力射撃。
アイネはナイスの回復をもう一度したり、攻撃の威力が上がる道具を使ったりとサポートに徹していた。
それらを確認して、矢を放つ。そしてそのまま弓を納めて走る。
間もなく、ドラゴンが暴れ、前衛二人が怯んだところで体勢を戻し、片翼でバックジャンプ。
一旦仕切り直そうという魂胆だろう。だが、そうはさせない。
「マリア!」
「あいよ!!」
後方から呼び掛ければ、振り返ったマリアンナが全て察する。グルン、と大槌が二回転し、殺人的な破壊力を持つだろう大槌に飛び乗る。急な加重に多少失速するも勢いは死なず、マリアンナの怪力によって俺は上空へと打ち出された。
腰に履いた刀に手をかける。落下の勢いに任せ、頭上という死角から強襲。首に一撃。同時に首を蹴飛ばし、強引に進行方向を変えて前脚を斬りつつ着地。衝撃に屈んだ身体を伸ばすように跳んで腹を裂き、勢いに任せて後ろ脚を斬る。
突然の攻撃にドラゴンが驚いたころには四度斬られ、奇襲の主を探している間にさらに斬撃が加わる。とりあえず、この場を離れようと前進するも斬撃は止まらず、正体不明の攻撃に気を取られていると顔面を大槌で殴られる。
気付けば、ナユタの全員がドラゴンを包囲していた。
ルナとテシェロが銃弾の雨で挟み、ナイスとマリアンナは顔面に纏わりついて連携し、アイネは走り回って各人に支援道具をばら撒き、ナラトは縦横無尽に連撃を続けている。
銃撃をしている二人に攻撃は届かない。真正面に陣取る二人はうまく連携して盾で攻撃を受け止める。走り回って道具をばら撒く女に構っても攻撃が止まるはずもなく、連撃の主はそもそも姿を捕らえることも難しい。炎を吐けば、と痛みに耐えて反撃するも誰も彼もがするすると逃げ延びる。
暴れた。暴れて暴れて、しかし最期の時が来るまでそれほど時間はかからない。
「―――ッ!!!―――」
ドラゴンの断末魔は、悔しさと憎しみに満ちていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます