遭遇戦

ここ、ミュー大陸には転送などの移動方法はない。広大な大地を自ら進むしかないのだ。その代わり、街はあちこちに点在しているし、車やバイク、船など移動手段は充実している。 空を移動する手段はないが、あったらあったでつまらないことだろう。

「バイコーン。4時方向に十頭近く」

走行中、後部座席のルナがそう呟いた。 見ればそれらしき群れが遠くに見えた。

「こちらナラトール。アイネちゃん聞こえる?4時の方向にバイコーンらしい」

車に備え付けてある通信機を起動する。しばらくして通信がつながった。

「はい。アイネです。確認しました。テシェロさんが待機しています」

バイコーンとはユニコーンと違い二本の角を持つ馬だ。角はそれなりに良い値段がつくし、他の部位も素材として悪くなかったはずだ。

「アイネちゃん。群れごと狩るって伝えて。ルナとテシェロで削りきるから、付かず離れずの位置取り意識して運転お願い。ルナが発砲したら開始ね」

「分かりました」

「開戦はルナに任せる。いつでも良いよ」

「撃つよ」

一呼吸も置かずに射撃音が響く。続いて後ろからタタタと連射する音が聞こえた。

「運転に夢中なアイネちゃんに変わってこのナイスが状況報告するぜ。ルナの狙撃で二体はぶち抜いてるな。テシェロの弾は当たってるが、遠くて少しバラけてる。ダメージは出てるが数は減ってねぇな」

「了解。このまま一定の距離を保って迂回しながら射撃。あらかた削ったら掃討に入るよ」

「イェスサー。ならこのまま観戦しとくぜ」

車で逃げ回りながらルナのスナイパーライフルが確実に数を減らしていき、テシェロが弾幕を張って削っていく。

射撃音からしてテシェロはアサルトライフルだろう。知らない場所で知らない敵と戦うのだ。

状況対応能力の高い万能型のアサルトライフルは適しているだろう。

さて、一分ほど経ったところで、バイコーンの数は目に見えて減った。そろそろ頃合いだろう。

「アイネちゃん。合図と一緒に停止。ナイスは降りて壁。テシェロとルナは援護お願い。」

「あいよ。伝えとくぜー」

「アイネ了解です!」

「オーケー。……停車!」

ブレーキ。まだ止まりきってもないのに減速した時点でナイスが車から飛び出る。

突進してくるバイコーンを楯でいなし、囲まれない位置を取りながら剣で突いて挑発する。

俺も降りて腰に履いた刀を癖で抜こうとして、思い直し背中の弓を取る。

数も少ないバイコーンの残党は攻勢に出ればあっという間に数を減らし、最後の一匹までナイスが引きつけた。

「アイネちゃん!」

「はい!」

突進をいなし、脚に剣を叩きつけるナイス。堪らず転んだバイコーンに横合いからアイネが接近する。

「ぃやあ!」

気合い十分に振り抜かれた剣はバイコーンの首を深々と抉り、絶命させた。

「お見事だ!アイネちゃん。」

「そんな、チャンスを作ってくれたナイスさんのお陰です」

「まーねー。なんてったって、ナイスガイに相応しい男だからな!」

「みんなおつかれー。一応、獲得品改めてね」

「イエッサー」

走り回っただけあって、バイコーンはあちこちで倒れていた。

「隊長。どうだ?弓の使い心地は」

ナイスが寄ってくる。ナイスは近接にしか目がなかったはずだが、弓は新しめのカテゴリなので気になるのだろう。

「んー。貫通するし威力はそこそこ。軽い上にスナイパーライフルより連射が利くから使いやすくはあるかな」

「なるほどなぁ。じゃあ、本格的に弓に鞍替えするんだな。」

「その方が指示出しやすいからね。不満か?」

ニヤリ、とナイスが笑う。親指を胸に当て胸を張って、仁王立ち。

「オレの活躍が増えるって事じゃねぇか!踏ん張り甲斐が出るじゃねえか!」

この男は青空のように清清しい。そして、言葉通り無茶をやってのけるから頼もしくもある。

「ああ、お前の活躍にみんな助かってるよ」

「なに。お前の指示だってみんな信頼してる。お互い様ってやつさ」

肩を叩いて、バイコーンを引ぎ取りに遠くまで行ってしまう。

「みんなー!そろそろ移動しよう!拾いきれてなくても良いからそれぞれバンに集まって!」

大声で指示を出せばそれぞれ返事が帰ってくる。

持ち寄った獲得品をみんなで持ち寄ったが、大したものは出なかった。

元々、アイネの経験にと相手しただけだ。新エリアでの収穫が多ければ捨てていくことになるだろう。

バンに乗り込み、再び出発。その後のドライブは何事もなく終わった。

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