その次の日。街は大騒ぎでした。彼があの恐ろしいゴーレムをやっつけたというのです。そして、お礼をたくさんもらったと。


彼は少女に数日分のお金を渡すと、しばらくの間帰ってきませんでした。居る場所は分かります。街で大人しか入れないお店に行っているのだと、店主だんから聞いたのでした。


けれど、少女は宿から出ませんでした。


置いていかれる。そんな不安が胸を締めつけます。


彼の迷惑になる。そんな恐怖が足を竦ませます。


少女は、ただ帰りを待つだけでした。


ある日、男は帰ってきました。


「おかえりなさい」


「…俺はお前の家族じゃねぇ」


「……ごめんなさい」


「出る準備をしろ。新しい家族のところに行く」


「え?」


「いいから準備」


「で、できてます」


彼はため息をつくと、洗面台まで少女を連れていき、濡らした手で粗雑に少女の髪を梳きました。


「よし行くぞ」


連れてこられたのは教会でした。


「ここが今日からお前の家で、お前の家族だ」


迎えてくれたのは神父さんです。どうやら少女のように親のいない子供たちを引き取っているんだそうです。


「本当によろしいのですか?」


「ああ、いいんだ。どっちも俺じゃ持て余しちまうからな」


「ありがたい。あなたにはいくら感謝をしても足りないでしょう。あなたの行く末に幸があることをお祈りします」


「神様のご加護なんてそれこそもったいねぇ。代わりと言っちゃなんだが、この子のギターは取り上げないでくれ」


「もちろんです。あなたからは十分すぎる施しをいただいています。特別扱いすることはありませんが、彼女を尊重すると誓いますよ」


彼が、男が、少女の頭に優しく手を置きます。


「そういうことだ。お前が一人前になるまではここで生きていけるはずだ。それからは自由。好きな歌を歌うも素敵な相手を探すも自由だ。じゃあな」


男はそれだけ言って、背中を向けてしまいます。


少女は何か声を掛けたかったけれど、言葉にならなくて。涙となって頬を伝うのでした。

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