晴れ
それからは大騒ぎだった。
英雄として感謝され、大金を受け取った二人。エルケンスは酒場で連日にわたって飲み、賭場に通い、遊んですごした。
女はいつの間にか見なくなっていたが、エルケンスは気にしなかった。数週間豪遊し、ハンヴィーも新調したエルケンスは金がまだ余っているうちに街を出ようと荷物をまとめた。早朝に車を出し、街を出たところにしばらく見なかった女が立っていた。
「どうした。しばらく見ねえと思ったらこんなところで」
「あなたこそ、どこかに行くの?」
「まぁな。金も名誉も得たらさっさと使っちまうもんさ。いつまでも持ってたって座りが悪いからな。ここじゃ、英雄だなんだともて囃されて眠れやしねぇ」
「そっか。私も次の町へ行くとするよ。探し物も見つかったから」
「そうかい。そいつはよかったな。北の町に行くなら乗せてやるぞ。運賃はもらうがな」
「遠慮しとく。あなたが北に行くなら東にでも行こうかな。海があるというし、一度見てみたい」
「そうか。じゃあな」
「うん。またね、エルケンスさん」
エルケンスはアクセルを踏んで出発した。バックミラーでは東へ歩き始める。女の姿が確認できた。
不思議な女だった。さっきもなにか変な感じがあったが、まぁいいだろう。あいつと顔を合わせるのも最初で最後になるだろう。偶然会ったのなら、また歌を聴くのもいいかもしれない。そんなことを考えながら、エルケンスは北へ車を走らせた。胸に抱いた違和感はすぐ消えてしまう。いずれ女のことも忘れるだろう。彼はそういう生き方をしてきた。
ならばこれからもそういう生き方をするのだろう。
朝日は、まだ昇り始めたばかりだった。
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