同乗

けたたましい警報にエルケンスは飛び起きる。


それがなんの警報か理解する前に手早く荷物を纏めて部屋を出た。


「おい!!起きろ!!悠長に寝てる場合じゃないぞ!!」


廊下に出ると店主が各部屋を乱暴にたたき、皆を起こして回っていた。


エルケンスがその光景を横目に宿を出ようとすると、ちょうど広場の歌手が部屋から出てきた。


「緊急事態の警報?何が起きてるの?」


「それをこれから確かめに行くんだよ」


適当に答えて宿を出る。早歩きで迷うことなく進み、マイナーズギルドへと来た。


マイナーズギルドはゴーレム狩りによって得た魔石を引き取るのが主な役割だが、それらを補助するためにゴーレムの出現情報をまとめたり、強力なゴーレムに懸賞金をかけたりと情報の集まりやすい場所だ。


非常警報の詳しい情報も入ってるだろう。


マイナーズギルドでは多くの人が集まり、配られるびらをひったくるように受け取っている。 同じようにびらを受け取り、内容を検める。


「何か分かった?」


「お前まだいたのか」


広場の歌手が顔をのぞかせる。鬱陶しそうな表情を隠さないエルケンスに女は苦笑を返した。


「はぁ。要塞バラムがこっち向かってるらしい。軌道がズレなければこの街を直撃だそうだ」


「……そっか。災難だね」


悲しそうに、目を伏せる女。他人の痛みに共感できるなんて余裕のあるやつだ。感傷的な性格なのかもしれないが。


要塞バラムとは超巨大ゴーレムだ。大型客船ほどの大きさで四本の足で気ままに歩き回っている。


それほど巨大なゴーレムを破壊するほどの火力はなく、それが街に突っ込めば建物を薙ぎ払って通り過ぎてゆく。一種の災害としてみられている。とんでもない額の懸賞金が掛けられているが、それは誰もが止めることのできないが故だ。


「まぁ、様子だけ見に行こうかね」


「バラムの?」


「……お前はいつまで居る気だ?」


エルケンスは独り言に反応され、少しきつく返した。女は苦笑するばかり。そもそも名前すら知らない女だが、なぜここまでついてくるのか。正直、居心地が悪い。


「すぐにどっかにいくよ。それで、まさかバラムを見物しに行くの?」


女は気にした風もなく、むしろ少し楽しそうに微笑んで会話を続ける。調子が狂う。やっぱり声をかけるんじゃなかったと後悔する。


「見物じゃねえ。あいつには大金が積まれてるからな。攻略できないか探ってみるのさ」


ギルドを離れ、借りているガレージに向かう。シャッターを上げ、被せてあった布を剥げばハンヴィーが顔を出した。


「それで、どっかに行くんじゃなかったのか?」


いつまでもついてくる女にエルケンスは気怠そうに聞いた。


「いや、私もバラムを見てみたくてね。乗せてくれない?」


「はぁ?」


エルケンスは耳を疑った。次に相手の正気を疑い、しかし冗談の類の様でないと知って大きくため息をつく。


「ピクニックじゃないんだぞ」


「知ってるよ」


「命の保証はしないぞ」


「分かっているつもり」


女が顔を引き締める。その眼は期待に満ちた視線をエルケンスに送っていた。


なんなのだろうか、この女。エルケンスは諦め、後部座席のドアを開けた。


「どうぞ、命知らずの御嬢さん。スリル満点のピクニックへご招待してやるぜ」


「ご丁寧にどうも、おじ様。素敵なドライブになる事を期待しているわ」

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