4話:満月の夜

 2か月もすれば、包帯は取れ完治することができた。家に帰ると、また親は酒に酔っていてテレビを見ながらボーっとしていた。一回も見舞いに来なかった親はこの腕を見て心配することもなく不快そうでもなかった。ただただ、いつもより空気が重く感じる。

 学校に行くと荒太は注目の的だった。しかしその目はナイフのように鋭く痛い目線だった。そこで現れたのは、てっちゃんだった。この少年は鋭い目つきで、こういった。

「見た目まで人じゃなくなってる‼」

腕がない荒太を指さして大声で叫んだ。一緒にいた少年の友人たちも、鋭い目つきで

「ほんとだきもちわるー」

「人間じゃないやつが学校来ちゃダメなの知らないのかな」

そんなことを言って笑っていた。きれいなガラスは傷つきやすい。荒太は、下を向いた。


 給食の時トレイをバランスよく片手で持っていたら、てっちゃんがわざとらしくぶつかってきた。トレイは落ちて、給食全部が零れ落ちた。そのてっちゃんは

「あ、ごめーん」

というだけで、あとから先生が反応したが、

「なにやってんだよ荒太、ちゃんと片付けとけよ」

と、いった。少年たちは荒太を見てクスクスと笑った。磨かれたはずのガラスは傷だらけのガラスに戻っていった。

 

 学校から帰る途中、荒太の体を見で、口元抑えひどい目で見るものや、化け物を見る目で見るものや、陰口をひそひそいうものがいた。荒太を同情するものがいても、助けてあげようだとか、力になってあげようだとかをする者は誰もいない。ただ荒太を気持ち悪がっている。家に帰ってもその視線はなくならない。実の父でさえもそんな目をしているように思える。そうしていくうちにだんだん慣れていった。


ある日の夕方、また父がいない。夕食を済ませると酒がないことに気が付き、久しぶりに酒屋に行くことにした。月が出ていて、少しは明るく見えるが整備されていない道で、辺りは真っ暗であった。荒太は前もこんなことがあって大けがしたのにもかかわらず、気にせずまた、夜の道を歩く。すると奥の方からザッザッザッと走る音がした。人が走っている音だった。それはだんだんと近づいてくる。足音が目の前に来た頃、シルエットが姿を現した。その姿は大きく、すでに荒太の目の前に迫っていた。さすがの荒太も襲われそうになっていることに気が付いた。しかしもう遅い。大男は容赦なく、荒太の首をつかんで荒太を押し倒した。砂利の地面に叩きつかれ頭を打ち痛そうに眼をつむり一瞬息ができなかった。追い打ちをかけるように男は顔を近づけてこう言った。

「どこに行こうとしてるんだ……荒太……。」

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