2話:母
少年は街にやってきた。その町は田舎ではあるがかなり栄えたところであった。スーツを着た人が道を歩いているなかで、ボロいかっこうの少年はみんなに避けられていった。少年は未成年にもかかわらず、酒屋に入ろうとした。すると突然誰かが少年の手を握ってきた。驚いて振り向くとそこには40代ぐらいのおばさんがいた。
「坊や、子供は入っちゃいけないでしょ。ほら」
そう言って少年の手を引いた。目が合うとおばさんはおびえた表情ですぐに手を引いた。婆さんが見たのは陽気な少年の目ではなく、化け物のように開ききった感情の見えない目であった。それはもう光すら通さぬほどに目が死んでいた。婆さんは恐怖し悲鳴を上げて去っていった。その声に驚いた周りの人だったが、良くあることで騒ぎにはならなかった。少年がすぐに下を向いた。
酒屋に入った少年は店員の目を見計らって酒を盗んだ。今回も見つかることはない。これで何回目であろうか。数えきれないほどに盗んできた。
家に帰り父に酒を渡すと
「遅いわッボケッ!!!!」
と怒鳴られ腹をけられた。“うッ!”と痛そうにするがうずくまることはせず、前と同じところに座った。父は酒を奪ってさっそく飲み始めた。
前まで少年には母がいた。父とは違い、優しい人だった。本を読み聞かしてくれていた。父とは違い優しく荒太の頭をなでて、いつも何か言われていた気がしていたが靄がかかったように思い出せない。しかしそれはほとんど物心つく前に言われてほとんど覚えているはずもなかった。そして、今少年が受けているような暴力はそのころ母に集中していた。毎日毎日殴られる日々だった。それまで母が受けていた暴力は、母が死んでから少年に集中しこの様なありさまである。
母は崖から車ごと落ちて亡くなった。母が死んだのは少年が4歳のころだった。発見当時、始めは殺人事件とされていた。その死体は先のとんがったもので滅多刺しになっていたためである。しかし一緒に落ちていた車は母とともに落ちていたらしく、崖から落ちる衝撃で車の周りの金属がめくれかけ、尖がっていた。ここに運悪く刺さったとしてこの事件はかたづけられ、母はこの世を去った。そのころから少年は泣けなくなっていた。
少年は学校に来た。いつもどおり通っている。この時間は唯一家を離れられる時間なのである。しかし、少年は救われない。なぜならば
「やーい、荒太!不快だから帰れ‼」
クラスメイトの男の子は幼稚に両手を上げてばんざいするかのように少年に向かってそういった。そう、少年はいじめられている。この感情のなく腐りきった、死んだ目は子どもには気持ち悪く映る。教師でさえも黙認している。そうすると男の子の友人らしき者たちがその男の子のとこへ来た。
「ねえ、てっちゃん、不快ってどういう意味?」
てっちゃんと呼ばれる男の子は自慢するかのように言った。
「いやな奴って意味なんだぜ!父ちゃんが言ってた」
やはり子どもらしく、幼稚に見栄を張っていた。
「お前は不快だから深井荒太って言うんだよ、ばーか!」
笑いながら言ったその笑みは明らかに見下していた。しかし慣れていたその荒太は悲しそうにするわけでもなく、なんともなかったように過ぎ去っていった。
そんな態度に腹を立て、てっちゃんは叫んだ。しかしそれも無視した。荒太に彼の言葉は一切届いていない様だった。てっちゃんは荒太を殴った。しかしよろけるだけで全く泣きもせず痛いとも言わなかった。こぶしでさえも荒太の皮膚には届いても、内側には届いていない。てっちゃんは子どもらしくない荒太を恐れた。しかしこのいじめが終わることはない。
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