幼い囚人

桑田無知

1話:奴隷の少年

時代は戦後、強制結婚が主流であった。

ある田舎に木造の古びた小屋があった。中には床にボロボロの畳が6畳ほど敷き詰められている。中央には卓袱台があり、部屋の隅には卓袱台を向いたテレビが台に置いてあった。そしてその部屋には二人の男が少し離れて座っている。

一人の男は、身なりが悪く汚く髭を生やし、壁に寄りかかっている。男は左足を伸ばし、右足は立てて膝の上にたばこを持った右手を置いて座っている。男はテレビを見つめボーっとしている。その部屋はたばこの煙で充満していた。

もう一人の男は、幼い子どもである。10歳ぐらいに見えるが、少年はまるで子どもらしくなかった。少年は男よりも身なりが悪く、ボロボロの布を適当につなぎ合わせているだけで、ひどく汚れていて服の用途が何だったのか忘れそうになるほどだった。そして、少年はひどくやせ細っていた。少年はふすまに寄りかかり座っている。少年はまるで目を開けたまま死んでしまっているかのようにボーっとして、テレビを見るわけでもなく、男を見るわけでもない。必死に存在を消そうとしているかのように。

この二人は事実上の親子である。しかし、その間に親子の絆のかけらも存在していない。これは少年が物心ついた時から続いていた。

突然この沈黙した空気を父が壊した。父は酔っ払った顔で卓袱台に無造作に置かれた瓶のお酒を持った。すでに空だったことに腹を立て、あろうことか子どもに向けて投げつけた。その瓶は子どもの頭の上の壁にぶつかった。バリンッ!と大きな音を立て粉々に割れた。その破片はシャワーのように子どもに降りかかった。その子どもはほとんど動かなかったものの細い腕で自らを庇った。降りかかった破片は子供の顔を傷つけ、血が出てきた。しかし少年は、子どもにもかかわらず、泣きもせず傷ついたことも気づいていない様だった。体を起こした父はテレビの音さえも遮るほどに大きな声で叫んだ。

「酒がねぇじゃねぇかッボケッ!!!!早く買ってこんかッ!!!!」

少年は震えて立ち上がった。父は早くいけというかのように卓袱台を力いっぱいにぶったたいた。びくっとした少年は急いでドタドタと家を飛び出した。少年は一言も発さず走った。 

 



      

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