現実性との乖離。


 まず一つ、まず一つだ。


 セーラー服おじさん。

 七、八十代の白髪と白ひげを蓄えたおじいさんが今の女子中高生でも着る機会の少ない、白と紺色のTHEセーラー服と言わんばかりのものを着て、踏切の線路の上に立っている。

 またスマホを弄ることに気を取られているのか、踏切遮断機が、カンカンカンと、煩く鳴り響いているのに自撮りの姿勢で何かを撮影している。

 ……いや、まあ確かに今のこのご時世『LGBTQIA+』の方々が重要視され始めた中で「野郎がセーラー服を着ている」程度でワイワイと騒ぐことの方がおかしいのかも知れない。第一ボクが中学生だった時には眼の前のセーラー服おじさんと同種の人間が多々確認されていたらしいので、極小数人の可笑しな犯行というわけでもないのかもしれない。

 実際今目の前にある物の中では、一番マトモなのだからこれに衝撃を覚えていたら途方も無い心労は回避のしようのないことだろう。だからこそ私は、精神衛生上一時的にこのおじさんのことを「ただのセーラー服を着ているおじさん」とでも認識しておこう。

 随分ぶっ飛んだ状況だが仕方がない。事実なのだから。



 次に二つ。


 ヤの付く職業関連の匂いがプンプンする同世代らしき女子。

 なぜ私がそんな突拍子もない事を予想したのかといえば、こちらもまた彼女の着ている服装と手に持っているもの、それから彼女の状況がその推測の根拠の八割方を占めている。

 十代後半の黒髪ロングの、一昔前のアニメによく見かけられたタイプの美少女である。そして彼女は先程のセーラ服のおじんとは違って、黒いスーツのようなものを着こなしている。そしていちばん重要なのが、彼女が手に持つ黒く輝く「チャカ」とか言われる類のものと、なぜかコンクリートで詰められた両足。

 しかもその彼女も踏切の線路の上に放置されている。「くそっくそっ!」とかなり汚い言葉遣いで罵倒している彼女。香港マフィアもびっくりのガチっぷりに目を合わせたら合わせたらで即射殺されてしまいそうだし、何なら声をかけた時点で殺されるのかも知れない。

 この人も意味が分からない。いや、先程のセーラ服おじいさんに比べればアニメに出てくる類のキャラクターである。が、ナチュラル3Dの美少女がコンクリ詰めされて線路に放置されているのは明らかにおかしい。九龍城砦レベルの治安ならばあり得るのだろうが、残念ながらここは日本なのだから、このレベルの犯罪は年一レベルのヤバい事件だ。

 ……もう、今私がいるこの場所が日本である確信を失いつつある事には目を背けておこう。

 こちらは「ジャ◯キー・チ◯ン3D(リアル女子高生版)」とでも一応しておこうか。



 そうして最後、三人目。


 彼の存在はある種もっとも現実に有り得そうな人間である。セーラ服おじさんも比較的見るには見るが、こちらの方がより犯罪的である。とはいえJKジャッキーより犯罪的でない。という容姿を説明しないのならよくわからない人間になること間違いなしである。

 彼の容姿の説明は、正直マトモな神経をしている人間であるのならば説明さえせずに、目にも留まらぬ速さで110番通報をする筈であるが、まあ仕方がない。すでに電話をかけようとしても繋がらないのだから。

 では彼の説明を行うと、彼はいわゆる中年男性とか言われる年齢層の人間で丸々と太っていて油切っている。更に頭は禿げ散らかしていて見るものに嫌悪を覚えさせる。……そして彼の着ている服は………………学校用の女子水泳服。いわゆる、スク水だとかいわれるものを、着ているのだ。

 見るからに性犯罪者。気味の悪さは群を抜いており、その性犯罪者がなぜか線路の上で何かをしているのだ。もう恐怖しか感じない。できれば死ねば良いと思う。

 彼は……「性犯罪者で確定だろう」。悔い改めて欲しいね。



 と、この説明を聞いて私が置かれれいる奇々怪々な状況への理解を深めてくれていると嬉しいのだが、最後の一つだけは伝達されていない事を心から深く祈ろうではないか。最後の一つだけはミーム汚染とか呼ばれるやつである。

 だが、気づけばそんな場所にいた、私の気持ちを少しでも理解できてくれれば嬉しい。

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