第103話偵察隊編成
「いや、しかし、正直に言うとだな、まだお前達のパーティはちょっと力不足なんじゃないか?」
歯に衣着せぬ物言いでバルザグスが言うと、意外な事にウルブリヒトとサナダが首を横に振った。
「協会長、実はそんな事もないんですよ。最初期こそ惨憺たる有様でしたが、ここ最近の戦績を見ると、新興の小規模パーティの中では群を抜いた結果を出してますね」
ウルブリヒトに続いてサナダも口を添えた。
「逆を言うと、身の程を弁えないかなり危険な事をしているようですが、全て生還しております。
ですので、あの状況を生き残る力を着けて来ているのは間違いないでしょう」
サナダの意見にアーネスは不満そうだが、言われても仕方ない部分も有るので、口をつぐむ。
「そういや、新種見つけたり、新素材見つけて来たのはルナティックだったな。俺達も時間見つけてあの山上要塞に稼ぎに行こうって相談してたんだ」
アーネスはたちまち機嫌が直り、ニコニコだ。
「どうぞどうぞ、しっかり稼いで来て頂戴。北側の崖下はゴーレム素材の掴み取りよ!ダッチマンの骨も一山いくらで有るわよ〜!」
「ちっ、上がりの15%は取られるんだったな。ちゃっかりしてやがるぜ」
「そんなインセンティブでも無ければ危険は犯さないでしょ?当然の権利よ。
悔しかったらあんた達も新しいダンジョンでも見つけなさい」
アーネス高笑いである。
「まったく、ビギナーズラックって事もあるからな、無茶はするなよ」
それでもユリヤンセンは後輩想いのいい奴だった。
「そうね、ありがと。肝に銘じておくわ」
アーネスも真面目に応え、改めてバルザグスに向き合った。
「で、どうなの?信用のおける人手は欲しいんでしょ?私達なんて偵察にはうってつけだと思うんだけど?
何しろこの功は、
そして何よりこの私は
「そういや、考えてみりゃ随分豪勢なパーティだよな。ウチも在籍100人程度の小ぢんまりした
普通
街の病院で安全に稼ぐ事が出来、尚且つ社会的地位も高いからだ。当たり前の話しである。
傭兵のヒーラーは、最初はただの傭兵だ。
しかし運良く適性があり、尚且つスキルマテリアルを手に入れる事が出来た者がヒーラーとなるのだ。その確率は推して知るべしである。
だが、そういったなんちゃってヒーラーは医学の基礎知識に乏しいので、スキルの理解が甘くその効果も低い。しかし余程の不器用を除けばポーションよりも治癒効力が高く早いので、かなり大事にされる。
傭兵の中でもヒーラーは取り分が多いのが通常なのだ。
引き抜きの声掛けもひっきりなしで、あまり仁義に悖る事はしないが、それでも移籍はよく有る話しだ。
その中でもアーネスは、若くして父からヒーラーの適性が有ると見定められ、惜しげもなくスキルマテリアルを与えられた。
さらに医学校で外科知識や技術、医療呪文も修め、根底からブーストした生粋のチートヒーラーなのである。
その効果はポッと出のなんちゃってヒーラーとは訳が違う。
しかも優秀な錬金術師は狩った魔物からの魔石を独自に加工して燃料コアに加工出来る。
優秀であればある程その精製度は高く、経費の削減に貢献してくれる。
さらに腕の良い錬金術師は装備の改造、強化も期待出来、間接的な戦力の向上に貢献してくれるのだ。
中でもダズワイスと云えば、その道の先駆者の一人であり、錬金界の重鎮と言って良い。
ただ単に
実はこの二人は、性格はおいといて凄い人材なのである。
「成る程のう、バール。お前の判断ではどうだ?」
バルザグスは実行隊長となるかもしれないユリヤンセンに問う。
「問題無ぇんじゃねぇか?この功って若いのもしっかりしていやがるし。だいいち偵察隊も四、五パーティくらいは組むんだろ?その内の一パーティなら任せても大丈夫だな」
ユリヤンセンの言葉に、バルザグスは少しの間考え、サナダに視線を向けた。
「確かに情報をリークしてしまった負い目も有るが、まずは作戦を成功させる事が大切だ。
貸し借りを無しにする為だけに編成を決める訳にはいかん。
が、サナダとウルブリヒトがルナティックパーティに偵察を任せても大丈夫だと判断するなら儂は構わん」
「そう来なくちゃね。じゃ、情報部長さん、報酬の方も弾んでね」
アーネスのいい笑顔で打ち合わせは締め括られた。
その後、Gメンとの会議となったが、たまに来る遭遇戦時の細かな質問以外は、アーネス、功共に発言の機会も必要も無く、ほぼ置物として会議に参加していた。
ユリヤンセンは会議に参加する事なく、情報管理部の協会職員と偵察隊、強襲隊の候補を編成する作業に入っていた。
ベルゼブブのベアトリーチェも編成作業に呼びたかったが、彼女は別件で湖に出ており、連絡は取れたが戻るのは三日後との事だった。
ただ、ゲロカス相手とあればベルゼブブが断る筈も無く、結局ベルゼブブから一分隊の偵察隊の抽出を約束して貰った。
強襲隊の指揮に関してはユリヤンセンはベアトリーチェに期待はしていない。
ベアトリーチェの事だ。最前線で暴れたいであろうから、おそらく自分が采配を振る事になるだろう。
一応打診はしてみたが、案の定ベアトリーチェは指揮を即座に断り、ユリヤンセンに押し付けた。
しかもあろう事か、偵察まで自分で行くと言って聞かない。
一度やると決めたら命がけで我を通す鬼人族だ、ユリヤンセンは早々に説得を諦めた。
「どいつもこいつも勝手ばっかり言いやがってっ!チクショーめっ!」
床を蹴って当たり散らし、それでもなんとか偵察部隊の編成を進めた。
偵察は大手以外の中小から零細に限って、秘密の指名依頼とする。
どこまで秘密が保たれるかは怪しいが、少なくともダダ漏れという事はないだろう。
ユリヤンセンは偵察部隊を全部で四
四分隊で一小隊とし、臨時偵察小隊を編成。
小隊長は当然ベアトリーチェにやらせる。これは殴ってでもやらせる。
一つはベルゼブブのパーティ
もう一つはデスペラードから出す。
さらに一つはルナティックパーティが埋めてくれてたが、最後の一パーティはどこにするかを悩んだ。
「マリアデッタ、やっぱ偵察ったらあそこだよな〜」
秘書として随伴しているマリアデッタに意見を求める。
「『群狼』の事?」
「あぁ、あそこの噂はたまに聞くんだが、実情を良く知らねぇんだわ」
傭兵パーティ『群狼』は小規模のパーティらしいが、あまり一般には知られていない。
大規模作戦前の偵察に特化したパーティで、普段何をしているのかも分からない謎のパーティなのだ。
ユリヤンセンなど、ほとんど都市伝説だと思っているくらいだ。
ところが、一緒に編成作業と行程を策定していた職員から意外な一言が聞けた。
「あぁ、『群狼』でしたら実は協会直属のパーティなんですよ。協会唯一の実行部隊でして、普段は協会職員として働いています。
知らなかったですか?」
ユリヤンセンはまた床を蹴り飛ばした。
「なんでそんな大事な事をあいつらは言わねぇんだよっ!優秀なパーティが手元に居るんじゃねぇかよっ!」
「いや、でも『群狼』は今回も協会長直属の指揮で動くので、今回はあれ抜きの編成でお願いします」
「ちっ、なんでぇ、そういう事かい」
「ええ、協会としてもやっぱり情報収集は重要ですからね。
まあ、『群狼』も状況次第で途中合流なんて事もありえますけどね」
「けど今回は最初は無しで考えなきゃならねぇよな。
やってる事ぁ、どうせ裏切り者の炙り出しだろうしな。
それはともかく、上空からの監視は『ミラーナ』に依頼するとして、最低四方向からの偵察は絶対抑えときたいんだよ。
詳しい地形調査と魔物の分布、襲撃部隊と交戦した場合奴らがどう動くか、撤退するとしたらどの方向か、その導線も予測したい。
敵の数や装備、強制労働させられてる被害者の人数だけじゃねぇんだ」
「うちからはもう出せないよ、あんた」
マリアデッタに言われなくとも分かっている。偵察に一パーティを出し、本番で強襲する戦力も温存し、尚且つ何か有った時の為に留守番も置いておかなければならない。
敵の規模はまだ分からないが、向こうも警戒しているだろう。
相当数の敵が待ち受けていると考えなければならない。
「仕方ねぇ、ベルゼブブからもう一隊出させるか」
「それが無難だね。あそこも断りはしないだろうし」
マリアデッタも賛成のようだ。
「よし、そうと決まりゃ日程と準備に移るぞ」
忙しくなりそうだ。
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