第93話星山
僕は転移者だ。
ある日、学校に行こうと通学路を歩いていたら、同じクラスの狩野君と村田さんと一緒になった。
偶然じゃないね、だって登校しようとしたら、僕らは必ずこの道を通るし、時間だって同じだからね。
僕たちは家も近いし、同じ保育所から一緒だった。
世間では幼馴染みなんて言うみたいだけど、僕は狩野君が嫌いだ。
何にもしないのに、いつも偉そうにしてるし、頭が悪い。
そのくせ、すぐにいじけてとても鬱陶しい。
村田さんもその辺は同じように思ってるらしくて、馴々しく話し掛けられても冷たく対応してた。
このまま真っ直ぐ行くと校門に着く、そんな通りを歩いて信号待ちをしていたら、トラックが突っ込んで来たんだ。
気が付いたら僕たちは知らない街の裏通りに居た。
僕と村田さんと狩野君、それと冴えない感じの知らないおじさん。
おじさんは一緒に信号待ちしてたのは覚えてる。
転移の瞬間、バランス感覚が乱れて、僕は尻餅をついた。
皆んな同じように尻餅をついている。
「・・・ここ、何処・・・?」
かすれた声で村田さんが呟いた。
そんなの僕だって聞きたい。
でも、瞬間に分かった。
『異世界転移』
トラックに轢かれそうになる。
幼馴染みが一緒。
知らないおじさんまで一緒。
テンプレだよね!
このパターンだと大概おじさんの方が主人公だけど。それだってやり方次第だ。
僕の時代が来る!
陰キャでいじめられっ子、そんなオタクが最強で無双でハーレムになるチャンス!
でも、神様にも女神にも会わなかったような・・・
心の中で密かに『ステータス』って念じても、何も起こらない。
何かイベントをクリアしないとダメなパターンみたいだ。
あれから直ぐに、近くのレストランで働いてる風の豚獣人のコックさんが僕らを見つけてくれた。
それからはあっと言う間だった。
スマホで何処かに電話してたコックさんは、親切にも店に案内してくれて、暖かい飲み物をくれた。
どうやら都市の役人さんが来てくれて、僕らを保護してくれるらしい。
親切な豚コックさんは、驚きから醒めない僕らに簡単にこの世界の事を説明してくれたけど、正直本物の豚獣人を目の当たりにして、ショックが大きかった僕の頭には何も入って来なかった。
だって、豚が喋るんだよ!
リアル豚顔が人間の胴体の上に乗ってて、それが喋るんだ。
違和感バリバリで正直気持ち悪かったし、怖かった。
それからちょっとして、役所からスーツを着た人達が来て、僕たちは保護された。
役人さん、て言うより職員さんたちは《人間》だったので、ホッとしたよ。物腰も柔らかかったしね。
それから僕たちは保護施設って所に連れて行かれた。
どうやら僕たちは召喚勇者じゃないみたいだ。
偶然迷い込んだ、ただの失踪人。
女神のギフトも無ければ、ガチャも無い。
何故だか理由も無いのに自分だけの優遇措置やレベルがあったりもしない。
ひょっとしたらこの先何かのイベントで、何か途方もない力が理由も無く身につく可能性が無いではないけど・・・
内政チート?
僕たちの日本より随分と技術って進んでるみたいだよ。
農業政策?
ここのお米は湖の中で出来るんだってさ。
第一、僕たち農業なんてやった事無いしね。土地の向き不向きも分からないのに、何が出来る?
マヨネーズもカレーもこの世界には有ったし、回転寿司まで有るんだよ。
もっと美味しい料理だって有った。
高校生の僕たちに何が出来る?
そんな僕たちに対しての社会保障もしっかりしてる、理性的で確立した社会だった。
狩野君は、最後の手段で奴隷を飼い慣らして上前撥ねるみたいな事言ってたけど、奴隷ってどうなのさ。
村田さんも嫌悪感剥き出しでその辺を問いただしたら、狩野君曰く、奴隷は社会が発展して行く上で必要悪なんだってさ。
そして奴隷に堕ちる方が悪いみたいな事を言い出した。
まあ、直ぐに奴隷制度は完全に違法で、元からそんな制度は、一部の犯罪都市を除いて無い事も分かったんだけどね。
それでも狩野君は冒険者を諦めなかった。
僕も冒険者やりたい。けど怖いし、何のチートも無しで魔物と戦うなんて出来ないと思う。
この世界は多分、最初に魔物を倒さないとレベルやステータスが現れないんだ。
それさえクリア出来ればトントン拍子に上手く行くとは思うんだけど。
そしたら多分僕のハーレムの最初のヒロインは村田さんだな。
メインヒロインにしてあげるよ。
でも、村田さんは気の強いタイプだから、次はやっぱり優しいお姉さん系の巨乳エルフがいいな。
その次は、まぁその時考えればいいか。
狩野君はどこかでざまあ退場して貰って、おじさんは、ま、どうでもいいや。
宿舎からは自由に出て行ってうろついてもいいって言われてたけど、この世界のお金も無いし、常識も分からないからその日は皆んな静かにしてた。
最初のオリエンテーションみたいなの有ったしね。
その時に就きたい職業について訊かれた。
狩野君はもちろん『冒険者』って言ってた。
僕も憧れてるし、やっぱり出来れば冒険者がいい。
おじさんもその道の通みたいで、冒険者希望。
村田さんだけは何の事なのか分からないみたいだったけど、なんか流されたみたいだ。
オリエンテーション担当の人から、何度も『傭兵』は危険な仕事だと言われたけど、そんなの当たり前だよね。
危険を乗り越えてこその冒険者だしね。
もちろん怖いけど、それを乗り越えないと、僕の最強無双ハーレム異世界生活は始まらない。
そんな僕たちに、戦闘の研修を受けさせて貰える事になった。
この辺もやっぱりテンプレだよね。
『ギルド』から先輩の冒険者が指導に来てくれて、魔物を倒して帰って来る頃には立場が逆転してるパターンて有るよね。
先輩から『さすがだなっ!転移者はやっぱり違うなっ!』とか思われるんだよ。
目覚めよ僕のチート!
翌日会った先輩冒険者は『軍人』だった。
なんかイメージ違ったけど、それでも最初に見たお姉さんは凄く美人で、『ああ、僕のハーレムの第二ヒロインはこの人か』ってピンと来た。
後ろに立ってた背の高い男の人は、優しそうでカッコ良かったけど、何故か僕は気に入らなかった。
直感で第二ざまあ対象に入れとく。
役回りは僕のヒロインにチョッカイをかけて袖にされる勘違い間抜けイケメンだね。
中盤までの僕のライバル的立ち位置かな?多分。
なんて、思ってたけど。
レベルなんて無い。
チートなんて無い。
奴隷なんて居ない。
渡されたスマホで色々調べたけど、僕に都合のいいものなんて何一つ無かった。
村田さんは早々にリタイヤ。
狩野君は粋がってたけど、一瞬でペシャンコにされて撃沈。
おじさんが余計な事して庇ってくれなかったら、あのイケメンに殴られてたかも。殴られれば良かったのに。
それでも僕は、まだ舐めてた。
武器を支給された時は心が踊った。それだけで無敵最強になれた気がした。
けど、実際の研修は死ぬ程辛かった。
寒い中無理矢理歩かされて、休憩もさせてくれないし、水すら飲ませて貰えない。
森があんなに歩きにくくてしんどいなんて、いつも読んでる物語には書いて無かったじゃないかっ!
おまけにアーネス監督にはすぐに蹴られるし、これが日本なら暴力沙汰で捕まってるよっ!
とにかく研修は散々だった。
怖いし、寒いし、しんどいし、とにかく辛かった。
物語で主人公が大概、気配察知、隠密なんかのスキルを取るのが良く分かったよ。
物語の中でも怖いから、絶対に自分が有利な立場でしか戦闘したくないからなんだね。
身バレせずに自分だけ攻撃。最高だよ。
だけど初めての実戦は何一つ得るものが無く、ただただ怖いだけだった。
そんな中、監督の2人は平気な顔してイチャイチャしてた。
頭のネジが飛んでるよ。
それに、アーネス監督はいずれ僕のハーレム要員なのにっ!
その夜は怖くて寒くて辛くて一睡も出来なかった。
明け方ようやく眠れそうになったけど、すぐに無理矢理起こされた。
ちゃんと寝かせてもくれないなんて、虐待だよっ!
そしてまた悪夢が始まった。
ゴブリンを倒しても、僕だけのスキルも、偶然手に入る何かも無かった。
僕だけレベルが現れる事も無いし、ただ、ひたすら嫌悪感と吐き気しかしなかった。
もう、日本に帰りたい。
最強なんてならなくていい、ハーレムもいらない。
なんで僕がこんな辛い思いをしなきゃならないの?
アーネス監督は本当は物凄く意地悪で、本当の意味の悪役令嬢だった。
あの人はやっぱりざまあ対象だ。婚約破棄されて惨めに落ちぶれて行けばいいんだ。
それでも他に僕たちには選択肢が無かった。
今更普通の職業なんかに就きたくなかった。
あれは、アーネス監督が意地悪で、イケメンと組んでわざと僕たちを辛い目に遭わせて楽しんでたんだよ。
今のうちに有望なライバルを潰そうとしてたに違いないと思う。
だって現実はあんなに辛いはずが無いよ。
でも、おじさんは冒険者は辞めるって、40代では体力的に無理だってさ。別の工場勤務の仕事に就くそう。
どうでもいいけどね。
僕と狩野君は2人で仕事を始める事にした。
スマホでPMSCギルドって所に登録して、宿は取り敢えず施設を使わせて貰えるから当分はそこでいいか。
本当はソロでやりたかったけど、流石に慣れてからじゃないとね。
そして最初の案件で、僕たちは狩られたんだ。
本当の地獄はここからだった。
何が有ったかなんて絶対に言いたくない。
結局助けて貰うまでに、2週間もかかった。
その間に狩野君はざまあされた。
なんでこんなに救助に時間が掛かるんだよ。本当に死ぬところだった。殺されなくても、本気で自殺しようと考えてた。
二度と冒険者になんてならないっ!
日本に帰してよっ!
帰してくれよっ!
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他者の作品を茶化すものではありません
自分なりに、普通の人がもし、異世界に転移したらどうなるやろうと考えたらこうなりました
その上で、
普通の人間なら生き残るの無理やな!
と言う結論に至り、ある意味何か特別な物を持っていないとダメやろうと思い、『功』という主人公が生まれました
ある意味功も充分チート野郎なんですが、そうでもしないと物語が成り立たないので
ご都合主義もある程度ないとね
それでも功は『最強』ではありませんし、これからもなりません
ある特定の条件が揃わないと無双も出来ません
近接専門なんで
皆さん最強、最強言いますけど、何と比べて最強言うてますのんやろか?
天下一武闘会でもしてランク決めてはるのんかな?
功はある程度強いですが、最強ではあり得ません
昔、アレキサンダー大王は広大な土地を支配した最強の大王でしたが、一匹の蚊にマラリアをうつされて死にました
最強の大王を殺したのは蚊ですから、本当の最強は蚊って事でいいですね?
最強っちゅうのはその程度なんですよね
なので本作では最強というものに意味はありません
生き残ったのが強い方って事で
余談でしたが、これからも不定期ですが、更新していきたいと思います
よろしくお願いします🤲
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