第88話後始末のその後は
精魂尽き果てた様子の功に肩を貸し、光作がマウンテンガーディアンの甲羅から降りて来る。
走り寄って来るサブとヒコ、そしてアーネス。
「アンタって奴はまた無茶な事して!」
「無茶はしてない。スキル使い過ぎて疲れただけだ」
「自分で撃ったミサイルに突っ込んでって、亀の甲羅に白兵戦仕掛けるのが無茶じゃ無かったら何が無茶なのよっ!」
《いつものお前だ》
とは言わない。うるさいから。
「あ〜、悪かった。次からは自重します」
謝っておく、これが円満の秘訣だ。ついでに本人に分からないように光作を指差す。
アーネスはそれを見て光作に向き直った。
「お爺ちゃんもお爺ちゃんよっ!ブリッコーネ相手に刀で勝負仕掛けるなんてっ!
いくらこっちの世界が全素薄いからって、それでも人間よりも腕力強いんだからねっ!」
「い、いや、すまん」
説教の対象を分散させるのには成功したが、それからしばらくアーネスの説教が続いた。
やはり、口ごたえしなくてもうるさいものはうるさい。
まるでアーネス一人ががまとも人間のように言うので、実は納得がいってない。
しかし口には出さない。
雪の降りしきる中の説教は辛いので、いい加減なところで功は話題を変えた。
「ところで剥ぎ取りとエンジェルグリーンは回収しなくていいのか?」
「あ!そうね、さっさと回収して捜索の続きしないとね」
そう、ジャベリナーとブリッコーネのファミリア、そしてマウンテンガーディアンは潰したとは言え、これで全部とは限らない。
早くしないと、陽が落ちるのも早い。
山でビバークするにしろ、一旦帰るにしろ、行動は早い方がいい。
取り敢えず皆でリロードし、次に備える。
リロードは基本だ。
スキルマテリアルと、討伐部位の回収はアーネスと光作に任せ、功はバイクを回収する。
しかし、今回も中々にハードだったが、その分得るものがあったと功は思う。
ブリボスは強かった。いや、闘い方が上手かった。
向こうの世界、LCWで戦っていたら、ひょっとしたら勝てなかったかもしれない。
今後もっと強い奴や、上手い奴がきっと出て来るだろう。
もっと研鑽しなければ!
《え?いや、違うだろ!もうあっちの世界行かないだろ!今回のだってこれは偶然だから!》
慌てて心の中で否定する。
後はアーネスの処遇、戸籍の問題をどうするかだ。
現代の日本で戸籍が無いのは非常にまずい。
光作に後で相談してみよう。何か良い知恵が有るかもしれない。
ただ、今回の事で光作も案外ぶっ飛んでいるのが分かったので、下手をすると、とんだ藪蛇になるかもしれないが・・・
とにかく戸籍の事は今考えてもどうしようもない。
功はさっさとバイクを回収して二人のもとに戻った。
「さーて、リザルトよリザルト!」
アーネスはすっかり機嫌が直って嬉しそうだ。
今回の収獲の内訳。
ブリッコーネのアミュレットが25本。
ブリッコーネのスキルマテリアルが25個。
マウンテンガーディアンの討伐部位である、額の中央の鱗が一枚。
マウンテンガーディアンのスキルマテリアルが全部で28個。
マウンテンガーディアンのスキルマテリアルは一つでは無い。甲羅の升の先端に一つづつ有り、破壊されていなかったそれが全部で28個回収出来たのだ。
効果は勿論ペンタリフレクションシールドである。
そして、割れて運べる分だけだが、甲羅の破片がおよそ400kg分。これは素材として売れる。残りは硬すぎて分解出来ないので、泣く泣く諦める。
そしてお待ちかねのエンジェルグリーン。
因みにエンジェルグリーンとは、全素を内包し、スキルマテリアル等を持つ植物の総称である。
葉が十二枚。
球根が四つ。
蕾が一つ。
これは花がスキルマテリアルで、初級治癒のファーストエイドが覚えられる。他は超高級ポーションの材料だ。
これは特に希少らしいので、良い値がつくのだとか。
ヒポクラテス雪サボテンが五株。
サボテンの針一本一本がスキルマテリアルなので、一株見つけると濡れ手に粟なのである。
これが178本。
本体はマナポーションの効果をブーストさせる材料なので、高く売れる。
デメテル草が六株。
根が、植物の
葉は34枚。物や土地に対しての
根も葉もスキルマテリアルだ。
以上、アーネス曰く概算で5万マナティ(650万円弱)にもなるらしい。
さらに今回の色々な情報も売れれば、後1万はいけるかもしれないとの事。
輝かんばかりの笑顔である。
それを見て、功は少し複雑だ。
アーネスはやはりあっちの世界に帰るつもりなのだろう。向こうでやり残した事も有るし、自分の居場所も確立している。
こちらで功と暮らす事は無い。
仮に帰れなかったとしたら、向こうに行った時の功以上に辛い気持ちを抱える事になるかもしれない。
アーネスにそんな目には遭って欲しくはない。
もしそうなったら・・・そうならなかったら・・・
功は頭を振って考えるのをやめた。考えても仕方がない事ばかりだ。
気付けばアーネスと光作はスキルマテリアルで盛り上がっていた。
「凄いじゃないお爺ちゃんっ!」
「どうしたんだ?」
功が声を掛けると、アーネスが笑顔で振り向いた。
「お爺ちゃん、エンジェルグリーンのスキマ、全部適性が有ったの!」
と、言う事は、光作の魔改造が進んだという事らしい。
功は天を見上げる。
悪い事では無い筈なのに、何だか複雑な心境だ。
「おまけにサブもペンタリフレクションシールド覚えたのよ!」
また一頭の魔狼が誕生してしまった。
そして、功は新たに何一つ覚える事が出来なかった。
これはこれで切ない。
因みにアーネスは、今回のエンジェルグリーンのスキルは既に全て持っている。
それから3人と二頭は先祖が隠れていたと言う伝説の鍾乳洞に向かった。
「やっぱりここだったか」
頭に積もった雪を払い、光作が口を開いた。
洞窟の前には毛皮で出来た粗末なテントが幾つか建てられ、焚き火の跡や、猪、鹿等の死骸が散らばっていた。
間違いなく、ブリッコーネの
だが、今は何も居ない。空っぽだ。
洞窟の中も見たが、入って水を汲んだ跡は有るが、やはり何も居ない。
入念に足跡を確認してみたが、二十六種類の足跡。
昨日倒したブリが三匹、ジャベリナーに喰われていた一匹、今日倒した二十二匹。
全部だ。誤差は無い。
因みにジャベリナーに喰われていたブリッコーネからは何も回収しなかった。触りたくなかったのだ。
残された荷物の中にはめぼしい物は何一つ無かったが、ブリボスが使用していた自動拳銃だけは証拠品として確保しておく。
「全部燃やしてしまいましょ。これは死体よりも永く残ると思うから」
「そうだな。山を荒らして家畜をやってくれた忌々しい奴らの痕跡は残したくないな」
光作も吐き捨てるように言うと、アイルを蹴り倒す。
3人で纏めてガラクタを山にし、ブリッコーネ達が使っていた装備も投げ込んで光作が火をかけた。
「あったか〜い」
アーネスは炎に手をかざして暖を取る。サブ、ヒコに警戒は任せて休憩だ。
やがてガラクタは燃え尽き、完全に炎が消えたのを確認して、土をかけて埋める。
3人と二頭は一旦、功が作ったシェルターに戻る事にした。
時間もそろそろ暗くなって来たし、雪の降る中、山を下っても事故りかねない。
シェルターで一泊し、明日の午前中一杯もう一度山を探索して下りる事にする。
その夜、交代で一応夜番を回すが、功は何故か一睡も出来なかった。
翌日。
雲は厚く空を覆っているが、雪は止んでいる。
降り積もった雪は15cmくらいで、歩行に支障が有る程でも無い。
雪を払って確認したブリッコーネ達の死骸も、半日しか経ったと思えないくらいに腐食が進んでおり、放って置いても大丈夫そうだ。
マウンテンガーディアンはしばらくかかりそうだが、春には溶けて分からなくなっているだろう。
最後にもう一度山を見て回ったが、異常は無さそうだと判断した光作は、帰る事を宣言した。
「あぁ、寒かった〜。お風呂入りた〜い」
デッキバンに乗り込んだアーネスがはしゃぎ、光作も、やっと愁眉を開く。
浮かない顔をしていた功も、帰れる事に少しはホッとしていた。
なのに・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
冬山の狩人編、終了
伏線て難しい。バレバレだし、回収するの忘れる。
次章、鉱山ダンジョン編(シリアス回予定)
章管理は諦めた
今更だが、ブリッコーネとはイタリア語で悪戯っ子やチンピラなどの意味
ヴィリヤッコは臆病者
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます