第87話無双ゲージが赤くなってから必殺技は炸裂する
アーネスは、功がブリボスから銃撃を受けたのを見て、咄嗟に駆け出そうとした。
だが、すぐにネックスプリングで跳ね起きたのを見てその場に留まる。
功はゴーレム装甲の悪者鎧を着ている。至近距離のマグナム弾を跳ね返す装甲だ。そうそう破られる事は無い筈だ。
しかも功は今の今、至近距離で銃で撃たれたというのに、何故あんなに元気に跳ね起きる事が出来るのだろう?
弾丸は跳ね返せても、衝撃は相当なものの筈だ。
相変わらずぶっ飛んでいる。
鎧の装甲で怪我は無いのだろうが、もう少し普通は驚き、怯む。
なんせ、魔物が銃を使ったのだ。
これは驚天動地の出来事と言って良い。出来る事ならすぐにでもPMSC協会に報告して全会員に注意喚起しなければならない事項だ。
相変わらず功のせいで、正確には功の戦っている魔物のせいだが、心臓がドキドキして動揺が治らない。
だが、仲間が無事で、自分の役割を全うしているのなら、自分も自分の仕事をしよう。
一度深呼吸して気持ちを落ち着ける。
装填したHEATロケットはこれっきりで後は無いのだ。これを外すとマウンテンガーディアンに対しての攻撃手段が無くなってしまう。
「ヒコ、周りよろしくね」
周囲に敵影が無くなったので、足元で待機しているヒコの頭にキスする。
「フォーゥ」
ヒコは低く返事をすると、眼光も鋭く辺りを
パンツァーファウストを肩に担ぎ直し、照準器を覗き込む。
距離は420m、教本通りにカチカチと照準器の距離を合わせ、後方安全確認。
マウンテンガーディアンは首を引っ込め、不動の如く崖前から離れない。
ペンタリフレクションシールドも解いていない。
恐らくマウンテンガーディアンにしてみれば、ブリッコーネの集団と自分達の区別はついていないだろう。
目に入る者全て敵と認識している筈だ。
間違いでは無いので、敵らしく振る舞って引導を渡してやろう。
このパンツァーファウストは、アーネスがこの仕事に就いた時から使っている使い古しの量産品である。
特に優れたスペックでも無く、ただただ高火力でコスパがいいという理由だけで使い続けているのだが、御多分に漏れずドクの整備と改造を、ロケット弾頭共々受けているので誤作動などは無く、狙いも精密、いつも安心して使用出来る。
アーネスからしてみれば、下手に高スペックになってしまうと操作が面倒でややこしくなるので、真っ直ぐ飛んでドカンと行けばそれでいいのである。
そのパンツァーファウストでマウンテンガーディアンを狙う。
狙いは首元の甲羅との境目だ。
距離は遠いが、慎重に狙いを定め、発射!
そしてこういう時に限って標的は動き出すのである。
マウンテンガーディアンは右側に受けた傷を見るべく首を巡らし伸ばした。
ところが首の長さが足りず、思わず身体全体が右回りに回ってしまう。
犬が自分から尻尾を追いかける動きだ。
結果、楕円の身体が90度方向を変えてしまい、最も分厚い甲羅の中央部に着弾。
超高温のメタルジェットは甲羅の表面を粉砕し、放射状に亀裂を入れる。
だが、そこまでだった。
一度は甲羅の腹側を土に着けたが、再びその力強い四つ足は小山のような身体を持ち上げる。
「Gaaaaaaaaaaahhhh!!」
マウンテンガーディアンは怒り狂い、怪獣のような雄叫びを上げる。
そのまま猛り、自分を傷付けた敵を探す。
「ごめ〜ん、失敗しちゃった」
上げた声とは裏腹に、アーネスは激しく動揺した。
《まずい》
何がまずいと言って、もう有効な攻撃手段が無いのもそうだが、マウンテンガーディアンは何をとち狂ったか、アーネスを見つけて斜面を削るような勢いで駆け上がって来る。
岩も灌木も跳ね上げ、砕いて進む様は戦車そのものだ。スピードも凄い。
何がノロマだ。聞いた情報はあてにならない。
巨体に似合わぬ想定外の速度で、怒りで我を忘れたように突進して来る。
「ダメ!ヒコ、逃げてっ!」
マウンテンガーディアンにジャベリンを飛ばし、迎撃態勢を取るヒコに撤退を命じる。
ヒコの足なら逃げられる。
しかし、自分は・・・
『アーネス!伏せろっ!』
功の声が耳に響く。
その声は「逃げろ」ではなく「伏せろ」と言った。
アーネスは逃げずに、最後までアーネスを守ろうとするヒコを抱きしめ、岩の陰に伏せる。
凄まじい音を立てて駆け上がって行くマウンテンガーディアンを見て、功は正直血の気が引く。
今日何回目だろう。このまま血圧の乱高下が続いたら、健康に良くないかも知れない。
「アーネス!伏せろっ!」
叫びながら駆け出す。
だが、位置的にも速度的にも走って行っては絶対に間に合わない。
ターゲットを視線指定。
諸元データ入力。
高速で流れるウィンドウ。
特定魔力波固定。
ターゲットロックオンのサイン。
3番、4番、発射!
スポン、スポン。
遠くでキャニスターからアクティブホーミングの、少し間抜けな発射音が聞こえる。
そう、功が用意した保険とは、愛車の魔改造V-maxならぬ、D-maxの車載兵器、アクティブホーミングである。
エイヴォンリーの事務所でドクに兵装をサプライして貰っていたのは言うまでもない。
ただ、ミサイルはキャニスター全体を交換しなければならないので、使い切ってからの交換と言われていた。
それでもまだ4基残っていたのを思い出したのだ。
アーネスが血祭り云々で大見得を切っていた時に、ストレージからバイクを取り出していたのである。
ブリッコーネと対峙する前から
それを兜に内臓してあるインターフェイスシステムを使い、スマホ経由で遠隔操作したのである。
ポップアップダイブ方式のミサイルは、一度上空に舞い上がり、ターゲットの魔力波を認識し、鷹のように一直線に獲物に襲い掛かる。
「爺ちゃんも伏せてっ!」
後方に叫ぶ。
マウンテンガーディアンの方でもミサイルを発見したのだろう。
立ち止まり、シールドを展開している。
そこに着弾。
だが、功のアクティブホーミングはアーネスのHEATロケット、つまり成形炸薬弾頭とは違い、単純な榴弾だ。
爆発力は有るが、ペネトレート無しでは貫通力は弱い。
一発目でシールドを完全に消滅。余波を受けるマウンテンガーディアンに二発目が甲羅に着弾。
功は腕で破片を防ぎながら走る。
爆煙の向こうでマウンテンガーディアンが動く音がする。
功とマウンテンガーディアンの距離はもう僅か100m程だ。
「アーネス、アーネス!無事か⁉︎」
『私は大丈夫!ヒコも!アンタ何したの?』
「バイクのミサイル撃っただけだ。それより動けるなら下がれ!」
『どうするのっ⁉︎下手に攻撃するとリフレクションで反射されてダメージ喰らうわよ』
「どうするかは分からん、見て考える」
『また無茶しないでよっ!』
「分かってる!」
爆煙が晴れて来た。
マウンテンガーディアンは、甲羅の亀裂こそ広がっているようだが、まだまだ健在だ。
シールドを破っても、甲羅自体が相当硬い!
ただ、甲羅の中央から体液らしき物が流れ出ており、足下まで滴らせている。
《何となくイケそうな気がするな》
だが、マウンテンガーディアンは再び堅固なシールドを全面に張り巡らせ、文字通り亀の子のように閉じ籠る。
下手な攻撃は出来ないらしい。ならばやる事は一つ。
シールドを対消滅させて、その間に内側に潜り込む。
ターゲット指定。
5番、発射。
功は迂回するように麓側から回り込んで走る。
ミサイルは山頂側から飛んで来る。なのでマウンテンガーディアン自体を遮蔽にし、少しでも被害を受けないようにする。
《よしっ!》
着弾の瞬間ヘキサシールドを全力展開。少しでも爆風が弱まったところで、腕を顔の前でクロスさせて突撃!
まだマウンテンガーディアンのシールドは復活していない。
一旦追い越して山頂側から甲羅にジャンプ!
今のミサイル攻撃で甲羅の中央はさらにへこんでいる。
《ハイエクステンション》
両手で構えた長巻き銃剣を掌でくるりと回し、逆手に握り込む。
甲羅の縁に足をかけ、さらにジャンプ!
長巻き銃剣に全力で魔力を注ぐ。
銃剣が纏った蒼い光の輝きが大きくなり、鋭さを増す。
狙うは亀裂の中央。
《ペネトレートブレイク》
マウンテンガーディアンが功に気付いて、その蛇のような首を回して噛みつこうと口を開く。
《気付くのが遅いっ!》
思い切り亀裂に突き刺す!
《ハイブレイクッ!》
「Gooooohhh!」
ハイエクステンションとペネトレートブレイクの併せ技。
ハイブレイク。
今名付けた。
心の中で何か念じた方が上手く起動するような気がしたからだ。
拡大されたケペシュの創傷力、貫通力、高周波がうねりとなってマウンテンガーディアンの体内を掻き回し、内臓を広範囲に粉砕したのが分かる。
ダメ押しで最後の
功は現在、スキルを頑張って4つ同時並行で起動出来る。
3つまでは比較的簡単に起動出来るが、4つは余程に深く集中しないと出来ない。
しかしこれ程の集中は長くは持たないのだ。
そして上位スキルのハイエクステンションとペネトレートブレイクは、それぞれ2つ分程の集中力を使う。
慣れていないせいも有るが、今はこれが精一杯だ。
だが、今回は上手く行った。
「つ、疲れた・・・」
甲羅の隙間に突き立ったケルベロスに、縋りつくように身体を支える。
思わず気を抜いたその時。
『功っ!!』
アーネスの悲鳴が聞こえる。
振り向くと大きく口を開けたマウンテンガーディアンの頭が功に迫っていた。
《しまった!まだ死んでなかったのかっ!》
瀕死ではあるが、マウンテンガーディアンの『命』の配列はまだ切れていない。
油断して力を抜いた功に迫る
「ふんっ!」
紫電一閃!
気合いと共に紫の稲妻が走る。
「詰めが甘いぞ功」
いつの間に甲羅に上がっていたのか、エクステンションした野太刀の長さ全体を使い、マウンテンガーディアンの首を両断した光作がニヒルに笑っていた。
「あ、ありがとう爺ちゃん、助かった・・・」
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