第86話隠し剣!必殺ブリ返し!

視線はブリッコーネに固定し、その場でトントントンとフットワークを踏む。


身体の反応は上々だ。今は寒さも感じない。


サボットスラグはあと3発、OOOトリプルオーバックもあと2発は残っている。

ホーネットはフルロード、魔力も半分近くは残っている。


功はゆっくりと歩いて近づく。

その間に出来るだけ観察する。

クセは?

利き手は?

武器のコンディションは?

足場はどうだ?


相手が刀だからこちらも剣で、などという武士道精神は持ち合わせてはいない。


全力でぶち当たる。

渾身の力で退しりぞける。

全身全霊でぶっ倒す。

あらゆる手段を使って灰燼に帰す。


ブリボスがわらう。

明らかに嗤った。元が笑顔でも分かる程に嗤った。


さすが戦闘種族、死の恐怖など微塵も無いのだろう。

距離は30m、功は駆け出した。


視線はブリボスに固定したまま、左手のホーネットを二連射。


狙いはボスではない。

アーネスの牽制射撃が収まったので、手下ブリッコーネ三匹が光作に向かって行ったのだ。

その中の一匹をすれ違うようにして不意を突き、頭と腹を撃ったのだ。


これで光作、サブ組は一対一が保てる。トドメは後回しでも大丈夫だろう。


アーネスはパンツァーファウストの弾頭を装填しているだろう。ヒコはその護衛についている。

布陣は万全。

後は自分がボスを倒せば良い。


功は続けて腰だめでケルベロスを撃つ。サボットスラグだ。

驚いた事に、ブリボスは弾丸を躱してみせた。


《マジか!弾丸躱せる奴がネオ以外、この世に居るのかよっ⁉︎》


黒のロングコートにサングラスがトレードマークの救世主なら弾丸を躱すのもお手の物だろう。

目の前のブリボスはあんな二枚目では無いが、実力だけは確かなようだ。


だが、驚きはしたが、すかさずサボットスラグを二連射する。

距離は15mも無い。ブリボスはそれも躱した。


これでサボットスラグは撃ち止め、残りはOOOバックとホーネット だけだ。


《分かった!コイツ、銃口がどっち向いてるか見てるんだ!》


だからと言って躱せるものでもないだろうが、確かにブリボスには当たっていない。


試しに銃口をゆらゆらと揺らしてみる。

やはりブリボスは銃口から逃れるように動く。

どうやら確定のようだ。


功は驚いているが、功自身そうやってゴーレムの砲撃を躱していたのである。


功はさらに加速する。

当てられなければ、当てられる距離に詰めれば良い。

という独自の論理で接近戦に挑む。


右の斬り下ろしが来る。


《シールド》


さらに、


《マイン》


無駄になってもいいので、ブリボスの一歩後ろにスタンブルマインを敷設する。


接近戦ではあまり大きなシールドはかえって邪魔になる。なので敢えて小さく展開すると、右の斬り下ろしが変化してシールドを迂回する軌道を描く。

左からも横薙ぎの斬撃。 


ギリギリで右からの攻撃はシールドをもう一枚小さく出して防ぐ。左の斬撃はケルベロスのソードブレイカーで受けた。

ホーネットを発砲。


ブリボスはなんと、展開している功のヘキサシールドに手を掛けて無理やり身体を捻る。


《この距離でよけるのかよ!》


ブリボスからの足払い、からの右の突き、そして左の下段斬り!


どうやって凌いだのか自分でも分からないくらい忙しい。


瞬間的盾展開フラッシュシールドで足場にしたシールドを蹴って後方宙返り、空中のまま伸ばされた右の突きにケルベロスを発砲。

下段斬りから迫り上がって来る斬撃をホーネット のバレルに沿わせて受け流す。


《ヤバい!強いぞこいつっ!》


着地してすぐ全面に大きくシールドを展開。とにかく一回息をつきたい。


功はゴーレム戦を思い出す。

ゴーレムの正確無比で、機械的な回避も苦戦したが、ブリボスに感じるのは、それ以上の不気味さだ。

未来予測と言うよりも、功の思考を読んでいるフシがある。


《強いってか、上手いのか》


本物の戦巧者とはこういう事を言うのだろう。

今のケルベロスも、どうやったのか分からないのに躱された。


すぐにシールドを解除して、突っ込む。下がれば気持ちが負けそうだ。


《エクステンション!》


長巻き銃剣で頭に向けて突きを打ち込み、モーションの途中からスキルを乗せる。


これなら間合いは掴めないだろう。

さらに突き切らずに、関節に遊びを残して躱された時の為に次のモーションに移行する溜めを作る。


果たしてブリボスは頭を振ってスウェイで躱す。

だが、それは予測済みだ。


《沈めっ!》


銃剣の刃を返し、刃の角度を斜めに取って強引に軌道を変えて首を薙ぎに行く。


しかしこれもブリボスは対処してみせた。


《どんな反神経してやがんだよ!》


自分の事を棚上げして心の中で悪態をつく。


ブリボスは右の柳葉刀を上げ、銃剣に沿って滑らせるようにしてなす。


だが、これは功の誘いである。

ブリボスは銃剣を逸らせながら、その反動を利用して功に斬りかかる。

剣道の『後の先』の動きそのままだ。

それを大きく踏み込んでケルベロスのソードブレイカーでガッチリと柳葉刀を噛む。


こっちの世界に来てパワーは弱っていても、それでも人間よりは力が強い。

片手では到底支え切れない。


左手のホーネットを空中に放り投げる。

そのまま左手で噛み込んだ柳葉刀の峰を掴み、肘でケルベロスを保持する。

左足で踏み切って身体ごと横回転して捻る!


柳葉刀は折れはしなかったが、ブリボスからもぎ取る事には成功した。


すかさず横回転した功に足払いを掛けるブリボス。

功は奪った柳葉刀を地面に突き立ててその足を迎撃。

ブリボスは自ら刃に足を突き立てたが、すぐに返す。

その隙に功は、柳葉刀を支えにしたまま左足を前に蹴り出した。


咄嗟に左の柳葉刀の腹で蹴りを受け、一歩下がるブリボス。

ブリボスがスタンブルマインを踏むのと、功が落ちて来たホーネットを掴むのが同時だった。


反射的にホーネットの残弾3発を三点にばら撒くように全弾撃ち尽くす。


しかし、ブリボスは一瞬蹈鞴たたらを踏んだもののすぐ立て直す。1発は脇腹を掠ったが、残りの2発は避けた。


《マジか、あれ躱すのか》


もう弾はケルベロスのOOOバックが1発だけだ。

ホーネットをホルスターに戻し、返す手で鎧通しを抜く。


ブリボスは空いた右手で傷付いた脇腹を庇うようにして、滑るように下がる。


追う功。


一歩踏み出した時。


頭と胸と腹に小爆発が起こったような衝撃を感じた。


《な、何だっ⁉︎》


気が付けば後ろにひっくり返っている。


「かはっ!」


肺の中の空気が一気に押し出された。


『功っ!』


アーネスの悲鳴が聞こえるが、返事をする余裕が無い。


ブリボスが嗤っている。

その手には小さな自動拳銃が握られていた。

小さく見えるが、本当は大口径の大型拳銃であろう。


恐らくそれも、かつて殺した傭兵から奪った物なのだろう。剣を奪えるのだから、銃も奪える道理だ。

だが、まさかそれを真似して使う程に知能が有るとは!


汚れ、傷付いた銃。

既にホールドオープンして残弾が無い事を示しているが、さすがに弾の概念は無いのだろう。

何度も空撃ちしようとして、弾が出ない事を訝しそうにしている。


功は撃たれた腹と胸を見た。

腹に当たった弾丸は、腹部の蛇腹装甲を少しへこませて止まっている。胸に当たった弾丸は跳弾となって何処ぞに飛んで行ったようだ。

兜に当たった弾も同じだが、中身の頭は保護フィールドのお陰でダメージは無い。

首は多少痛いが、それだけだ。


大口径拳銃弾の至近距離での被弾は強烈なパワーがあったが、ゴーレム装甲は優秀だった。


あの腹を庇うような動きは、腰蓑に隠した拳銃を抜く動作を誤魔化すためだったのだ。


功は全身に冷や汗をかいた。

これは油断だろうか?いや、完全に予測不可能な事象のような気もする。


それとも異世界の魔物は、功が知らないだけで銃を使うのは当たり前なのだろうか。


だが、二度目は無い。

もう一丁銃を持っていようが、背中にバズーカを隠していようが、同じ手は通用しない。


まともに銃弾を食らっても、装甲で止められた事が功を勇気づけ、尚且つ冷静さを取り戻させた。


ネックスプリングで跳ね起きる。


ブリボスが傷を負ったのは事実だ。動きも鈍っている。


エクステンションのマルチタスク。

長巻き銃剣と鎧通しを両方


長巻き銃剣で斬り込み、鎧通しで突く。


ブリボスは柳葉刀で銃剣を受けると、巻き込むようにして鎧通しも止める。


《上手いっ!》


巻き取られたせいで、自分の腕同士がぶつかって思い通りに動けない。


成る程、こうして受ける方法も有るのかと功は内心感心する。

感心しながらも両手を使い、全身の力で押し込む。


しかし、ブリボスも今や両手で柳葉刀を操っている。

上背からも、膂力からも鍔迫り合いは圧倒的に功が不利だ。

押し戻される!


だが、


《隠し玉があんのはお前だけじゃない!》


初めて使うスキルだ。

確実に使うなら、今のような一瞬の溜めと隙が必要だった。


《ジャベリンッ!》


サクッ。


左目から後頭部に薄く蒼い光の槍が抜けた。


ほぼ0距離からのフォトンジャベリン。

上手く行ったようだ。発射の起点もある程度任意のようだ。


ブリボスの手が緩む。


同時にマウンテンガーディアンの方から爆発音。

どうやら功が無事らしいと判断したアーネスが、パンツァーファウストを発射したようだ。


力が緩んだブリボスを、肩まで使って鎧通しで押しやり、長巻き銃剣の刃を返して横に薙ぐ。

首を斬り落とし、ふらついた所に鎧通しで腰椎にトドメ。


《つ、疲れた〜っ!》


時間にしては僅かな間だが、濃厚過ぎる時間だった。思わず膝を着きそうになるが、堪えて光作を振り返る。


向こうもどうやら片が付いたようだ。

何故かまた野太刀を握っているが、地面に倒れたブリッコーネから刀を引き抜いているところだった。

サブも無事のようだ。


《これで終わったか?》


しかし、兜の通信システムからアーネスの声が聞こえた。


『ごめ〜ん、失敗しちゃった』

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