第85話木下's lineage
功は気持ちを落ち着ける為、敢えて悠長に武装を確認する。
《ケルベロス装填良し、ケペシュ着剣良し、ホーネット装填良し、ハンドグレネード良し、鎧通し良し、予備弾良し、兜装着良し、
入る。
遮蔽にしている突き出た石灰岩に背中を預け、ケルベロスを身体の前に構えて眼を閉じた。
視える。
残念ながらこちらが風上で、いつもより範囲は狭いが背中越しでもある程度ブリッコーネの位置が分かる。
奴らも上手く遮蔽を利用してこちらに迫って来ているのが感じ取れる。
突撃要員の剣持ち達を援護するような弓の斉射が
ただでさえ命知らずのブリッコーネがどんどん迫って来る。
「爺ちゃん、アーネス、シールド切るから上手く避けてくれよ!」
光作とアーネスに叫ぶ。
「「了解!」」
返事を聞く前に飛び出す。
剣持ちはもう100m近くに迫って来ている。
功はわざと姿を晒す事により、矢を自分に集中させる。
斜面を危険な速度で駆け降りる。
まずは剣持ち五匹だ。先頭の一番大きな奴に狙いを定める。
そいつは猫背の上体を持ち上げ、本来の上背で功を待ち構えていた。
矢を避けるのにシールドを展開すれば、自分がそのシールドにぶち当たってしまう。だから飛んで来た矢は避けるか、斬り払らうしかない。
おまけに全力で斜面を駆け降りながらの射撃は不可能。
辛うじて左手で鎧通しを抜き、飛んで来る矢を払う。
身体の大きなブリッコーネに迫る。相手のウェイトは概算140kg、真・悪者鎧を纏い、フル装備の功よりもさらに重い。
相手のブリッコーネが持っている剣も、人間サイズでは
まともにやり合ったら勝てる見込みは無い。
勿論まともにやり合うつもりは無い。
全速力からの急制動。左脚を大きく前に出しブーツで山肌を削り、盛大に雪と土、岩の破片を飛ばす。
スライディング目潰しである。
卑怯と言うなかれ、もとより体格差があるのだ。ミドル級とスーパーヘヴィ級越えでは試合にならない。
しかし相手もさるもの。
長い脚を使って大きくストロークを取り、半身になって滑らかに大半の目潰しを躱す。それでも飛んで来る礫は、顔の前に剣を寝かせ、剣の平で弾く。
そしてそのまま流れるようにスイングして来る。
力任せではない、確かな技術を感じさせる斬り込みだ。
鮮やかな斬り返しに功は冷静に対処する。駆け降りて来た勢いはまだ完全には止まってはいない。
左手の鎧通しと右手のケルベロスのソードブレイカーを交差させた十字受けで、ブリッコーネの斬撃を文字通り跳ね返す。
質量攻撃と化した功に、ブリッコーネは大きく体勢を崩した。
功はそのまま右肩をブリッコーネの
尖ったエルボーアーマーをまともに食らったブリッコーネは、前歯と鼻血を撒き散らしながら2、3歩下がる。
間合いが開くとすかさずケルベロスを撃つ。
今回はさらに強力な
至近距離故に全弾腰椎に命中。マナドライブの効果で完全に上下に引き千切られてブリッコーネは倒れた。
そのまま功は剣持ち達に突撃する。
個体の見分けはつかないが、中には昨日の生き残りも居るだろう。
やられた分は纏めてお返しするつもりだ。
足場の悪い岩場の斜面だが、条件は向こうも同じ。寄って来たブリッコーネの斬撃をソードブレイカーで受ける。
押し負けそうになるが、ソードブレイカーで噛んだ相手のブレードを捻り、体勢を崩して足払いで切り抜ける。
別の個体に背中から斬りかかられるが、鎧通しを背中に回して受け止め、長巻き銃剣で目前のブリッコーネの胴を払う。
払い切った先にいたブリッコーネが鋭く突き込んで来る。
それと同時に発砲。胸に着弾。
だが、相討ちのような鋭い突きは止まらなかった。冷やりとしたが、功の方がほんの一瞬早い。
背中に回していた鎧通しを前に持って来てブレードを逸らす。
ブリッコーネは胸を吹き飛ばされながらも死には至っていない。
ついでにケルベロスのグリップで殴り飛ばすが、トドメを刺す暇は無い。
背後のブリッコーネが噛みつくような勢いで迫ってきたが、スタンブルマインで無理やり隙を作る。
腹に鎧通しを突き立て、払い腰の要領で投げ飛ばして頭を突き出た岩に打ち付けてやる。
カエルのような声を上げるブリッコーネの喉を踏み潰し、長巻き銃剣で突いて止め。
飛んで来た矢をシールドで防ぎ、弓持ちに迫る。
光作とアーネスの援護射撃もあり、確実に各個撃破していく。
功の感想としてはこのブリッコーネのファミリアは各個体の武術のレベルが高い。
城砦の山で戦った斥候ブリッコーネも強かったが、技がより洗練されている印象だ。
だが、パワー自体は弱い。おそらくそれは全素濃度の関係で力が出せないのだろう。
ブリッコーネにしたら、完全アウェイなのだ。
軽く見ていい相手ではないが、対処出来ない程ではない。
光作も随分下に降りて来ていた。
『功!お爺ちゃんが!』
アーネスの悲鳴に振り向く。
気が付けば光作は銃を置き、野太刀でブリッコーネ二匹と斬り結んでいる。
二合三合と打合い、お互いに攻撃的な八相に構えて摺り足で位置を変える。
《何やってんだ爺ちゃん!》
功は首の毛が逆立つ。
野太刀や大太刀は通常の日本刀と扱いが違う。
中国の斬馬刀と同じだと言われる向きもあるが、元は太刀であり、騎馬武者が馬上から使用するものである。
柄頭に手貫緒と呼ばれる紐が有り、これに左肘を通し、右手は鍔元を握り、手首は動かさず肘から先を一体にして斬り掛かる太刀である。
遠心力を利用し、薙刀や槍に近い運用方法なのだ。
功の長巻き銃剣の使い方もこちらに近い。
その野太刀を構え、剣に持ち替えた弓持ちブリッコーネと丁々発止と遣り合う光作は、何故か生き生きとしていた。
功の見立てでは、弓持ちの方がファミリアの中でもヒエラルキーが高く、また剣持ちよりも武術も一段達者だ。
サブが居るとは言え、その二匹と互角に渡り合っている。
この爺いあってこの孫なのである。木下家の血は争えないのだろう。
さらに二合程斬り合っていたが、サブの牽制で意識が逸らされたブリッコーネに、合図も無く見事にスイッチした光作とサブ。
瞬時に相対する敵を変え、隙を突いて旋風斬りをお見舞いし、腰斬する光作。
返す太刀で遠間のブリッコーネにエクステンションを使った鋭い突きを送り込み、見事急所を抉る。
間合いの取り方が絶妙に上手い、呆れた72歳だ。
対して、当てる事は諦めたのか、牽制と援護攻撃に専念するアーネスの隣では、ヒコが身軽に動き、フォトンジャベリンを飛ばしてアーネスに近づけないようにガードしている。
驚いた事に、飛んで来る矢にフォトンジャベリンを当てて撃ち落とすという離れ技までやってのけている。
恐るべし野性。
この時点でブリッコーネの半数以上は撃破している。LCWではこうも上手くは行かなかっただろうが、ホームの有利さを最大限に利用させて貰う。
残るブリッコーネは、ボスの弓持ちが一匹とマウンテンガーディアンとやり合っていた剣持ちが三匹。
残りは踏み潰されたり、尻尾攻撃で締め殺されている。
ボスの判断ミスだろう。
二正面作戦は完全に失敗だ。
そしてさらに失敗を重ねて行く。最も愚かしい戦術、戦力の逐次投入、つまり小出しにしてその都度撃破される道を大将は選んでしまったのだ。
初めから全員で掛かって来られたら、もう少し苦戦しただろう。
しかし今や、サブとヒコを合わせると数の上でも飛び道具でも戦力は上回っている。
だが、手負いのマウンテンガーディアンは厄介そうだ。
「アーネス、パンツァーファウストでマウンテンガーディアンを狙え。ブリッコーネは俺と爺ちゃんでやる」
『了解、最後まで油断しないでね。
あんまりハラハラさせないでってお爺ちゃんにも絶対!伝えといて!無茶すんのはアンタんちの遺伝的な病気なのかもね!まったく!』
アーネスはお冠だが、実は功もそれを疑っている。
もしそうだったら無謀なのは、ジブンノセイジャナイ!
残りのブリッコーネは遠巻きに功と光作を半包囲しており、ジリジリと包囲を狭めつつある。
弓持ちだったボスは矢が尽きたのか、剣に持ち替えていた。中国の柳葉刀のような重量武器だ。
それも左右の手に一本づつ。
群れのボスあるあるだが、ブリッコーネにしてはよく太り、上背も大きい。
いい物を食って来たのだろう。アーネスではないが、なんだかそう考えただけで腹が立つ。
功が睨みを利かせ、アーネスの散発的な援護射撃で今は大人しくしているが、隙有らば襲いかかって来るだろう。
マウンテンガーディアンはエンジェルグリーンの前に陣取り、意地でも渡さない構えだ。
お陰で追撃が無く、一度に全部相手にしなくて良い。
「爺ちゃん、アーネスが無理すんなってさ」
ブリッコーネから目を離さず光作に伝言を伝える。
「このくらいは無理とは言わんよ。ま、気持ちは有り難いがな」
こちらもブリッコーネを睨み付けながら、敢えてゆったりとタオルで刀身に拭いをかけつつ、光作が答える。
「それなら爺ちゃん半分頼むよ。今の内にリロードして貰っていいかな?」
「おう。化け物め、ヒコの怪我は奴らの剣でつけたものだろう。アーちゃんのお陰で治ったとは言え、借りは返しておかんとな」
野太刀を鞘に仕舞い、背中に担ぎ直すと、ベレッタに装弾する。
弾はバックショットだ。
「じゃ、俺は大将の相手してくるよ」
「油断するなよ」
「そっちこそ」
功は鎧通しを仕舞い、ホーネットを抜く。
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