第82話正しい魔狼の作り方

「お爺ちゃん分かったでしょ、貴方の孫はアブナイ奴なの。ちょっとお爺ちゃんからも注意してあげて」


「何を吹き込んでんだよ!」


「功、その、大丈夫なのか?」


光作の顔色が心なしか青い。


「大丈夫だって。何発か貰ったけど、こっちの世界じゃ威力弱くなっててさ、それも鎧が全部弾き返したから」


「いや、それもなんだが。

本当にお前は悪の組織の怪人になってないんだな⁉︎改造なんかされてないよな⁉︎」


功は軽く目眩を覚える。


「大丈夫よ、お爺ちゃん。もしそうなっても私がきっと更生させるから!」


アーネスが眼を潤ませて光作の手を握る。


「話を盛るな」


取り敢えずアーネスの口を後ろから手で塞ぐ。ついでに鼻も塞いでおく。

最近はアーネスでも冗談を言うようになったようだ。以前よりも心にゆとりでも出来たのだろうか。


それはさておいても、スキルや魔力で功自身が魔改造された経緯が有るので、内心忸怩たる思いはある。

だが、ここはハッキリとしておかねばならない。


「爺ちゃん、確かに俺はあっちの世界に行って色々と経験もした。

昨日も説明したけど、あっちの世界には魔力が満ちてて、魔法スキルなんて言う不思議な力も有る。

俺自身そのスキルを何個か身に付ける機会が有って、それで今まで生き延びて来たんだ。

昨日アーネスが俺を助けてくれたの見たろ?あれはアーネスの魔法スキルだって説明したよな?

けして悪い事ばかりじゃないんだ」


言い終わるとアーネスを解放する。


「お前も茶化さないでくれよ。こっちの人間にはスキルも魔物も身近な話しじゃないんだ」


「プハッ!」


そこまでしてないが、アーネスは大袈裟に息をついた。


「アーネス」


「ごめんて!お爺ちゃん、ごめんなさい。

言った事は全部本気だけど。確かに功は変態的戦闘魔人で悪の怪人にしか見えないけど、中身はいい奴よ」


冗談では無かったらしい。


「フォローになってない。やり直し」


「功は悪い人じゃないから大丈夫!うちの会社の稼ぎ頭だし、ジェントルメンだから!」


「まあ、俺も功が悪の組織に入ったとは本気で思った訳じゃないんだが・・・

その、あまりにも何だかな、戦い方が荒ぶっていると言うか」


「分かる!分かるわ〜、お爺ちゃん。確かに私達の世界って、ここよりは危ない所だけど、功の戦い方ってあっちの世界でもちょっと異質なのよ。

常識が通用しないって言うか、銃持ってるくせに普通の使い方しないって言うか。何の為の飛び道具なのか理解してくれてないって言うか」


全部自分のせいだったらしい。

功は落ち込んだ。





そんな茶番は有ったが、戦場は検分せねばならない。

戦果は、光作が五匹、アーネスが二匹、サブが二匹、ヒコが二匹、功が八匹。

全部で十九匹だ。

大体ジャベリナーの一集団ファミリアが二十前後なので、残らず討伐出来たと見ていいだろう。


「やっぱりこっちだと魔石は無いみたいだな。全素薄過ぎて結晶化する前に拡散すんのかな?」


雪の降る中地表を探すのは骨が折れるが、自分達ははこれが商売だ。


「うーん、そうかもしれないわね。これも記録撮ったらどこかが買ってくれるかもしれないからさ、写メでもいいから記録撮っといてよ」


アーネスは完全に帰る事が出来ると考えている風だが、果たしてどうなのだろう。


「帰れなかったらどうすんだ?」


「あ」


その可能性は考えてなかったらしい。スキルマテリアルを採取している手が止まった。


「ま、そん時はそん時だな」


敢えて功は簡単に言う。アーネスと一緒にこっちの世界で暮らす。


悪くない。


戸籍の問題さえクリアすれば、だが。


「そ、そうね、そん時はよろしくね」


「おう」


そんな2人を、光作は微笑ましく見ていた。

サブとヒコは、討ち取った獲物に喰らいつかないように訓練されているので、今は大人しく光作に口の周りを濡れタオルで拭われている。


何しろ血で真っ赤に染まっているのだ。

このサイズの、見た目狼が口の周りを血で染めていると、生物として何か根源的な恐怖を呼び起こさせる。


功もサブとヒコでなければ怖くて近寄れないだろう。


昔は獲った獲物の耳をその場で切り取り、勢子である犬にご褒美として食べさせて、より確実に獲物を追わせるように仕向けていたと言うが、サブとヒコはそういう風にはしつけられていない。


そんな事をしなくても確実に獲物を追い詰めてくれるし、命令には忠実なのでその必要が無かったのである。


功とアーネスで討伐部位である左手の親指の爪、スキルマテリアルである右手の真ん中の爪を集める。


「アーネス、これ、試していいか?」


功はジャベリナーのスキルマテリアルを摘み、アーネスに訊ねた。


「いいわよ、これが吸収出来れば丸腰でも昨日みたいな事にはならないでしょうし」


そうなのだ。同じ事を功も考えていた。


取り敢えず集めていた討伐部位とスキルマテリアルを、ゴミ袋用に持って来ていたコンビニ袋にそれぞれザラザラと移す。


功は兜を脱ぎ、指先で摘んだ爪を見つめる。

サラサラと崩れるスキルマテリアル。


《良かった!吸収出来た》


思わず笑顔でアーネスを振り返る。


「やった!」


アーネスも微笑む。


「良かったわね、これからもしっかり働くのよ!」


「おう!任しとけ」


その時、ヒコが功に近づいて来て、しきりにスキルマテリアルが入った袋を嗅いでいる。


「何だ?どうした?スキルマテリアルが気になるのか?」


功は上機嫌でヒコの前にスキルマテリアルを一つ摘み上げた。


それを見つめるヒコ。

サラサラと崩れるマテリアル。


「え?おいっ!」


「どうしたの?」


アーネスも採取を終えてやって来た。


「ヒコが・・・スキル吸収した・・・んだと思う・・・」


アーネスも目を丸くする。


「え?マジで⁉︎」


アーネスはヒコのそばに座り、その首に腕を掛けて近くの岩を指差した。


「ヒコ、あそこ狙って」


ヒコは前脚だけを伏せ、戦闘態勢をとると、アーネスが指した岩に向かって牙を剥いた。


バンッ!


薄いグリーンの光の槍が飛び出し、岩を抉る。


本家のジャベリナーどころの威力ではない。


「おいおい・・・」


言葉が出ない。


光作もアーネスも功も唖然としてしばらく動けない。


「サブは?」


アーネスの言葉に、一瞬功はサブを守ろうとする。


「おい、サブまで魔改造するな」


「いや、功、やってみよう」


意外な事に光作は乗り気のようだ。


「どうやってやるんだ?」


功は渋々スキルマテリアルを差し出す。


「いや、ただ顔の前に差し出しただけなんだけど」


光作はサブの前にスキルマテリアルを差し出してみた。


サブは最初ちょっと匂いを嗅いだが、興味無さそうにそっぽを向く。


「サブには適性が無いのかも」


アーネスの言葉に、残念そうに光作は頷く。


「そうなのかもな」


「お爺ちゃんはどうなの?」


「おい、アーネス!」


「だって」


「む、試してみよう。功、どうするんだ?」


相変わらず光作は謎にノリノリだ。


功は深く溜息を吐き、仕方なく説明した。


「俺の場合は胸に吸い込むって言うか、心臓に刺さるイメージをしたかな」


「そうか」


光作は言われた通りにやってみた。


「む、何も起こらんな」


残念そうだ。


「人によって適性が有るみたいだからね。お爺ちゃん、これやってみて」


そう言いながらアーネスは昨日のブリッコーネのスキルマテリアルを出した。


「これは?」


「昨日のブリのスキマよ。さっき功が剣身を延長させたでしょ?剣身だけじゃなくて飛び道具の射程も伸ばしてくれるの。エクステンションて言うんだけどね」


光作はまた試してみる。


サラサラと崩れるブリッコーネの逆トゲ。


「マジか・・・」


功は天を仰ぎ、光作は目を丸くしている。


「やったねお爺ちゃん!」


アーネスは何故か嬉しそうだ。


光作は腰の剣鉈を抜く。


「ふんっ!」


気合いを入れると、剣鉈から深い紫の光が湧き起こり、ブレードを形成する。


「おおっ!」


「最初からそんだけ出来るの凄いな爺ちゃん。でも銃撃つ時は気をつけろよ、射程伸びた分弾道変わるから。大体1.5倍から2倍位まで伸びるからさ」


光作はエクステンションを解除し、腰に剣鉈を戻す。


「おお、そうか、それもそうだな、沈下率が変われば弾道も確かに変わるからな。慣らしてから計算し直さないとな」


弾丸は火薬量などであらかじめ弾道計算されている。分かりやすく言うと、100m先でどれくらい沈下するかが撃つ前から分かっているのだ。

光作の猟銃のスコープは大体200mで照準ゼロインされている。

沈下分も計算されてゼロインされているので、弾道が変わったのに、そのままにしていれば当たらなくなる道理なのだ。


光作は嬉しそうだ。気持ちは分かるが、功は複雑な気分である。


身内がどんどん魔改造されて行く。

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