第63話マッドなマックステイストでアイアンなマン寄りのバットなマン鎧と悪の新装備

「私と功はこの新人研修やるわ」


「結局やんのか」


「だって他にあんまりいい仕事無いし、このままほっといたらこの新人達露頭に迷うかも知んないし」


《なんだかんだ言ってもアーネスは無駄に面倒見がいいからな》


「でもこれ、監督官て普通戦闘三級技能士って資格が要るんだろ?俺そんなの持ってないぞ」


「何言ってんの?そんなのとっくの昔に申請して許可下りてるわよ。

エイプとモール、ゴーレム、ブリの群れ相手に大暴れした挙句キングオウルまで撃退、しかも城砦から生還したのが認められて、アンタとっくに三級飛び越えて特殊戦闘技能士レンジャーと、生存技能士サバイバー、ついでに本物の斥候兵スカウト認定よ、PMSC協会発行の身分証見てみなさいよ」


《そんなのが有る事すら知らなんだわ》


「これで我が社の皆様が全て上級認定となりました。おめでとうございます」


クラインバッハさんが一礼する。


「上級認定ですか?」


功の疑問にクラインバッハは丁寧に説明する。


「はい、PMSC協会にはまず、一般戦闘職の技術、言い変えればそれぞれの戦闘力を表す普通戦闘技能士の等級がございます。

戦闘力と一概に言いましても、使用する武器兵器により大きく変わって参りますが、大体に於いて一般常識的な能力が有れば五級に認定されます。所謂新兵と言われる方々の事です。

こちらの等級は準一級と一級まで有りますが、二級から上は上級職扱いになりまして、一個戦闘群以上の軍団指揮経験が無いと認定されません。

そして、他の上級職ですが、

狙撃手スナイパー選抜射手マークスマン砲撃士グレネーダー特殊戦闘技能士レンジャー範囲攻撃士レンジアタッカー魔法剣士ルーンナイト魔法使いスペルユーザー生存技能士サバイバー観測手スポッター魔法銃士スペルガンナー斥候兵スカウト等がございます。

他にもございますが、我が社ではスナイパー職とスペルユーザー職、それにスペルガンナー職をガイスト様が、マークスマン職とルーンナイト職、スペルユーザー職をフィー様が、グレネーダー職とレンジアタッカー職をサラディさん、そしてレンジャー職とサバイバー職、スカウト職を功さんがお持ちです。

他に我が社では社長が救急救命士パラメディック魔法治癒者スペルヒーラーの資格を、ダズワイス先生は錬金学における博士アルケミックドクターの資格と称号をお持ちになっておいでで、これらは戦闘技能ではありませんが、上級職扱いとなります」


「ほへぇ、皆実は凄いんだな」


「特にびっくりする事でも無いのよ。大手に行けば、それこそ石投げたら当たるくらい上級職なんて居るから」


アーネスが何でも無い事のように言うのを、クラインバッハさんが補足する。


「確かに大手はそれなりの数の猛者がおいでになられますが、逆に言えばそれだけの猛者が居なければ大手を名乗れないのです。省みて私どもの様な小さな組織では、中々メンバーを上級職で揃えるのは珍しい事なのですよ。よく社長やダズワイス先生はお引き抜きのお話がございます」


「社長引き抜きって、事実上のM&Aじゃないですか」


功は目を丸くする。


「はい、特に社長のようなメディックは他社様にとっては喉から手が出る程貴重な人材ですし、自社の中に腕の良い錬金術師が居るのは相当なアドバンテージですから」


《まあ、普通に考えればそうか》


功自身もドクとアーネスが居なければ、何度も死んでいただろう。

確かに貴重過ぎる人材だ。アレだけども。


「おーい、功、ちょっと来てくれ。それからホーネットも一丁有ったろ?それも出してくれ」


奥の作業部屋からドクの濁声が響く。

幾つか疑問もあったが、後でアーネスに聞けばいい。


「あぁ、すぐ行く」


「行ってらっしゃい、こっちは受注しとくから、詳細は帰ってから話しましょ」


「それでは私もこれで失礼させて頂きます。功さん、今後とも宜しくお願い致します」


「あ、こちらこそ宜しくお願いします。ご丁寧にありがとうございました」


「いえいえ、それではまた明日」


「お疲れ様でした」


「お疲れ様〜」


功とアーネスに見送られ、クラインバッハさんが帰り、功は作業部屋に向かった。


「何か手伝える?」


自分の装備を丸投げと言うのも申し訳ない。何か手伝えるかと申し出るが、ドクの返事はにべもない。


「無ぇな、素人にゃ無理な相談だ。但し、暇な時アビスパスファインダーの整備は手伝ってくれ。俺の言う通りにしてくれりゃいいからよ」


「了解、で、何で呼ばれた?」


ドクはガラス張りのショーケースのような装置から功の革ジャン鎧を取り出した。

ショーケースの中は、3Dプリンターの様な物や、マニュピレーターの様な物が有り、それで外から作業していたようだ。

確かに素人が使えそうな物では無い。


功の思い描く錬金術とは大分違いが有るが、現実はこうなんだろう。


「ちょっと着て動き見てくれ。引っ掛かりや動き難い箇所、違和感有る場所が有れば修正するからよ」


「もう出来たのか⁉︎速過ぎない?」


「準備も設計も出来てたからな、錬金装置に予めアルケミックプログラムと魔力組んで後は自動で貼り付けるだけの簡単なお仕事さ。

今はこういう機械が出来たけど、昔は一つ一つ手仕事だったんだぜ。便利になったもんだ」


装置から出された鎧は、以前の物よりさらに頑丈で強そうで、そして悪そうだった。


以前はマッドなマックス寄りのバットなマンだったが、今回はマッドなマックステイストでアイアンなマン寄りのバットなマンだ。

全体に黒とグレーの濃淡なので、悪者感マシマシだ。

元の革はやはりマウンテンロックスキッパー風味が効いているので、クリプテック3D爬虫類カモ。

各部の装甲は以前の五割以上に追加されているのに全体的にスリムな印象である。

持った感じも軽い。


そしてヘルメットも有った。


「え?これってもしかして・・・」


若干のデザインと色は変わっているが、これは紛れもなくアレだ。


「懐かしいか?お前さんが拾って来た、ゴーレムの頭の殻だ。鎧の装甲もゴーレムの外殻を加工して貼り付けてある。用意しといて正解だぜ。

お前さん魔物の攻撃をわざと鎧で受けたろ?そんな跡があったぜ」


「そこまで分かんのか、すげぇな。にしてもゴーレムの頭か〜」


真っ二つに壊れた以前のバイクヘルメットに代わり、新しく用意してくれたヘルメットは、あのゴーレムの頭が、ほぼそのままだ。

違いは鎧と合わせてカラーが黒とグレーに変更されているぐらいか。


「頭の中身は都市の研究所に取り上げられちまったが、殻は売らなかったからな。サイズも丁度良さげだろ?合わなかったら言えよ、調整すっから」


生き物ではないとは言え、何とも言い難い気分である。


「これ、被ったら前見えないんじゃないか?」


相変わらずファンタジー西洋騎士の兜のような見た目だが、やはり大きく鼻の下まで張り出したバイザーと顔全面を覆う面頬で覗き穴は無い。


「んな事ぁ、被ってから言え。ほらとっとと被ってみな」


喉輪に似たパーツも有り、防御力も高そうだ。何しろ功のマグナムを防いだのだから。

そして何より軽い!


ドクに急かされ早速被ってみる。

あら不思議、前と言わず、兜など被って無いかのように全周が見える。

音もクリアだ。


《何だこれ!》


「スパイラルビュー&ナチュラルクリアサウンドシステムだ。解析すんのに時間が掛かっちまったぜ。

しかもそのメット、中のギミックを保護する為に、中身と兜の間に保護力場スクリーンを張るシステムまで入ってやがった。大した技術だぜ、まだまだ真似出来無ぇな。

言ってみりゃそいつはオーパーツだ。使いこなしてレポート寄越せよ。

まあ、本体の方は引き続き解析中なんだがな、理解出来無ぇ高度な技術を駆使してるみたいで中々進まねぇ。

とにかく、他にも前のメットに積んだシステムは全部入れといたから、不自由は無ぇな?何か有ったら今の内だぜ」


何だかとても楽しそうなドクだが、功は思い出した事を口にした。


「そうだ、ファイバースコープみたいなのが有れば便利なんだよな。有れば前回頭割られずに済んだんだよ」


「成る程な、確かにお前さんはスカウトだな。

そうだな、左の袖口にファイバーカメラ仕込んで、そっから伸ばすってのはどうだ?視線誘導でカメラの向き変えられるようにして、マナ回線でメットに映像飛ばせるようにしときゃいいだろ」


「お、ナイス。それでお願いします!」


「よし、後でネットでカメラ買って取り付けてやるよ。取り敢えず全部着てみろ」


ドクに言われ、マッドなマックステイストでアイアンなマン寄りのバットなマンな真・革ジャン鎧上下を身に付けた功は、その場で飛んだり跳ねたりしたが、問題は無さそうだった。


喋りながらも作業を止めなかったドクは次々と装備を仕上げて行く。


ホーネットとケルベロスには、新たにマナドライブという装置が組み込まれ、射手の魔力を弾丸に乗せて発射出来るようになった。

ただこれはONにしておけば自動的に魔力を吸い上げてしまうので、残魔力管理は気を付けなければならない。


嬉しかったのは、ドクが気を利かせてくれて剣鉈を別の形で蘇らせてくれた事だ。

特別な機能は無いのだが、気持ちが嬉しい。

刃の付いていない、先端の尖りまくった刺突専用の鎧通しなのだが、更に硬く、更にしなやかになり、ペネトレート持ちの功と相性が良さそうだ。


そしてケルベロス。オルトロスより、若干長いながらも無事?ソウドオフされ、超近接戦闘用に生まれ変わり、何か変な事になっていた。


「ドク、何かトゲトゲ付いてる」


「トゲトゲじゃ無ぇ、ソードブレイカーだ」


「何だそれ?」


レバーアクション機構の、そのレバーが大幅に変更されており、ちょっとだけゴツくなっている。


「レバーの護拳は少し分厚くしてそのまま攻守備えたメリケンサックにした。そこに付いてる櫛状の刃の間に相手の刃を挟んで捻れば相手の体勢を崩したり、刃そのものを破壊したり、奪ったり出来るパーツ兼厳つい飾りだな」


「飾り⁉︎飾りか?飾りなのか⁉︎」


「まあ、ちょっとした遊び心って奴だな。それよりこれだ」


そう勿体ぶって出したのはオルトロスに引導を渡してくれた曲刀だった。

刃渡り50cm程で、エジプトの剣『ケぺシュ』に似たサーベルのような細身の剣。

ケペシュと違い、切っ先は尖っているので、突くことも出来そうだ。


「コイツは良く斬れる。正直丹精込めたさっきの鎧通しよりも丈夫で強い金属だ。

錬金術師としちゃぁちょいと悔しいが、良い物は良いで認めねぇと先に進めねぇからな。

見た目よりも重いが剣鉈の代りに使え。

それからコイツはケルベロスの先に取り付けて銃剣に出来る。

銃剣と言うより、最早長巻きだな。

バランスはまだ調整効くから早速付けてみな」


言われた通りにケルベロスに着剣してみる。

ケルベロスの縦に二本並んでいるバレルの下の部分に、ケペシュを接続するジョイントがある。

差し込んでストッパーを掛ければ完成というお手軽さだ。

ただしこのギミックを付けたので、チューブマガジンを延長するスペースが無くなり、装弾数は六発のままだ(チャンバーに一発入れておけば七発)。


想像していたより凶悪な仕上がりだ。

悪者感が更にマシマシになった功の姿は通報案件だろう。

肩にトゲトゲや兜に角が付いて無いのが救いだ。


功が見かけたら絶対に視線を合わさないと思う。

マントなど羽織らせたらさぞ似合うだろうが、絶対着ないと心に誓う。


最早何も言うまい。

軽く振ったり突く動作をしてみたが、多少重いがその分安定感がある。

性能はいいのだ。文句を言ってはいけない。

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