第53話ダイブ!

アーネスは功の頼みを軽く請け負った。


この男の性格からして、こんな事を言い出すのは余程の事の筈だ。

検討に検討を重ね、考慮に考慮を積んで出した答えがそれなのだろう。


自分が時間を稼ぎ、その間に功がゴーレムを倒して活路を見出す。

どの道それ以外方法は無い。

だが、防ぎ切れるとも思えない。

ゴーレムを倒しても逃げ場が無い事も知っている。

おそらく功もそうだろう。

でも諦めない。


せめても軽く請け負う事で、功の心理的な負担を少しでも軽くしたい。


こうなったのも自分のせいだというのも承知している。

生き残って謝ろう。

次回から気をつける!


だから、最後まで諦めないのではない。

最後の最後諦めない。

ブリッコーネに噛みついてもここは通さない!


ライトマシンガンを右手に、バトルライフルを左手に持つ。


両方とも短連射で、なるべく弾を節約しながら弾幕を張るしかない。


階段の胸壁と功のバイクを遮蔽にし、隙間から銃撃をくわえる。


だが、その遮蔽越しにブリッコーネの矢が放物線を描いて降って来る!奴らの狙いは嫌になる程正確だ。


ここで銃撃を止めると、一気に奴らに距離を詰められる。

だからアーネスは銃撃を止めない事を選んだ。


《当たったら当たった時よ!》


しかし、矢はアーネスに届く事は無かった。


空中に仄かにブルーに光る透明な六角形が出現し、ブリッコーネの矢を弾いたのだ。


《あいつ・・・》


ここをブリッコーネの血の流水階段カスケードに変えてやる。

改めて決意する。




体感では随分経ったように感じるが、時間にすれば刹那とも言える短い時だろう。

しかし、いかに指切りの短連射でも、この数を防ぐには圧倒的に手も弾も足りない。


奴らは味方の死体を盾にし、階段をもう半ばまで登って来ている。


ついにライトマシンガンの弾が切れた。

バトルライフルのマガジンもあと三つ。

アンダーマウントショットガンのマガジンには5発しか入っていない。

パンツァーファウストの弾頭は、装填済みの物を含めて二つ有るが、時間的に撃てるのは一発だけだろう。

ハンドガンは・・・まあ、無理だろう。

その後は、長剣を振り回しての肉弾戦だ。


一瞬功に助けを求める事も頭をよぎったが、ゴーレムに集中している功の邪魔はしたくない。

そこは頼ってはダメだ。

対等でなくなってしまう。

信頼も信用もしているが、依存も寄生もしてはいけない。


手遅れかもしれないが・・・


ライトマシンガンを捨て、バトルライフルを連射しながらパンツァーファウストを右手一本で背中から下ろす。


《ここで撃ったら安全距離稼げないわね。まあ、撃つしかないんだけどね》


その時だった。


ぽーん、とボールのような物が背後から階段に放り出された。


それは硬い金属の音を響かせながら、アーネスとブリッコーネ達の間に落ち、不規則に跳ね回りながら階段を転がり落ちていく。


ゴーレムの頭だ。


アーネスは目を丸くする。


《え?何?もう?どんだけよ!》


ブリッコーネが叫び声を上げながらゴーレムの頭に殺到する。撃たれる事など考えてない程の狂乱ぶりだ。


「アーネス!行くぞ!」


待っていた声だ!声には張りが有り、重い怪我などは感じられない。

そして覚悟していたより全然早い!


アーネスは振り向くと同時に身体を掬い上げられ、気が付いたらバイクに後ろ向きに跨っていた。


反射的に目の前の男にしがみつく。


肩越しにブリッコーネの矢が飛んで来るのが見えるが、恐怖は湧かない。


何故なら、当たらないのをからだ。『信じている』のレベルを越えた信頼。




功はゴーレムの頭を蹴り飛ばし、ブリッコーネ達の気を惹いた。


あの狂乱具合は、何か相当な恨みがこもっているように感じられたからだ。


正門前のあの風化しかけた戦闘の様子。散らばったブリッコーネのアミュレット。


それは、この城砦の者とブリッコーネが戦った跡に他ならない。


ブリッコーネ達はその雪辱戦をする為に、連合して攻めて来たのかも知れない。

その前哨偵察として、昨日のブリッコーネは派遣されていたのかも知れない。

ナイトウォーカーなんて者はただの想像だったのかも知れない。

そして自分達はその最悪なタイミングでここに来たのかも知れない。


全ては想像だ。

今考えても仕方がない。


功は息をつく間も無く、階段を駆け下りた。


「アーネス!行くぞ!」


いくらあのアーネスでも、これだけの数のブリッコーネを相手にしていたのだ。

きっと必死で泣きそうな顔をしているだろう。

そう思っていたが、


《なんで笑顔なんだよ・・・》


今やブリッコーネの大群は階段の半ばまでを埋め尽くし、阿鼻叫喚の様相を呈している。


そんな中、笑顔がダメと言う訳ではないが、この状況で笑顔で居られる理由が分からない。

だが、それがアーネスという生き物だ。功はそう理解する事にした。


この2人の間にロマンスは生まれない。


ボロボロになった剣鉈とホーネットを腰に戻し、ついでにワイヤレスインカムとサングラスも拾って再装着する。


『来た時よりも美しく』

だ。

戦闘痕と死体はカウントしないものとする!

他に色々と置いて来たが、今回は許して!


アーネスを抱えてバイクに跨る。


ここらか逃げ出すにはもうあの手段しか無い。


功はその場でアクセルターンし、階段を登る。

シールドを背後に展開。

もう魔力はほとんどカラッケツだ。

ヘトヘトである。

何とか絞り出してシールドが後一回が最後だ。


魔力というのは、体力、気力とは別物という感覚であり、第三の力だ。


身体を動かせば体力的に疲れる。

集中したりストレスを感じれば気力が減る。

それと同じように、スキルを使えば胸の中に新たに芽生えた何かの部分が削れるのだ。


そしてこの三つは連動している。

心が疲れれば動きたくなくなる。体力が無くなれば気力も湧かない。

そして気力が尽きれば魔力も萎むのだ。


つまり功は今まさにグロッキーだ。


それでも最後の手段を講じる為に城壁上を疾走し、壁の崩れ目を目指す。


「アーネス!しっかり掴まってろよ!」


さらに右手でアクセルを開けながら、左手でスマホを取り出して口に咥えた。


アーネスは何となく功がしようとしている事を察し、さすがに戦慄する。


全身が強張り力が入る!


《まさか・・・》


そう、功は猛スピードのバイクごと崖に向かって飛び出したのだ。



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