第52話攻防


バイクから降り、ライトマシンガンをフロントホイールから切り離すデタッチ。急いでベルトリンクの弾帯も引き摺り出しアーネスに持たせる。


ゴーレムの姿は階段の向こうで見えないが、奴の事だ。嫌らしく待っている事だろう。


だが、ここは風が抜ける切り立った城壁の上、功の耳にはゴーレムに当たる風の音が筒抜けだ。


特に重力砲の筒先が笛のように鳴っているのが良く聞こえ、どの方向を向いているのかも分かる。


敵地に乗り込んでおいてなんだが、ここは言わば功のフィールドだ。


視界の端でチラリとブリッコーネ達を見る。

意外な事にブリッコーネ達は仲間同士で掴み合いのケンカをしている者がいる。


一瞬視線をくれると、何となく全容が掴めた。

奴らは功が破壊した片腕ゴーレムの頭を我が物にしようと争っていたのだ。


ただ、胴体部分は蹴られ、踏まれ、引き千切られ、まるで積年の恨みをぶつけるような狂乱の有様だ。


アーネスに危険が無いのならどうでもいい。


だが、その中でもジリジリと階段に迫って来ている一団もある。


時間は無い。

ワイヤレスインカムを外し、捨てる。

サングラスを外し、捨てる。


功は集中する。

耳を澄ませる。

空気の震えを肌で感じ取る。

視界は常に全体的に。

風の香りを鼻で嗅ぎ取り。

口の中で吟味する。


《2分で片付ける》


そう決めた。決めたったら決めた!


駆け出す。

右手にオルトロス、左手にホーネット 。


背中に風音。だが、振り向かない。

階段の胸壁とバイクを遮蔽にするアーネスの頭上に、シールドを最小で、ノールックで展開。


幸いにも弓持ちのブリッコーネは少ないようだが、それでもパラパラと飛んでは来る。


ブリッコーネの矢を弾くとシールドは消滅。それだけの魔力しか込めない。

次の矢も同じ様に防ぐ。


背中から短い発砲音が続く。

アーネスが最初に階段に取り付いたブリッコーネを短連射で撃っているのだ。


見えていない物が


自分でものが分かる。集中出来ている。


階段は残り数段だ。

もう少しで奴にこの身を晒す。

まるで景色がスローモーションのように過ぎる。


奴の右腕は功の頭を、いや、右眼を狙うようだ。

左腕は心臓のやや下。


ゴーレムが砲口を動かし、微妙な照準調整をしているのが


最大出力のシールドでも、あの重力砲を喰らえば一撃で対消滅する。


功はさらに速度を上げて走る。最上段まで出た。


空気の感触が変わる。

砲撃が来る。


《シールド》

最小面積、最大魔力で。

未来位置に。

《2枚》


スキル並列起動マルチタスク

同じスキルを


地下二階でボコボコにされた時に気が付いたのだ。

もう一枚シールドがあったらもっと楽なのに!と思ったのがきっかけだ。


マルチタスクが出来るのなら、同じスキル同士でも出来ないか?


やってみるとあっさりと出来たのだ。

今まで気づかなかった自分の馬鹿さ加減に呆れたが、ここでまだ発見が有った。

角度も場所も決められるなら大きさも変えられないか?


それも出来た。

勿論ある程度の制限は有る。面積は最大で1.5m、最小で20cm。範囲は半径15m圏内。


砲撃が次々とシールドにぶつかる。

2枚とも対消滅。

もう彼我の距離は5mも無い。

さらに距離を詰める。

撃ち合いの距離じゃない。殴り合いの距離だ。つまり功の距離。


どうやら重力砲はマシンガンのように連射は出来ないようだ。

もし出来ていたら完全に詰みだったが、これなら何とかなる。


功は至近距離からオルトロスのバックショットを発砲。まずはご挨拶だ。

だが、撃った瞬間分かった。

外れだ。


ゴーレムも銃口の角度を読み、最小限で回避している。

機械そのものの正確さで。


下から飛んで来るブリッコーネの矢をお互いノールックで躱す。

シールドを出すまでもない。

また躱す。


シールドの事でもう一つ分かった事が有る。

実はスキルマルチタスクせずとも、単起動でシールドが2枚出せたのだ。


こんな風に。


アーネスに迫っている矢を風音で察知し、1枚目のシールドで防ぎ、2枚目のシールドは最小面積、最小魔力で展開してゴーレムの足下にそっと展開する。


シールドは何も防御するだけではないのだ。

功が飛び石代わりにしたように、障害物としても使えるのだ。


左手のホーネットを撃つ。

ゴーレムは僅かに足を開き、体重移動だけで躱そうとする。

しかし、足下に置いたシールドに足を取られ、体勢が崩れた。


ガンッ!


と、脇腹に着弾するが、12mmマグナムが弾かれてしまう。

それでも無傷では無い。

着弾箇所は大きくへこんでいるが、残念ながら動きに支障は無さそうだ。

しかしこれでゴーレムの耐久性は掴めた。


ゴーレムからの左右の発砲を、右はオルトロスの銃身で砲口を弾いて反らし、左はシールドを展開して防御する。


どうやら重力砲の発砲間隔は、ボルトアクションライフルくらいにはあるらしい。

ならばシールドで捌けそうだ。


だが、このシールドには弱点が有った。

まだ慣れていないせいか、単起動2枚出しでは出力が弱いのだ。


ブリッコーネの矢は辛うじて一本なら防げるが、重力砲は無理だろう。

それも慣れだとは思うが、慣れる為には生き残らなければならない。


ゴーレムの頭部の左側にシールドを最小で展開し、自らの身体を右に振って砲口を誘う。

同時にオルトロスのサボットスラグを頭の右端を狙って発砲。最大魔力のペネトレート付きだ。


ゴーレムは頭を左に振って回避しようとするが、シールドがその動きを妨げる。

着弾!


だが、頭部は相当硬いようだ。

兜のバイザーのような部品は辛うじて砕けたが、本体は少しへこんだだけだ。


背後に風音。

アーネスの真上にシールドを2枚展開。


直線的で単純な攻撃なら、ノールックで防ぐ事が出来る。


ゴーレムの左腕が功の胴体を狙う動きをする。


ゴーレムは距離を取ろうとするが、その度に功が詰めるので、胴体のように大きな的を狙われると逆に避けにくくはある。


だが、功はフラッシュのように一瞬だけシールドを展開。ゴーレムの右腕の邪魔をし、半身でさらに間合いを詰める。

戦いの間合いと言うより、ワルツの間合いだ。


ここまで入り身になると、肘から先に着いている重力砲はその構造上、功を狙う事は出来ない。


オルトロスの銃身でゴーレムの左腕を払い、左肘のエルボーで顎を打ち下ろす。


ゴーレムは見た目よりも軽い。芯を崩すのは比較的簡単だ。


ゴーレムの重心が後ろにズレた所で、足下後方にシールドを展開。

足を取られてゴーレムはそのまま転倒する。


倒れ行くゴーレムにホーネットを乱射。

動きを封じてペネトレート付きバックショット。


ゴーレムは左腕で胴体を守る。


バックショットは盾となった重力砲を半ばから破壊し部品が飛び散り、余波は胴を抉る。


だが、追い詰められているのは実は功の方だった。


《クソッ!魔力使い過ぎた・・・》


完全に魔力が回復していない上に、門を破壊する為にペネトレートを使い過ぎたのだ。


だが、出し惜しみをしていられる状況でも無かったのだ。


チラリとアーネスの方を見る。

ライトマシンガンとバトルライフルの二丁持ちで弾幕を張っているが、もう持たないだろう。


《急がないとっ!》


また背後に風音。

アーネスの上に2枚展開。


その時、


《ん?》


風の音が変わった。


いや、変わったのは風の音だけではなかった。


ゴーレム、そいつの左腕がいつの間にかあの剣に変化している。

ドクに送ったあの壊れたゴーレムと同じ剣だ。


《何だそれっ!って、もしかしてあれかっ!》


このゴーレムはストレージと同じ働きをする何かを持っており、腕の先を自由に収納したり付け替えたり出来るのかもしれない。


もしそうなら、明らかにロストチャイルドより進んだ技術だ。


そう言えば功が落ちた落とし穴の床も不自然に消えたが、この技術だったのなら説明がつく。

だから物理的に有り得ない消え方をしたのだ。


迂闊にも驚きで一瞬動きが止まった。


ゴーレムに敵の心の隙を突く機微はない。

ただ機械的に、攻撃出来る時に攻撃するだけだ。

倒れた姿勢のまま、逆再生のように不自然な立ち上がり方をし、左腕の剣を斬り上げる。


《クソッ!》


咄嗟にオルトロスの銃身で受ける。


だが、


《マジかっ!》


斬られた。


辛うじて太刀筋は反らせたが、オルトロスの二本の銃身が根本から断ち斬られた。


想像より遥かに恐ろしい斬れ味だ。体重が同じなら、押されて身体まで斬られていたかもしれない。

ゴーレムが軽くて助かった。


右の砲口がこちらを向く。


位置が悪い!


《お前にとってな!》


功は短くなったオルトロスの銃口を重力砲の砲口に突っ込み、押し込みながら捻る。

銃身が斬られただけで発砲は出来る筈だ。


と、信じて撃つ!


バギャンッ!


何とも言えない爆発音と共に、派手に飛び散る破片。


「くっ!」


バラバラになるオルトロスの機関部。

だが、ゴーレムの重力砲も砲身は裂け、上腕の半ばまで折れ飛んだ。


手が痺れる。

重力砲の砲身から逆流したエネルギーがオルトロスの機関部を破壊し、功の右手まで軽くダメージを与えたのだ。

手が痺れる程度で終わったのは寧ろラッキーである。


だがこの有様ではゴーレムは剣に交換は出来ないだろう。


功はオルトロスの残骸を捨てホーネットを抜く。さらに左手のホーネットを捨てて剣鉈も抜く。


横殴りの斬撃!


《頼む!》


残りの魔力は攻撃の為にとっておきたい。

ドクに強化された剣鉈は、銃よりも材質的には硬い筈だ。


剣鉈は功の期待に応えてくれた。


剣鉈を斬撃に合わせ、刃を滑らせながら反らす!

バチバチに火花が飛び散る!


《クソッ!ペネトレートッ!》


ホーネットをゴーレムの胸に押し付けるように乱射する。


ゴーレムの胸に穴が開く。

一つ、二つ、三つ!


《クソッタレッ!》


最後に首に一発!


功は倒れ行くゴーレムを足で引っ掛け、城壁の外に力一杯蹴り落とし、千切れた首は階段下のブリッコーネ達に蹴り飛ばした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る