第42話地下通路

功は現在ボッコボコにやられて通路に転がっている。


辛うじて動けるが、しばらく動く気が起きない。


だが、このままという訳にもいかない。

気力を振り絞って折れた左腕を庇いつつ、腰のポーチからメディカルポーションのスキットルを取り出し、半泣きで一口啜る。

喉を焼く様な刺激が徐々に全身に拡がり、受傷箇所が熱を持ったように疼く。


メディカルポーションは一度に多量摂取すると、酒を呑んだような酩酊に襲われるらしいので、呑む量を気を付けねばならない。


傷だらけの革ジャン鎧の前をはだけ、時間をかけて苦労しながら脱ぐ。

インナーのロンTの袖をまくり、骨折箇所を息を止めて真っ直ぐに直し、ポーションを振りかける。


「おふっ!」


思わず声が出る程痛い!


《痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い》


嫌な事はさっさと済まそう。

スマホから、いつもメインで使っている30cmのチタンペグとパラコードを出す。

ペグ数本を腕に沿わせ、添木代わりにすると、パラコードでキツく縛る。


《なんか似たような以前にやったような気がするな》


縛り終えると今度はロンTの裾をまくり上げる。

右脇腹から左腰にかけて紫色に腫れ上がっている患部にポーションを垂らす。


「うっくっ!」


《つうぅぅぅぅっ!》


震える手で首筋の打撲痕、胸の打突痕、右下腕部の咬傷痕、右上腕部の打撲痕、左頬の擦過傷にもポーションをかける。


涙目で悶絶しながら何とかジャケットに袖を通し、ジッパーを引き上げる。


「ふぅ・・・」


これだけで疲労困憊だ。


だが、このマウンテンロックスキッパーの革ジャン鎧が無ければ5回、いや、6回は死んでいただろう。


苦痛と疲労で乱れた呼吸を整え、改めて周囲を見回す。


酷い有様だ。

功の周りは死屍累々と魔物の死骸が転がっている。




ドクとの連絡を終え、巨大ナメクジの通路を抜けた所で功は十字路にぶつかった。

落ちて来た向きを考えると、左が城(?)の中央部に向かう筈だ。


真っ直ぐ進むと正面の門の方向で、右は分からない。

どれもそこそこの距離があり、手に入る情報はいずれも少ない。

多分ここは地下連絡通路で、そう複雑な造りにはなっていない。

何故それが分かるかと言うと、親切な事に十字路の壁には地下見取り図がタイルに書いて貼ってあるのだ。現在地も分かる。


ただ、どっちに進めば何が有るとは書かれていない。

分かるのは、どっちに進んでも何か居る。と、いう事だけ。

ひしひしと気配が伝わって来る。


右は功が落ちた場所と似た様な場所のような気がする。行き止まりのようで、途中、小部屋を通り抜けて行く構造も同じだ。

真っ直ぐ行っても同じ。


左は何やらゲートらしき物があり、その先は色々と小部屋が多いので、メインの施設の方だろう。


という事は正解は左だろう。


でも行きたくない。何か色々ヤバそうな気配が有る。

有り体に言うと、何かと何かと先程のナメクジが居る音がして、物凄く獣臭い匂いが2種類する。


しかしこうしていても仕方が無い。進まねば出られないのは確実だ。


そう言えば、ドクがパーティストレージに何か使えそうな物を入れておくと言っていたのを思い出した。

覗いて見ると、使った事もない銃火器数種の他に、ケミカルライトスティックやポーション類、用途不明の何か、小型酸素ボンベとマスク、野営道具、それから缶型ハンドグレネードを見つけた。


新しい銃火器は今のところ必要無い。

今更ぶっつけで別の銃とか渡されても、オルトロスと使い勝手が違えば戸惑って命に関わる。


興味を惹かれたのはケミカルライトスティックとハンドグレネードだ。

ライトスティックはアイドルオタクがライブで振り回しているのを見た事があるので、何となく使い方は分かる。

勿論魔物の前で踊ったりしない方の使い方だ。


取り敢えずライトスティックは数本取り出してポケットに仕舞う。

こんな光源でも功にとっては充分な明るさだ。


ハンドグレネードも二つ取り出し、ネットで使い方を調べてみる。


《うん、これはこんな閉鎖空間で使うもんじゃないな》


一応ベルトの空きスペースに専用ポーチごと挿し込んでおくが、この地下空間で役に立つ事は無いだろう。


ようやく覚悟を決めて功は進み出した。

十字路の角でしゃがみ、ヘッドライトを消して息を整え、左の通路に耳を澄ませる。


《何か居るかな?居るな、居まくってるな・・》


距離は100m程だろう。真っ直ぐに続く通路の先に犇く何か。


万が一友好的な生物、若しくは人の可能性も捨てきれないので、先制攻撃は・・・


《したいけど無しだ》


この考えは甘いと言わざるを得ない。

ここは敵地なのだ。

そもそも三方向に何か居るのが分かっていながら、自ら挟み撃ちにされに行っているのである。

1人で焦り、判断がおかしくなったとしか言いようがない。


そして後でアーネスに死ぬ程怒られる事になるのだ。


ポケットから今仕入れたばかりのケミカルライトスティックを取り出し、曲げて発光させる。


《エクステンション》


力一杯投げる。


角に身を隠しながらの不自然な投擲でも、エクステンションのスキルはきっちり仕事をしてくれる。


本来ならば20m程しか投げられない所を、倍の40m余りは飛び、着地して更に5mは転がって行く。


しかし、これも失敗だった。


気配の発生源にとどかず、手前に落ちた為に余計に見え難くなったのだ。


《そりゃそうだよな!しくった〜っ!》


急に静かになった。


遠くから、フンフンと何かを嗅ぐ獣の鼻音が聞こえる。

これはアウトだ。既にツーアウト。


獣のような唸り声が聞こえる。


流石に平和ボケ功も気持ちを切り替えた。

角から飛び出し、膝立ちの低い姿勢のままバックショットを水平射撃。


《ペネトレート、ペネトレート、ペネトレート・・・》


反撃は意外な方角から来た。

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