第34話新たなスキル

それで少しは冷静になれたのか、功はがむしゃらに相手の懐に入る戦法から、功本来の持ち味であるヒット&アウェイに頭と戦い方を切り替えた。


剣鉈を握り直し、片足で大きく脇に飛ぶ。飛んだ方向は勿論風下だ。


背骨をへし折られたブリッコーネは、弱々しくはあるがまだバタバタともがいている。物凄い生命力だ。だが、その暴れもがく音を利用させて貰う。


音に紛れて岩の上を這うようにしながら横移動する。ハチェットの代わりとばかりにブーツから引き抜いたのは、タープを留めるのにも使った物とは別の予備のペグ。


この20cmのチタンペグは、地面に打ち込む必要性から、当然先端が尖っており、その気になれば充分凶器として通用する。何しろ地中の石を砕いて刺し通すための道具なのだ。


それを、


《ペネトレート》


投げる。


あれだけ身体が細いと逆に心臓の位置など判らない。だが、縦一列に重要器官が並んでいるという事でもある。


どこであれ刺されば重症必至。


だが油断はしない。首が千切れかけても元気な奴らだ。仮に心臓を潰したとしても、致命傷足り得ないだろう。


棒手裏剣の如く宙を走ったチタンペグは、見事にブリッコーネの胴体を貫いた。

勢い余ってガイラインを通す頭の部分までも埋まる程だ。


《もう、あのペグでロープ張れねぇな》


気持ち悪くてもうキャンプに使えない。戦闘専用にしようと心に誓う。


《この剣鉈ももう食材切れねぇわ》


また出費が増える。


しかしその前にまずは生き残る事が先決だ。チタンペグをもう1本抜く。


これで仕込んだチタンペグはおしまい。コイツも戦闘用にするしかない。


それを惜し気もなく投げる。


《ペネトレート》


風下から飛んで来る闇に紛れたチタンペグは、ブリッコーネと言えども避ける事は出来ない。


今度は首に突き刺さる。右耳の下から入ったソリッドステークは口蓋を抜け、右目から先端が飛び出した。


それでも剣を振り回すブリッコーネ。


銃以外の間合いの長い武器はもう無い。後はインファイトしか手段は残されていない。


《間合いが掴みづれぇ》


エクステンションで延長された刃は、闇に紛れるとかそれ以前の問題だ。完全に見えない。


風切り音から察するに、多分剣身のほぼ倍だとは思うが、確かめる気にはならない。


だが、軌道は判る。間合いスレスレで躱そうとせず、初めから斬撃の軌道に入らなければ良い。


まぁ、それが難しいのだが。


延長された刃での斬撃はヘキサシールドでも防げる気がする。

自信はある。

だが、剣本体の斬撃が怪しい。


ひょっとすると受け切れない可能性がある。


だが、その内ブリッコーネの足捌きが段々とふらつきはじめた。良く見ないと判らない変化だが、さっきまでのどっしりとした低重心ではなく、明らかに腰が入っていない。


しかし功は焦らない。ここまで追い詰めたのだ。焦って詰めを誤ると今以上に怪我をする。


だから誘う。腰を上げて左のガードを下げる。


《来た》


大振りの斬撃。その後の左後ろ回し蹴りの二段技。この技が来るのはこれで3度目だ。


これを待っていた。


この技だけ、次の攻撃の接続が甘いのだ。


スキルが乗った袈裟斬りの斬撃が功の首を刈りに来る。頭を下げ、左側に屈んでヘキサシールドを斜めに展開、パリィで躱した所で下段からの左後ろ回し蹴り!


外に跳んでも、蹴りにもスキルが乗っているので間に合わない。


だから内に跳ぶ。

ウェービングの要領で膝を曲げ、両手で防御を固めながら上体を左に屈め、頭から突っ込む。


右足には負担は掛けられないので、左で踏み切り、奴の軸足に矢のように襲い掛かる!


後頭部と背中のすぐ上を、恐ろしい蹴りが過ぎる。


軸足である右膝が捻れるように回転し、その弱点を晒す。


功は奴の右膝の裏を剣鉈の刃渡り目一杯を使って撫で斬りにしながら通り過ぎる。


いくらブリッコーネの生命力が凄まじくとも、腱を切られれば、物理的に立っていられない筈だ。


蹴りの回転が収まっていない奴は、軸足を斬られて無様に転がった。


さすがにこの隙は逃がさない。


《ペネトレート》


脊椎の関節を貫く。


《ペネトレート》


刺突して頸椎の隙間に刃先を滑り込ませる。


《ペネトレート》


剣鉈の柄頭ポメルで腰椎を粉砕する。





「アーネス、終わった」


『え?もう?5分も経ってないわよ。私今から援護に行こうと思ってたのに』


「マジか、もっと時間経ってると思ってた。ま、いいや。足やられた。治してくれ」


『マジ?足だけ?他は?今行くから動かないでねって、どこいるの?私見えないんですけど』


《見えないのにどうやって援護するつもりだったんだ?》


功はまだピクピクと蠢くブリッコーネ2体から離れ、溜息を吐く。


結局コイツらの急所は腰椎だった。そこを潰すと2体とも大人しくなった。


次からはもっと上手くやれる。


ハチェットとソリッドステークを回収し、草に擦りつけて血を拭う。


《毎度毎度疲れるし痛い・・・。いつまで続くんだよこれ?》


「右足だけだ。捻挫っぽい感じ。灯りは不味いから俺が帰る。そこにいてくれ。所でコイツらの討伐証明部位ってあんのか?」


『勿論有るわよ。首回りのジャラジャラの真ん中に、1本だけ赤い飾りが有るでしょ?それが討伐証明よ。長い程金額がいいの』


「身体の一部じゃないんだ」


切り刻まなくて良かったとホッとする。


『そ、ブリッコーネは特別な呪術的に精製されたアミュレットを持ってるの。人間じゃ作れないからそれが討伐部位なのよ。

錬金アイテムになるみたいね。何になるかは知らないけど。

後、右手首に小さな逆棘みたいなのが生えてるからそれも忘れないで。スキルマテリアルだから。魔石も回収してね』


嫌な事は早く済まそう。

人に近い姿の生き物を殺した後味の悪さが襲って来た。

吐き気を堪えながら、言われた通りに戦利品を剥ぎ取りに掛かった。

嫌でもこれが此処での自分の仕事なのだ。





右足を引きずりながらキャンプに戻っていると、途中でアーネスが出迎えてくれた。

こんなんでも再開は嬉しいと感じてしまう自分がちょっと悲しい。


まあ、それはそれとして、その場で治癒して貰う。


「正直助かった。段々痛みが酷くなって来てたんだ」


「当たり前じゃない。罅入ってたわよ。はい、治ったからもう無茶しなさんな。一休みしたら移動するわよ」


「了解」

《無茶させんのはお前だけどな》

思っても言わない。


足をブーツの上からポンポンと叩いて感触を確かめる。


ここでもう夜明けは待てない。何とかキャンプに戻り、すぐに片付け始める。


「奴ら、昼間の私たちの形跡を見つけたか、さもなきゃ別の魔物を探してたのか。とにかく夜目も効かないのに見回りするなんて尋常じゃないわね」


「そうなのか・・・」


「とにかくここら一帯はブリまみれって事は判ったわ。見回りはあいつらだけじゃないでしょうしね。二人一組ツーマンセルで動くなんてブリのくせに利口よね」


少しだけ水を飲み、隣に座ったアーネスは功に剥ぎ取ったスキルマテリアルを取り出させた。


「やっとく?吸収出来ればめっけもんでしょ?」


スキルマテリアルからスキルが吸収出来るかどうかは、やってみないと判らない。ある程度系統的に適性が有るか無いかは判断がつくらしいが、絶対では無いし、それ以前に功は系統が判る程スキルを習得していない。


片っ端からやってみるしかない。


功はブリッコーネの右手首から剥ぎ取った黒っぽい逆棘をグローブ越しに指で摘む。出来れば素手では触れたくない。


「アーネスは吸収しないのか?」


そう言えばアーネスの攻撃スキルは聞いた事が無かった。


「私は治癒系統か、防御系統、補助系統のスキルしか適性が無いの」


アーネスの顔が目の前にある。近い。


「いいのよ、私の事・・・」


「?」


「聖女って呼んでも」


「ホンモンの聖女に謝れ」


「可愛くないわね。さっさとやっちゃって、時間勿体ないんだから」


気を取り直してスキルマテリアルを握り込む。確認はしていないが、これで吸収出来るのは"エクステンション"で間違いないだろう。


これが吸収出来れば確かに功の力になる。


目を閉じてイメージする。自分がこのスキルを振るう様を。


スーッ


と、胸に収まり、粉々になるスキルマテリアル。


「やった!」


どうやら適性が有ったようだ。これでオルトロスの射程も伸びるし、ナイフでの攻撃もちょっとした剣並みになる。

前回ソニックブームで適性が無かったので、ちょっと心配していたのだが、杞憂に終わって良かった。


ただし、スキルは訓練して育てないと威力は上がらないらしいので、これから使いまくるしかない。

それに、どれだけ射程が伸びようと、オルトロスでは当たらないと話にならないのだが・・・


「じゃ、行くわよ。いくらアンタがブリ2匹相手に変態的な無音戦闘サイレントキリングやって勝っても、それなりにザワつかせたのは間違いないんだからね」


「言い方!」

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