週末ソロキャンパーは行く先々のキャンプ地でモンスターと戦います

第33話必殺！ブリ武術

前方宙返りから左のハチェットを打ち下ろす！

充二分に遠心力と体重を乗せる。狙いは手前のブリッコーネの首筋。

ドクのバトルアクス程の刃渡りはハチェットには無い。いくらブリッコーネが細くとも、さすがにこのハチェットの一撃で首を落とす事は出来ない。

だが、功の一撃は見事にブリッコーネの頸椎を粉砕し、喉下まで貫いた。

すぐさまハチェットを首から抉り抜き、もう1体のブリッコーネに襲い掛かる。

恐ろしい事に殆どタイムラグ無しで対峙したにもかかわらず、もう1体のブリッコーネは既に功に矢の照準を合わせ、ストリングを引き絞っていた。

彼我の距離はおよそ3m。絶対に功は間に合わない。

ブリッコーネの弓から矢が放たれる。

直感的に功はヘキサシールドを展開した。

正面に、斜めに。

真っ向から受け、弓勢に耐えきれず貫通した時の事を考慮して斜めに展開したのだ。

こうすれば矢の勢いを削ぎつつ逸らす事が出来る筈だ。

狙い通り、撓みながら放たれた矢は功から見て左に逸れ、背後の岩に突き立った。恐ろしい弓勢である。矢自体も、功の感覚からすれば短槍の如き大きさだ。

そして今ので何となく判った。正面から受けたら危ない。多分貫通する。

魔力の扱いが上達し、多少強度は上がっていても、ヘキサシールドは練習していない。

今の功が出せるヘキサシールドの出力ではブリッコーネの矢を正面からは防ぎきれない。

ギリギリの感覚が有った。

《けど当たらなけりゃ蟻も殺せねぇよ！》

だが、逸らす事は出来る。何も怖い事は無い。

さらにダッシュ。耳元で風が鳴る程のダッシュだ。

この世界に来て特に身体能力が高まった訳では無いが、元々功はアウトドア馬鹿の肉体派だ。登山やトレッキングで鍛えられた足腰は、現代のもやしっ子とは訳が違う。

右の剣鉈を突き入れる。

3mになる身長でありながら、奴の胴体の太さは功の半分程しか無い。非常に狙いにくい。

だが、奴は咄嗟に手に持った弓で防御しようとした。

ビィィィンッ！

と、高らかに音を立ててストリングが切断される。せこい武器破壊だが、これで1番の脅威は消えた。

奴は弓を放り捨て、腰の剣らしき物を抜く。ヒューマン種サイズのそれは、ブリッコーネが使うと短剣のようだ。どこぞの傭兵から奪った戦利品だろう。

功も黙って見ていた訳では無い。攻める。そして攻める。

奴は刃の風切り音でも察知しているのか、暗闇でもクネクネと気持ち悪い動きで剣鉈を躱し、突然思い切り腰を沈めた。

地面スレスレから胴体を狙った後ろ回し蹴りが来る。

その攻撃は読んだ。

後にジャンプして躱した、そのはずだった。

しかし、不吉な予感。

功が余裕を持って後ろに跳んだのはブリッコーネにも判った筈だ。なのに奴はモーションを変えない。

「なっ！？」

咄嗟にヘキサシールドを展開する。

《ぐっ！》

シールドが完全に展開される前に、シールドごと上半身が持って行かれそうな程の衝撃が来る。だが、ブリッコーネの蹴りは功に届いてはいない。なのにこの衝撃は・・・

《エクステンションか！》

飛び道具の射程や剣での斬撃を延長させるスキル"エクステンション"。

まさか蹴り技にまで乗せられるとは！

気付けたのはウルズセンシズで不自然さを察知出来、それを拾えた功の戦闘勘の良さのお陰だろう。

体勢が崩れた所で追撃の斬撃！これもスキルが乗っている筈。

無理な姿勢からもアウト側に跳ぶ。

その寸前何者かに足首を掴まれた。

「！」

跳べない！

また無理にヘキサシールドを展開。

今度の衝撃はもっと酷い。堪らず衝撃の方向に跳ぼうにも、足首を掴まれているので逃げられない。

《ウルズ何とかで動体視力強化されてこれかよ！》

功の身体が吹っ飛ぶ。

アーネスの魔法とドクの魔改造ブーツの強度のおかげもあるだろう、足の骨が折れる寸前に足首を掴んだ手が抜けたので、何とか重症は避けられた。

草地の地面を一回転して立ち上がる。足首に激痛が走るが無視！

今はそれどころでは無い。首が千切れかけ、ブラブラと垂れ下がったブリッコーネが、地面に両手両足をついてゾワゾワと動いている。

功の足首を掴んだのはコイツだ。

《キモ過ぎだ！テメェ！》

頭に血が上った功は、キモいとは思うがもはや恐怖を通り越している。むしろ相手がキモい事に腹を立てる程だ。この点はアーネスの感化かもしれない。

だが、地べたを這うコイツはしばらく無視だ。身体は生きているが、頭は死んでいる。五感が死んだコイツは脊髄反射だけで動いているはずなので、仲間を呼ぶ知能は残っていないだろう。

功の足を掴んだのも単なる偶然が重なったからだ。

と、思いたい。

逃がさないように、邪魔されないように意識の片隅に置くだけにする。

問題は未だ健在なもう1体のブリッコーネだ。仲間を呼ばれる前に倒さなければならない。

掴まれた右足首が痛い。

とにかく痛い。

軽く捻挫はしているだろう。悪くすれば罅くらいは入っているかもしれない。

健在なブリッコーネはフットワークも軽く功に迫って来る。チビの人間如き仲間を呼ぶまでも無いとでも思っているのだろうか。

実際コイツは強かった。クネクネと不気味な動きはパターンが掴み辛く、長い手足は功の間合いに入らせて貰えない。

おまけに種族の武術なのか、中々洗練された技で功を責め立てて来る。強いて言うならカポエイラのような蹴り技主体の武術のようだ。

ただし、本場ブラジルのダンス要素が入ったカポエイラではなく、本意気の殺し技のカポエイラだ。

長い手足から繰り出される遠心力の乗った蹴りや殴打は、まともに食らえば1発で沈むだろう。

おまけに時折剣での斬撃が加わるのでトリッキーな事この上ない

だが、どれだけ洗練された技を持とうと、相手の動きが見えていないと役には立たない。

《来る！》

左回し蹴り。

蹴りの軌道は掴めている。功は限界まで身体を仰け反らしてスウェイで躱す。功の鼻先を奴の足が掠める。

ガッ！

奴の膝から血の花が咲く。

回し蹴りが来ると同時に、ハチェットの刃をその蹴りの軌道に置いたのだ。奴は自分でハチェットを蹴りに来たような形だ。

Govlluuu！

その笑顔からは想像出来ない重低音で獰猛な唸り声が漏れる。

功のハチェットは黒く防錆塗装してあり、闇夜では視認し辛い。しかもハンドルまで黒く焼いているので見え難いのだ。

これでお互い足を負傷でイーブンだ。功は畳み掛ける。

「フッ！」

短い気合いと共に懐に飛び込み、剣鉈を叩き付ける。

ザクッ！

《かってぇっ！》

だが、マウンテンロックスキッパーよりはマシだ。奴にはハチェットすら中々通らなかったのだから。

そしてハチェットと剣鉈の違い。断ち割るのがハチェットなら、斬り裂くのが剣鉈だ。

《ペネトレート》

剣鉈の刃を滑らせながらスキルを乗せる。本来の使い方ではない為か、突きよりも与ダメージが鈍い。

Jaoooou！

だが、奴の横腹を斬り裂く事は出来た。

咄嗟に膝蹴りを繰り出したブリッコーネ。クリーンヒットは免れたが、功はガードごと跳ね除けられる。

軽く飛ばされた功が落ちたのは首が千切れかけたブリッコーネの目の前。地面の振動で気付かれたのか、そいつが掴みかかって来る。

「テメェは寝てろ！」

口の中で罵りながらバックハンドでハチェットの裏、ピックの部分で今度は脊椎を突き通す。

背骨を絶ち破られたブリッコーネは、ひっくり返ってバタバタと暴れ出した。

おぞましい断末魔の光景だ。

功は体勢不充分。踏ん張りが効かず、しっかりと食い込んだハチェットがもぎ取られてしまった。

《頭潰したくらいじゃ死なねぇのかよコイツらは！どんだけしぶてぇんだよ！》

だが、これでカポエイラブリッコーネに専念出来るはずだ。所詮はブリッコーネも脊椎動物、背骨を粉砕されてはもう動けないだろう。