第21話戦意は湧く物?いや、作る物!

『何よ考えって。頭良さぶって!私が何も考えてないみたいじゃない!』


「そうじゃねぇっての!お前は俺の事良く考えてくれてるって!仲間を見捨てないリーダーを持って俺は幸せだ!」


大袈裟に言い訳しながらもハンドルをやや南東に切る。輸送車はほぼ南に居るが敢えて逸れる。こうすればフォレスタルチェルトラに対して十字砲火が切れる。


最悪でも自分が囮になれば輸送車は逃げられる。と、悲壮な覚悟・・・・は決められないが、頭の隅には置いておく。


『よーく判ってんじゃない。だったらさっさと戻っておいで!ちょっと、何処行ってんの?方向違うでしょ!アンタ道もわかんないの?!』


向こうでも功の位置を捕捉してくれている。


「違うって!考えがあるって言ったろ?サラディ、聞いてる?聞いてるよな?そのまま少し行くと小さな滝が有る。倒木に沿って東に回り込んだら300mででっかい岩が有るからそいつの陰に輸送車を止めてくれ。音を立てるなよ。

アーネス!正面100m付近に奴を誘導するから横っ腹にぶち込んでやれ!」


『クゥウゥゥン・・・』


サラディの声は震えている。それを無視してアーネスの胴間声が響き渡る。


『よーし!さすがは私が見込んだ参謀。一周回ってアンタを拾った私が偉い!みんな聞いたわね!ガイストは炸裂焼夷弾装填、前脚狙って奴の移動を止めて。その後は同じ側面の一番後の脚よ、逃しちゃ駄目だからね!フィーは耳を狙って三半規管ぶっ壊しちゃって!その後は周囲警戒して細かいのが近寄らないように見張んなさい!ドクはとにかく撃ちまくって弾幕張ってちょうだい!』


いつの間にか功は参謀になっていたらしい。突っ込んでも無駄だろう。


アーネスは物凄くポジティブで男前過ぎる。何より肝が太い。この期に及んで逃げるのではなく逃すなという指示!


思わず惚れそうになる。勿論一時的な錯覚だ。


『サラディはガイストが開けた穴にグレネードぶち込んじゃって!アンタのスキル使うのよ!バンバン使うのよ!"フリーレンジ"で爆裂範囲指定して最小範囲で圧力高めて指向性を持たせて!討伐報償金2万マナティよ!すっごく資金繰りが楽になるのよ!みんな気合い入れて行け〜っ!』


報償金額を思い出し、目の色が変わったアーネスは右手に軍配のようにハリセンを振り回し、いつも以上に頭と口が回る。


さらにアーネスはパーティ全体に防御力アップ"神の祝福ゴッドブレス"の魔法を早口で詠唱する。


そのアーネスの前で眼を血走らせたドクが、足元に替え銃身と弾薬箱を乱暴に転がした。何かスイッチが入ってしまった感じだ。


スマホから取り出したのは長大なドク自作の二連装12mm重機関銃"フォートレスバラージ"。ハート型に似た大楯の上部の割れ目にトリポッドでセットする。

もうこれは銃とは言わず、《砲》だろう。ちょっとした対空火器だ。

そして盾を構えながらの制圧射撃、それがドクの役割だ。


『ヒャーッハッハッハ!、撃って撃って撃ちまくったるうううぁっ!逃げる奴はぁぁっハッハァッ!背中から撃ったるぁ!逃げねぇ奴はぁぁぁあああぁぁっ!ヒャーッハッハ!正面から撃ったるぅぅぅぅううぅっ!』


《意味判んねぇ。ドクなんか人間変わってないか?》


ちなみにサラディのスキル"フリーレンジ"とは、爆風や火炎などの範囲攻撃をある程度コントロールするスキルである。


例えばサラディの使う40mmグレネードの殺傷範囲は通常半径15mだが、このスキルを使う事により、ある程度爆発範囲を指定出来るのである。範囲を広げれば殺傷力は弱まるが、足止め出来る創傷力の範囲が広がる。逆に範囲を狭めれば圧力が上がる。


範囲攻撃が得意な獣人ならではスキルなのである。


『さあ、みんな!獲るわよ〜っ!』


アーネスの勇壮な号令と同時にハリセンは振り下ろされた。


全員一斉に得物を構える。


サラディは運転席から震える手でライフルグレネードを仰角に構え、輸送車の屋根の上には左に伏せたガイスト。右に膝立ちのフィー、前にフォートレスバラージを据えたドク、そして三角形の真ん中に仁王立ちのアーネスだ。


《やれば出来る子だったんだな、アーネス・・・》


アーネスは確かに得難いリーダーなのだろう。

半分絶望していた功が、いつの間にかやれる気になっている。


作戦立案よりも何よりも、部下の志気を高め、やる気を起こさせる雰囲気を作る術に長けている。こいつについて行けば何とかなりそうだ。そう思わせてくれる。


言うまでもなく、一時的な気の迷いだ。


「あと3分!」


目くらましに後ろ向きにバラバラとチェーンガンをばら撒いてヘイトを稼ぐ。これで怒ってくれればアーネス達はさらに気付かれにくいだろう。


しかし、ここで思わぬ伏兵が現れた。


『僕は脚じゃなくて口を狙いたい。奴が口を真っ赤にする所を見られると、きっと愉快だ』


『私も〜耳じゃなくて眼がいいわ〜。あの可愛いお目々に〜ピンポイントでチョン❤️って撃ち込めたらきっと〜、エクスタシィ〜〜〜💘』


『キュ〜ン・・・ハッハハァハッハッ・・・』


《Oh!ナニを言い出すんだこいつらは・・・》


ここに来て最大のピンチ!


変態2人はともかくサラディまでびびって過呼吸を起こしている。


《時間がねぇのに!》


泣き言は言うまい。言う時間が無いからだ。


森を高速で駆け抜けながら噛んで含めるように説得を試みる。


「ガイスト、まず前脚を撃つ。奴は驚くぞ〜。つんのめって無様に転ぶだろうなぁ。慌てて立ち上がろうと藻搔いてる所に今度は後脚。奴は立ち上がれない。無様に惨めに泥に塗れて、それでも逃げられない。少ーしづついたぶられて行くんだ。もし、お前がそんな事されたらどう思う?」


『嬉しいに決まってるだろう!何だそのご褒美はっ!』


「そうだろそうだろ!お前がその幸せを分けてやれ!」


『君はいい奴だな!任せてくれ!』


《変態にいい奴って言われた・・・》


どうでもいいが物凄くショックだ。


しかし、ショックで凹んでばかりもいられない。

功を追うフォレスタルチェルトラがスピードを上げて来たのだ。

おまけにわざとだろう、前脚で地面を少しすくい上げ、まるで散弾のように土くれを飛ばして来る。

破片が銃弾の勢いで肩を掠める。

小便をちびりそうだ。


「フィー、奴を早く倒せればそれだけ熱々の内臓が早く見られるぞ。弱々しい内臓と元気なピンクの内臓、どっちがいい?早く倒せばそれだけ元気にこぼれ落ちて来る触手みたいな内臓がお前にからまってくるぞー」


最後の方は棒読みだ。


『やっば〜いそれ〜💕絡まって来る〜?』


「来る来る!」


《なんなら俺が放り込んでやる!》


とは言わない。内臓ダイブが癖になったら困るのは功だからだ。アンコールには応えられない。応えたくない。


『イヤ〜ン❤️、じゃあちょっとだけ頑張っちゃう〜!"全体攻撃力上昇スプリガンパーリー💗

!"』


アゲアゲのフィーは機嫌良くパーティ単位の攻撃力上昇魔法を発動。


詠唱を要さず、キーとなる言葉に魔力を乗せるだけで魔法が発現出来るのがエルフの凄いところだろう。


その凄さを知らず、さらに功は落ち込む。


《忘れよう、今日という日の事は1日も速く忘れよう!》


『あ、アンタって・・・やっぱりアンタも変態だったのね?!』


アーネスがそんな功にとどめを刺す。


「違うわっ!てか、《やっぱり》ってなんだよ、《も》ってなんだ!クソッ!あと30秒!サラディ!お前がやらないとみんな喰われちまうぞ!喰われたら痛いだろうなぁ!お前はデカいから奥歯で丁寧に88回噛み潰されるぞ!でもって尻尾が奴の親不知に挟まんだ。後で爪楊枝でしーしーされるぞー」


『キャウウンッ!』


おだて、なだめ、脅し、涙ぐましい努力はなんとか身を結びそうだ。

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