第19話ポンコツパーティ

午前の狩りは上手く行き過ぎる程に上手く行ったが、軽い昼食を挟んだ午後の狩りはその反動のように成果が上がらなかった。


多少の獲物は輸送車側でも獲ったが、食糧となる獲物ばかりで換金率の低いものばかり。


功の方でも、アシッドヴァイパーは何匹か見かけはするものの、当然の話だが糸玉状になっていた時とは比べものにならないくらい動きが速く、サボットスラグでは全く当たらない。


何発か外している間にアシッドヴァイパーの射程距離にまで近づかれ、身を守る為に結局バックショットで蜂の巣にするしかなかった。


ヘキサシールドが無ければ無事では済まなかっただろう。


至近距離で放ったバックショットは、アシッドヴァイパーの体内に広範囲に広がる酸袋まで破ってしまい、全てが台無し。アーネスおカンムリである。


ならばと輸送車まで釣ろうとするが、バイクに乗った功を餌とみなしてないのか、興味を示さず追って来ない。


今度は獲物の位置だけ押さえておいて輸送車を待ち、アーネスらにやらせるが、驚いた事に結果は同じだった。


サラディは精密射撃に向いてないらしく当たらず、ドクの重機関銃の獲物でも無く、ガイストの対物ライフルでは明らかにオーバーキル。


フィーの射撃で最初の4、5匹はやれていたが、その内フィーが飽きてきて勝手に昼寝に入って言う事を聞かない。


仕方無しにアーネス自ら撃つが、ちょこまかと動くアシッドヴァイパーに癇癪を起こし、結局フルオートで蜂の巣にする始末。





《もしかして、こいつら・・・駄目なのか?駄目な奴らなのか?》


薄々そんな気はしていたのだ。


心優しいが怖がりで引っ込み思案の狼男。腕は立つが協調性の欠片も無い変態姉弟。技術力は有るが戦闘適正は無いと言い放つドワーフ。面倒見は良いがガサツで短気なリーダー。そして、ポテンシャルは有るらしいがドシロウトの功。


《ポンコツじゃん、どう見てもポンコツパーティじゃん》


こいつらよく今まで生き残ってたなと思わずにはいられない。


だが、功は知らなかった。アーネスのパーティ、ルナティックパーティが結成されてまだ間がない事を。

アーネスと昔馴染みのドクはともかく、他の3人は行き場がなく、路頭に迷っていたのをアーネスが人数合わせの為だけに拾ったという事を。その延長上に功がいるという事を。


《これはもっと気を引き締めないと死ぬな》


いつ帰れるのかも判らない中、この世界で生き残って生活しなければならない。生活するには糧を得なければならない。


今まで以上に真剣に狩りに臨む真面目な功であった。


《あいつらは当てにならないと思った方がいい》


元々功はソロ志向だった。元の世界でもボッチ気質だからこそソロキャンパーなぞをやっていたのだ。


キャンプに限ったことでは無いが、登山や釣り、トレッキングなどのアウトドアを功は1人で気楽に楽しんでいた。


だが、ソロというのは、何かトラブルが発生した時にリカバリーが非常に難しい。


過去に大学の休みを利用して行った、オーストラリア一週間サバイバルソロキャンプを敢行した時に、痛いほどそれを味わった。


想定した以上のトラブルが次々と起こる現実。これが日本なら何とでもなるが、海外の本意気のジャングルは全く甘くなかった。

体長10mを超え、銃弾を弾く蛇モドキが居ないオーストラリアでそれである。ましてやここは得体の知れない魔物がウヨウヨいる世界。


その時の経験が有るからこそ、この異世界でソロがいかに危険で無茶な事かを、肌に染み込むように感じている。


どんなに強力な武器が有ろうと、どんなに希有なスキルがあろうと、1人というのは必ず限界を迎えるのだ。それも考えているよりも遥かに早く。


だからこそ仲間が必要なのである。眼は多い程危険を察知し易い。手は多い程作業が速い。脳味噌は多い程知恵も出る。


反面、口は多い程よく食うし、ケンカもする。おんぶに抱っこだけでは嫌われる。

だからこそ、自分が仲間を助けるぐらいの気構えが無ければ駄目だ。そうなって初めて自分も助けて貰える資格が生まれる。功はそう思う。


だが、そんな時に限ってトラブルはやって来るのである。





《とうとう降って来たな》


功の予想通り、午後を過ぎてから雨が降り出した。一気に暗く見通しが悪くなり、気温が下がる。


いつしか鳥や虫の音も鳴り止み、森は無彩色の湿った静寂に包まれて行く。


ポンチョの襟のベルトを締め直して雨の侵入を防ぎつつ、地図でビバーク出来そうな地形を探す。


なるべく川から離れた高台が望ましい。山や森の川はちょっとした雨ですぐ増水し、瞬く間に濁流となる事がある。ほんの少しの雨でも舐めてはいけないのだ。


だが、雨脚が強くなる程アシッドヴァイパーは活発になるようで、渓流のほとりによく姿を見かけるようになった。


《こいつら蛇じゃねぇのかよ。気温下がって何で活発になるんだ?》


所詮は異世界の魔物である。功の常識の埒外にあるのだろう。


バイクを降り、雨音に紛れてそっと近づく。手にあるのはオルトロスではなくホーネット。何だかんだ言って接近戦で一撃必中なら、より取り回しの楽なハンドガンが一番当たる気がする。このラプターホーネットは銃身長が12、3cmくらい。インチ表示なら5インチ位だろうか。長過ぎず、軽過ぎずと言った塩梅だ。弾丸はホローポイント、狩猟用の弾だ。


《こいつら狩って今日は終わりにしよう》


木や岩陰を伝って忍び寄る。三匹居るのが見える。


雨音のせいか、それとも別の理由からか、あれ程感覚が鋭敏だったアシッドヴァイパーが全く功に気付かない。


ドウッ!


当たり!強烈な反動。アシッドヴァイパーの頭が弾け飛ぶ。


後2匹。さすがに気付かれる。しかしそれは想定済み。


ドウッ!


音の出所を探し、一瞬動きが止まった所を撃つ。湧き立つ血煙。


最後の1匹。


ぬかるんだ地面を泳ぐように迫るアシッドヴァイパー。速い!


酸が飛んで来る。紙一重で躱す等という高等技術は持ち合わせていない。身体ごと投げ出して避ける。


起き上がりざま左手で腰のハチェットを抜く。奴は目の前だ。


長い毒牙こそ無いが、サメのような牙がスローモーションのように迫る。


《狙い通り!》


功を丸呑みに出来そうなほど開けられたその口の中に、突っかい棒をする様にハチェットを拳ごと突き入れる。タイミングは読み通り!


口蓋を断ち割るようにして抉り込む。


暴れ狂うアシッドヴァイパー。その筋力は到底功の敵うものでは無い。口の中にハチェットを突っ込んだまま頭を左右に振られ、功は投げられるように振り解かれる。


だが驚いてパニクったのか、一番強力な締め付け攻撃もして来ない。


ビタビタと暴れるアシッドヴァイパーにタイミングを合わせてとどめの一発。


素早くハチェットを回収し、使った分の弾を補給する。


《やっぱ反動キツイな。あんま撃ちたくねぇなこれ》


手の平がヒリヒリするし、手首どころか肘まで痛い。鍛えるか諦めるか、もう少し優し目の物に買い換えるか、考えた方がいいだろう。

いまだに蠢く3匹の尻尾を引き摺り、一纏めにしてアーネスに一報を入れる。


「功だ。3匹仕留めた。今日はもうこれぐらいにした方がいいと思うんだが」


『了解。そうね雨降って来ちゃったしね。今そっちに行くから待ってなさい』


拍子抜けするくらいあっさりとアーネスが同意したのが意外に感じられた。もっと稼ぐとごねるかと思っていたのだ。


アーネスとしては、まだ確かに稼ぎたい所ではある。功のビギナーズラックがあったとは言え、今日の稼ぎは予定の半分しか行っていない。


だからと言って仲間に無理をさせる程阿漕でも無ければ馬鹿でも無い。ただでさえ危険な森で、コンディションの悪い中活動する危険をアーネスも知っているのだ。


「俺の今いる位置はマーキングしてあるな?獲物の回収は頼む。俺は先に今日のキャンプ地を探す」


天気図を呼び出して見ると、今後益々雨が激しくなる気がする。急いだ方が良いだろう。


『OK、視界が悪いから気を付けて。タイヤ滑らせて川に落ちても知らないからね』


「了解」


スマホのパーティチャットを切り、改めてマップを見つめようと意識を戻した時、それに気が付いた。


「マジかよ・・・」


岩か地形の起伏かと思ったが、本能と同化したスキルが違うと教えてくれている。


背中に苔を生やし、巌のような姿は正に歳を経た竜そのもの。


会いたくないと思っていた奴。フォレスタルチェルトラだ。

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