第16話スカウト
短くなった散弾銃は、持った感じ使い勝手が非常に良いかもしれない。少なくとも、昨日のスキッパー戦の時のように、重くてふらついたりはしない(普通片手で扱う物では無いが)。さすがドク、いい仕事をしている。
しかも、見た目は短くなった以外変わっていないのに、反動は多少、発射音は大幅に抑えられている。
散弾銃身の銃口はチョーク(絞り)が固定されており、距離50mで80cmの円の中に広がるセッティングだ。
至近距離でゾンビの群れを撃っても倒れるのは一体か、せいぜいその後ろのゾンビだけだろう。某ゲームのようにはいかないようだ。
左銃身のスラッグ、正確にはサボットスラグだが、こちらの有効射程は200mとネットには書いてあった。
ただし、功のオルトロスはソウドオフされており、そのバレルの長さは40cm有るか無いか。つまり元の半分近くになっている。取り回し重視の為、肩に固定する銃床はすっぱりと切り落とされ、安定も悪い。
いくらバレルにライフリングが刻まれており、直進性が高いと言っても、とてもその距離で正確に射撃出来る筈がない。
実際には30m以内がいいとこだろうと功は心に留めておく。威力が持続したとしても、自分の腕ではまず当たる気がしないからだ。
ドクの言う通り、脚を使ってのラン&ガンがやはり今の自分に合っているのだろう。
リボルバーのラプターホーネットも撃ってみたが、人間大の的に当たる気がする距離は15mが関の山。
こちらは発射音は抑えられているが、反動はそのままだ。
「ドク、こっちの反動は抑えらんねぇの?」
「無茶言うな、オルトロスにエンチャントするだけでもギリギリだったのによ。触媒付けて付与するにゃ、ハンドガンは小っさ過ぎらぁ。自分で鍛えて使いこなせ」
と、にべもない。
何がどうしてそうなるのかは、多分この先も理屈は理解出来ないかもしれない。しかし、拳銃は小さ過ぎて欲しい機能が付かないのだけは判った。
喩えて言うなら50ccのスクーターに、時速180km出すようにしてくれと頼むようなものなのだろうと思い、納得する。
《慣れるしかねぇな、慣れたくねぇけどな》
「いつまでやってんのよ。今日のブリーフィング始めるわよ」
三丁の銃をそれぞれ6発づつ(オルトロスは全部で12発)試射した所でアーネスに声を掛けられた。
それにしても言い方が有るだろうとは思うが、おそらくアーネスにそれを期待してはいけないのだろう。
悪意があっての物言いではないので、スルーする。その内気にならなくなるだろう。
空薬莢は放っておくと自然に還る安心安全天然素材で出来ているらしいので、遠慮なくその辺に捨て、急いで予備の弾薬を補充する。
特にオルトロスの弾の入れ間違いは注意だ。サボットスラグをスムースボアで発射しても命中精度が下がるだけで問題は無いが、散弾をライフリングの有るバレルで発射すると、さすがのオルトロスさんもまともに撃てないらしい。
皆の所に戻り、頑張って慎重にリロードしていると、アーネスから衝撃発言が飛んで来た。
「じゃ、功、アンタ偵察しながら先行ね」
「・・・・・・は?」
「はって何よ、聞こえなかったの?先行偵察しなさいって言ったのよ。アンタの兵種はスカウトでしょ?」
功だけでなくドクやサラディも驚いている所をみると、アーネスの発言はあまり一般的なものでは無いらしい。
「マジか?マジなのか?俺は素人でこっちに来てまだ半日だぞ?それに、スカウトってなんだよ?いつからそうなった?」
「斥候兵の事よ。それにこっちに来た日にちなんて関係ないでしょ?戦える装備が有って戦えるんだから出来ない事ないって。大丈夫!アンタなら出来る!私は信じてる!自信持ちなさい」
どこまで本気なのか、さすがのドクも読み切れないようだ。
「第一、アンタの装備見てみなさいよ。足は小回りの効く二輪車で、紙装甲とは言え軽戦闘車両並の武装付けて貰ったんでしょ?持ってる武器は至近距離の遭遇戦に適した散弾装備。身に付けたスキルはウルズアイ(狩猟神の眼)とヘキサシールド(六角障壁)って、スカウト(斥候兵)になる為に生まれて来たとしか考えられないじゃない」
全部本気だった。
「・・・」
言い返せない。理不尽極まりないとは思うが言い返せない。
「でしょ?」
勝ち誇るアーネス。
「お嬢、さすがにそれはどうかな?功はこの森の地形も知らんし・・・」
「地形とか地図なんてスマホ見ながら行けば済むことでしょ?何の為の地図アプリよ。私だってこの辺詳しい訳でもないしさ。怪しいとか危ないとか思ったら連絡して引っ返して来りゃいい話じゃない。簡単なもんでしょ?」
何か違う。何かが違う。でもその何かが咄嗟に出てこない。
「さ、時間無いんだからさっさとブリーフィング始めるわよ」
「マジか〜!」
半日アーネスと接していて、何となくその性格が掴めて予想していたが、ブリーフィングの内容は酷い物だった。
輸送車の外壁に、アーネスのスマホのプロジェクション機能でこの辺りの地図を投射する。
「今ここね、この南東部の森唯一のEA(緊急避難施設)。今日はここから川沿いに北に進んで北東エリアに行こうと思うの」
落ちていた木の枝で、森を流れる川をなぞる。
「あんまり深いとこに行くとヤバいらしいから、そこまで深くは潜らない予定。でも、いいのが居たら行っちゃうかな」
曖昧。
「獲物にもよるけどいつも言ってる通り弾薬節約でね」
雑。
「狙い目はアシッドヴァイパーだからなるべくヘッドショット一発でね。前回みたいに穴だらけにしちゃうと討伐金以外値段つかないから。酸袋は錬金の触媒になったりそのまんま燃料になったりで値段がいいから絶対確保よろしく」
無茶。
「このエリアは、他にもなんか居るみたいだけど出会ったらその時はその時で。見つけたら取り敢えずやっちゃって」
適当。
「でもなるべくならこっちから先制したいから功はしっかり偵察してね。あ、後たまにでいいから定時連絡入れて」
大味。
もう、不安しかない。しかも、定時連絡をたまにってなんだよと思わずにいられない。
皆の様子を見ると、何も疑問を感じていないように見えた。そもそも変態2人は話を聞いてないみたいだし、サラディはボンヤリしている。頼みのドクは輸送車とトラクターの様な牽引車の接続の方が気になるらしく、工具をスマホから出して並べている。
《いや、おかしいだろ!こんな穴だらけの作戦有りか?それともこれが普通で俺が心配性なだけか?》
異世界2日目、仲間は得られたが、それ以上に不安は膨らむばかりだ。
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