第15話装備バラエティ
しかし、まさかこの時点でそれに気付くはずも無い。
功は訝しみながらも顔を水場で洗い、歯を磨く。
手早く焚き火の用意をし、大鍋に野菜や肉を投入。
持参していた私物のカレーパウダーと顆粒の和風出汁も入れ、昨日のリゾットで使われていた、米と麦の間のような穀物も入れて煮込む。
カレーライスならぬ、カレー雑炊。これなら鍋1つで済むし、手間もかからない。スパイシーな風味は手早く身体を温めるので、少し肌寒いこの季節にはもってこいだ。
脂質や糖質も充分、野菜もタップリで栄養豊富だ。いくらドワーフが底無しの胃袋で、サラディが大男でも鍋一杯有れば足りるだろう。
おまけにカレーパウダーさえ有れば、あり合わせの材料でもそれなりのクオリティのものが出来る。水加減次第ではドライカレー風にもなるし、リゾット風にもなる失敗知らずのメニューなのである。
今回は水が多めのカレー粥風にした。消化も良く、朝食にはぴったりだ。
焦げ付かないようにたまにかき混ぜながら、その間に寝床を片付ける。撤収作業は慣れたもので、しかも今回はテントもタープも無いから特に楽だ。
夜露で湿気たポンチョと一晩過ごしたシュラフは木の枝に吊るし、直前まで乾燥させておく。
「荷物はスマホのアプリん中に入れときなさいよ。必要な物以外は出さない。すぐに逃げられるようにいつも準備している事。判った?」
成る程、と思いながら返事をする。
「あぁ、判った」
「功のマナフォンⅣは型落ちだけど、アンタの二輪車程度の容積は収納出来るからそれも覚えておいて」
そこまでは昨日のネットサーフィンで調べてなかったなと思い、アーネスの忠告に素直に感謝する。
《てか、スマホにバイク入るって普通思わねぇよな》
功の荷物はバイク以外はタンデムに積んでいたシートバッグと、サイドバッグに全て収まっている。それらを言われた通りにスマホのストレージアプリに収納する。型落ちといえど、残容積が表示される高性能さだ。
試しにバイクも収納してみると、残容積がおよそ200ℓと出た。今使っているキャンプ用シートバッグが75ℓなので、あと2つ分と少ししか残っていないが、予備弾薬の他に荷物も無いので問題ない。
あとはドクから持たされた武装だけだが、これらは全て身に付ける。
腰に巻いたガンベルトの左右のレッグホルスターにはラプター ホーネット。空いたスペースにはローダーのポーチやばら弾を挿し、後ろ腰にはぶっちがいに閂に差したナイフとハチェット。革ジャン鎧の上からはワンショルダーのバンダリアを装着し、背骨に沿って付けられたループにオルトロスが来る。
ポケットには予備のフォールディングナイフや、ライト、ファイアスターター等のEDC(エブリデイキャリー=日常携帯品)。
バンダリアのベルトにハイドレーションポーチや予備のショットシェルを挿す。その上に、クリプテックのタイフォン柄のような防弾防刃ポンチョを被る。
このカモ柄はマウンテンロックスキッパーの皮革を練り込んだ事によって浮き出たもので、ジャケットやパンツ、グローブ、ブーツもこのパターンが薄っすらと浮かんでいる。
装備の総重量はかなりのものだが、重い等とは言ってられない。全て身を守る為に必要なのだ。
そうこうしている内にカレー雑炊は出来上がり、出来上がる頃にはメンバー全て起き出していた。
「な〜に〜この匂〜い。お腹が減る匂いだわ〜」
低血圧らしいフィーも、カレーの匂いに釣られて起きて来た。
眠そうに眼を擦りながら、身体に染み付いたような動きで次々スマホから装備を取り出して身に付けて行く。
小型のサブマシンガンを拳銃のように腰に差し、シャムシールと呼ばれる細身の曲刀を二振り背中に背負う。プライマリーの武器であるマークスマンズライフルは、常に手元に置いているのでこちらは担ぐだけだ。
服装装備は、袷のようなチュニックとピッタリとしたパンツ、その上に軽めのレザーアーマーを着ている。
これは弟のガイストも同じで、功の様にガチガチの鎧では無い。
フィーは暗い色のケープ、ガイストはギリーマントを羽織っている。
ちなみにスマホストレージの使い方であるが、収納する時はストレージのアイコンをタップ、「収納」をタップ、起動したカメラを収納したい物に合わせてタップ(多少見切れても可)、残容積が表示されるので、確認して「決定」をタップ、である。
出す時は、ストレージのアイコンをタップ、「リスト」をタップ、出したい物をタップ(複数の場合は数もタップ)、ディスプレイの上にホログラムで確認表示され、「決定」をタップ、ホログラムが実体化され、3秒以内に手で掴むか支える。
支え切れない大きな物は、地表近くにカメラを向け、出したい場所をタップするとそこに出現する。
中々煩雑なステップで出し入れする事になる。
慣れるとマナAIが学習し、音声入力でステップを簡略化してくれるらしいが、いずれにしても戦闘中は無理な話だ。
故に重くても、予備弾薬は身に付けておかねばならない。
話はそれたが、よく見るとフィーだけでなく、古風な刀剣類を皆装備している。
アーネスはありきたりなオリーブドラブのタクティカルスーツに軽鎧、右腰に自動拳銃、左腰に籠状護拳付きの
サラディは胸当てだけの裸の上半身、タクティカルパンツとブーツ、背中に大きな蛮刀を背負い、手にはバレル下部にグレネードランチャーが取り付けられたアーネスより大きなアサルトライフル。武装はそれだけだが、身体中に予備弾薬やグレネードをぶら下げでいる。
ガイストは大口径対物ライフルの他に、後腰にサブマシンガン、左腰にはコサックサーベルのような軍刀を剣帯に吊っている。
そしてドクことダズワイス。彼だけは簡易金属鎧、背中に両刃斧を背負い、左腕に特徴的な形をした巨大な盾を持っているだけだ。ドクの役割は分隊支援機関銃手だが、低重心で怪力のドワーフが使うのは軽機関銃ではなく、大口径の重機関銃だ。それ故に大きく嵩張るので普段はスマホにしまってある。
そんな皆の装備を見て、ふと功は心細くなった。
「なんかさ、俺の装備って貧弱じゃね?」
皆で朝飯を食いつつボソっと功が呟いた。
「まぁ確かに開けたフィールドで、相手もこっちと同等の飛び道具を持っていれば不利だな。それは間違いない」
事もなげにドクが返す。
「やっぱり」
祖父に聞いたうろ覚えの話だと、ライフルより圧倒的にショットガンの方が射程が短く、火薬の量も少なかったと記憶している。
「ただ俺たちは人間相手に戦争するわけじゃねぇ。相手は魔物だ。ま、たまにゃぁ昨日みたいに賞金首狙う時もあるが、それだって塹壕に隠れながら銃口並べてドンパチするわけじゃねぇ」
一回区切り、旨そうにカレー雑炊を掻き込むドク。
「お嬢やフィー、サラディが使ってるライフルはそりゃ連射性能も高いし、弾数も多い。初速も速くてパワーもある。だが、人間みたいに薄っぺらくて柔らかい魔物相手だと弾が抜けちまうんだ。場所によっちゃ相手は死なずに怪我するだけ。ホローポイントやソフトポイントって中で潰れる弾もあるが、今度は硬い殻の魔物には通じなくなる。その点功のオルトロスは面攻撃のマグナムバックショット、破壊力に優れたマグナムサボットスラグの両方が撃てる。しかもお前さんはペネトレート持ちだ。要は使い方戦い方次第よ」
お代わりを自分で注ぎ、続ける。
「問題は装弾数の少なさと射程の短さだが、今みたいな森やダンジョンだと射程のハンデもほとんどねぇ。それにオートマチックの装弾数の多い銃も有るには有るが、そういうのは故障も多いしな。第一お前さんの小回りの効く二輪車にゃ、これでもかって武装を積んだじゃねぇか」
「成る程」
「それに魔物相手じゃ、結局最後は段平振り回しての斬り合いになる事も多いからな。走り込んでって要所要所でかましてやれ」
何事にも一長一短あるということか。
《アフガンの砂漠戦じゃなくて、ベトナムのゲリラ戦なわけね》
と、判ったような判らないような事を考える。
その後、大人気のカレー雑炊の掴み合いの争奪戦に参加する事無く、一人で自分の装備のスペックをスマホで確認した。
銃器というのは銃本体の性能よりも、どんな弾を撃つかが重要らしい。どんな弾を撃つかはどんな相手を想定しているかで変わってくる。
万能な弾というのはないらしく、例えばガイストの持っている15mm硬芯徹甲弾は、その口径と弾速で大概の魔物を引き裂くが、キックが強くて連射は難しい。ドクの12mm重機関銃弾はその役目上ばら撒かなくては意味がなく、その場合無駄弾やオーバーキルが多くてこれも運用は難しい。
アーネスとフィーの7mm弾、サラディの9mm弾も先述のドクの言う通り。
このパーティでは主にアーネスが汎用のフルメタルジャケット、フィーが同口径でもマッチスペシャルの精密弾、サラディがソフトポイントを使っている。
ガイストは硬芯徹甲弾の他、炸裂焼夷弾も使っているそうだ。
同じパーティで全員違う弾が運用出来るのも、スマホの通販のおかげだろう。いつでもどこでも金さえ有れば弾薬が補充出来る。
「後片付けはしといてあげるから、少し試射しなさいよ。ぶっつけで扱える程銃って簡単じゃないからね」
と言ってくれたアーネスの言葉に甘え、功は試射する事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます