第14話新人まとめサイト

立ち直るのにはもうしばらくかかりそうだ。今日一日に起こった物事は多過ぎて、それ以上に濃過ぎて心がポッキリと折れている。


そんな、悄然と座り込んでいる功に、夕食を山盛りにした皿をアーネスは差し出した。


「食べなさい。ご飯食べて、あったかくして寝れば嫌でも元気が出るから」


「あぁ・・・」


皿を受け取りはしたが、心ここにあらずな様子の功は無意識に返事を返す。


そんな功にガサツで短気なアーネスはイラつく。


「いつまでウジウジ悩んでんのよ!来ちゃったもんは仕方ないでしょっ⁉︎アンタは生きてんの!生きてるからには生き続けないとダメなの!生き続ける為にはご飯食べないとダメなの!食えっ!」


言うなり功の鼻を片手でつまんで顔を上に向かせ、スプーンに山盛りに掬った穀物と豆のリゾットのような煮物を、熱々のまま口に突っ込む。


鮮やかと言っていい手並みだ。まるで練習したかのような滑らかで自然な動きに抵抗する間もない。


「そーら食え、たーんと食え!ご飯さえ食べられれば何とかなる!」


暴れる功を抑え込み、さらに二、三度リゾットを放り込み、最後はスプーンを突っ込んだまま功の口を手で塞ぎ、無理やり嚥下させる。その姿は食事の介助というより拷問だ。


「旨いか⁉︎旨いだろ!フィーは女子力高い変態だから料理は美味しいの!変態なのに!変態なのに女子力は私より高いのよっ!それも遥かに!そんな変態の作った旨いご飯を食えっ!」


途中から功に対する憤りから、不甲斐ない自分に対する憤りに変わっている。しかし、これ以上されたら殺される。飯を食わされ殺される。


熱さと苦しさで七転八倒した功は、別の意味で身を守る為にも食わねばならなかった。


そんな二人をドクとサラディは引き気味で見守っている。


「今日の今日転移してきてハードな一日を送った新人にあの仕打ち。さすがはお嬢・・・」


「クーン・・・」


変態姉弟は通常営業だ。各々のスマホで、食事中に見るべきではないナニかのネット動画を観ながら肉を咀嚼している。


パンチの効いた目覚ましで、無理やり現実に引き戻された功は、それでも渡された夕食を掻き込んだ。


リゾットは豆の甘みとチーズの塩気が合わさっており、下手なレストランよりも濃厚で旨い。謎の肉の炙り焼きが添えられているが、これもハーブで香り付けされていて臭みも無く、多少の歯応えはあるが充分旨い。


いつしか功は涙を流しながら夕食を頬張っていた。


その様子に満足したように、アーネスも自分の食事を始めた。





食事を終え、今夜は見張りを免除された功は、グランドシートを敷いた地面にサーマレストのZライトソルを敷き、その上にシュラフを広げてくるまっている。


初秋とは言え、夜はそれなりに気温も落ちて冷えてくる。


本当はタープも張りたかったが、他の皆も似たような形で寝転がっているし、そもそもタープを張る気力が残っていない。

アーネスとフィーは輸送車の中で、ガイストは屋根の上に寝転がっている。


シュラフはそれなりに高級なものを使っているので、多少夜露が降りても撥水してくれるから問題は無いが、一応先程ネットで購入したポンチョ(ドクの魔改造済み)を重ねて被っている。


問題だらけなのは功の方だ。身体も心も疲労しきっているが、先行きの不安で眠れそうにない。


ドクに履いていたライディングパンツとブーツも持っていかれ、ジャケット同様に改造されたのだが、その間はパンイチでシュラフにくるまっていなければならない。


疲れ切っているのに眠れないもどかしさと、こんな恐ろしい世界で眠る怖さ。パンイチの不安、これらががないまぜになって余計に眠れないでいる。


《寝れる気がしない》


しばらく悶々としていたが、諦めてこっちの世界のスマホを取り出してネットに繋ぐ。


ご多聞に漏れず、通販サイトの宣伝や各種まとめサイト、よく分からんスレッド、エロ動画サイトや題名からして元の世界では確実に削除されそうなエゲツないサイト等も有ったが、全てスルー。


今日聞いた適当な用語を打ち込み、ヒットしたサイトを適当に閲覧しておさらいしてみる。


そうやって見ていると、新人に関するまとめサイトを発見したので開いて見た。


こういったまとめサイトはどこまで信用出来るか判らないが、多くの情報に触れるのは悪くないだろう。


サイトには、今日ドクやアーネスから聞いた事が書かれており、なかなか信用度は高そうだ。ただ、両者がウソをついているかも知れないので、完全に信用はしない。


サイトはともかくアーネスやドクに関してその可能性は低いとは思うが、用心に越した事はない。


その内、この世界の人類に脅威を及ぼす魔物や動植物に関するページを見つけた。


怖い物見たさもあって閲覧してみる。


《マジか!怪獣映画か⁉︎うわっ!何だこれ気持ち悪い!ウソだろ!こんなのどうやって倒すんだ?》


[ロストチャイルド ワールド魔物図鑑]と題されたサイトの中には、判りやすく脅威度で分類されており、そのランクは[この世界に慣れよう!新人入門ランク]から[油断するとやられる初級ランク][慣れて来た頃が一番ヤヴァイ、ソロ討伐ランク][ソロでは限界、パーティ推奨ランク]その後[2パーティ推奨ランク][3パーティ推奨ランク]等が続く。


功が倒したマウンテン ロック スキッパーは、アーネスの言う通りパーティ推奨ランクに位置していた。


書かれていた内容も功が経験した通り。よくもまあ、何も知らない功一人で倒せたもんだ。これもアーネスの言う通り、若い個体と脱皮したてという二重の幸運が重なったからだろう。


功はそのまま眠くなるまでサイトを閲覧し、限界が来たところで眠りについた。





翌朝。


意外にもぐっすりと眠れ、自分でも呆れる程気分良く目覚める事が出来た。


ただ、期待していた夢オチなんて事は無く、目覚めと同時に早朝の見張り当番だったアーネスから湯気の立つお茶のカップを渡された。


「ちょうど起こそうと思ってたとこよ。お茶飲んだら顔洗って朝ご飯作ってよ」


時刻は多分6時になるかならないかくらいだろう。自分の腕時計は当てにはならない。スマホを見るとやはり、5時50分だった。


野外活動の朝は早い。何故なら屋内と違い日の当たる時間しか活動できないからだ。故に夜も早い。


「フィーは?」


「あの娘は低血圧で朝弱いの。料理番てわけでもないしね。こういった仕事は持ち回りなのよ。判ったらさっさと作って。時間もったいないんだから」


追い立てられるように起こされ、輸送車の車載貯蔵庫から出した食料袋と大きな鍋を渡される。


「そん中のもんで作って。言っとくけどそれ今日1日分だから考えて使ってね」


袋の中身は雑多な野菜、穀類、パックされた肉や魚類が雑然と詰め込まれていた。


薄々感じていたが、どうやらこのパーティはアーネスの性格を反映しているようで、秩序だとか整理整頓だとかとは無縁らしい。


しかもどう考えても内容量は6人の1日分と言うより、10人の1日分か、6人の2日分が入っている。


《まさか、自分達の食う量の計算も出来ない訳じゃねぇよな》


その懸念は当たっていた。

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