第13話魔改造

「お、お、お、俺のバイク〜〜〜ッ!」


アーネスの脱線拷問から解放され、外に出た功は己の愛車の前で崩れ落ちた。


まだローンを払い切っていない自慢のバイクは、見る影も、いや、影くらいしか残っていなかった。


ダミータンクと見慣れたエンジンはゴッソリと降ろされ、謎の装置が代わりに取り付けられている。

脇にデザインされているこのバイクの特徴でもあるエアインテークは残されているので、そこは辛うじて原型は留めていると言える。


が、しかし、長距離ツーリングでも疲れないように、アップ気味にセッティングされていたハンドルポジションは、戦闘的に低くくされており、ゴツいハンドルガードが取り付けられ、シートには背もたれのような背部装甲板。

タンデムのキャリアー、ステー等も取り外され、右に6連装ミサイルランチャー、左にはアームに載ったチェーンガンが装備されている。


フロントタイヤの右にはベルトリンクの小型マシンガン、左にはタイヤを回ってその箱型弾倉。

エンジンボトムには分厚い装甲板。


ハンドル周りには操作パネルと、何の為かは想像もしたくないモニターとスイッチ類がご丁寧に取り付けられている。


ライトには防弾シャッターが被せられ、その上には鋭角に取り付けられた防弾風防、車高は高く上げられてタイヤもぶっといエンデューロタイヤに変わっていた。


その横に自慢気に佇むドクことダズワイス。


ハラハラと成り行きを見守るサラディ。


「素晴らしい!我ながら傑作だ!昔チンピラどもから鹵獲したランチャーとチェーンガンがようやく陽の目を見られる。ライトリアには短距離アクティブホーミングミサイルランチャーが6基、レフトリアには可動式10mmチェーンガン。

まったく惚れ惚れするな!ヘルメットにスマホ経由で無線接続したファイアコントロールシステムで全武装の選択と照準は視線入力可能。

フロントマシンガンは取り外して携帯も可能な神設計。

後はタンデムに載せる40mm滑空砲か迫撃砲が有れば完璧なんだがなっ!

名付けてD-MAX!」


いや、礼は要らんぞ。と、言いかけてドクはやっと功の様子に気づいた。


「どうした。嬉し過ぎて声も出ねぇか?」


「何してくれてんだこのクソ肉達磨!元に戻しやがれっ!まだローンだって3年も残ってんだぞ!こんなんじゃ車検も通んねぇわ!てか、捕まるわ!」


「あ」


やっと正気に戻るドク。


「すまん!やり過ぎた!このマシンの余りの高性能さに我を忘れちまった!」


さすがに人の持ち物を勝手にいじるのはこの世界でもご法度である。しかし、ドクは開き直って言い訳を始めた。


「で、でもよぉ、お前さん燃料はどうする気なのよ。この全素核エンジンなら、全素核の元になる魔石燃料でクリーンで前以上の大出力が出せるぞ。お前さんの世界の技術との芸術的融合だな」


すかさず痛い所を突いてくる。


「俺に必要なのは魔石燃料じゃなくて化石燃料だよ!」


ヘタリ込む功の肩に、サラディがそっと手を乗せた。


しかし、少し冷静に考えると、いつ帰ることが出来るか分からない功にとって、生き残るには必要な装備かも知れない。

操れるかどうかは置いといてだが。


ただ、気分的に故郷がより遠くなった気がするのである。


それも絶望的に。


「えーっと、とにかくすまんかった。ただここまでやっちまうと元に戻すのも、その・・・」


「・・・いや、もういい。俺も言い過ぎた。有り難く使わせて貰う。操作方法とか、銃の使い方とかも教えてくれ。ただ・・・」


肩を落としたまま深い溜息を吐く。


「取り敢えず全部明日にしてくれ。それまでに気持ちも整えるから」


バイクでキャンプ場を目指していたら、いつの間にやら異世界に紛れ込み、よせばいいのにバケモンと戦い、犯罪者に未知の力を授けられ、死にかけたらぶっ飛んだ傭兵パーティに助けられ、武器を押し付けられて傭兵の仲間入り。おまけに大事なバイクは魔改造される始末。


《もう一杯一杯だ・・・》


身体はともかく心がもたない。というか、バキバキに折れまくった。


「みんな〜、ご飯〜出来たわよ〜」


場違いに暢気なフィーの声に、初めて空腹に気付く。


そう言えば朝メシ以来何も食べていない。何となく昼メシを食べそびれていたので、気付けば猛烈に腹が減っている。


《人間てこんな異常事態でも腹減るんだな》


自嘲気味に鼻を鳴らして笑うと、スパーンッ!と良い音で頭を叩かれた。


「何いい大人がメソメソしてんのよ!メシよメシ!お腹一杯ご飯食べて、あったかくして一晩よ〜く寝たら人生なんて、いくらでも何とかなんのよ!明日っからは間引きの仕事を入れたからね、みんなもしっかりご飯食べて働くのよ!」


いつの間にか輸送車から降りて来たアーネスが、ハリセンを持って仁王立ちしている。


「何故ハリセン・・・」


素朴な疑問を感じるが、もっと違和感がある事に気付いた。


日も沈み、周囲は大分暗くなって来ている。現にアーネスはハリセンを持っていない方の手に、謎光源のランタンのような物を下げている。


功の周囲の光源は、このランタン、焚き火、そして星空だけだ。有るのかどうかも判らないが、月も出ていない。


なのに、見えるのだ。


視線を柵の向こうの薄暗い森に向ける。


見える。ハッキリと。


小型のウサギっぽい動物が草を食んでいるのが見える。


その向こうの森の木に、蛾のような虫がとまっているのも見える。


ここから蛾までの距離は52m。蛾の大きさは縦5cm、横8cm、何故か距離や大きさまでもほぼ正確に判った。


その蛾を狙って、保護色の表皮を纏ったトカゲが音も無く移動しているのも見える。


地面に眼を向ければ、様々な足跡を見つけられる。さらにその足跡から、足跡の持主の情報も判る。


例えば一番近くの足跡。


山歩き用のブーツのパターンが見える。足の大きさは35cm、歩幅から察するに身長は215cmから220cm、体重は120kgから130kgだろう。痩せ型で右足をやや外に開く癖があり、足は速く非常に俊敏。性格は慎重で臆病。足跡が出来たのはつい最近。少なくとも5時間以内。北西から来て南に向かっている。


サラディの足跡だ。


周辺にはドク、フィー、ガイスト、自分の足跡も見える。


「何してんの?」


急にキョロキョロし出した功を不審に思ったアーネスが問いただした。


「なんか・・・見える・・・」


「な、何不気味な事言ってくれてんの?なんか居るの?マジで!?お札とかお清めとか要る?」


何か勘違いしたアーネスが、青い顔をして後ずさる。


何故かサラディもイヤイヤをするように首を振り、フサフサの尻尾をズボンの股に挟んでアーネスの後ろに隠れようとしている。


その様子を見ていたドクが口を開いた。


「特性スキルが生えたのかもな。心当たりが有るんじゃないか?」


確かに山歩きをして、ブッシュクラフトなんぞをしていると、自然観察の力が付いてくる。


この野草は食べられる。イノシシの足跡があるからこの辺は危険。鹿の糞があるから驚かせたら悪いからルートを外れよう。僅かな痕跡で熊の危険を回避もし、さらに木の枝ぶりや苔の生え具合などを総合的に判断して方角を見たり、地形を判じて水場を探り当てたりもする。


と、この程度なら元の世界でも普通にやっていた。祖父の仕込みもあるし、功の素養も有ったのだろう。


しかしここまででは無かった筈だ。その事をアーネスとドクに伝える。


「暗闇でも見える。遠くが見える。細かい違和感が見分けられる。多分動体視力も上がっているだろう。そんなスキルはアレしか無い。ウルズアイ、"狩猟神の眼"のスキルだ。レアリティはBクラスだな。そんなに珍しくはないな」


「なーんだ、幽霊でも見えるのかと思っちゃったじゃない。脅かさないでよまったく」


サラディ共々安心したように肩をおろしたアーネス。


「良かったじゃない。前の世界の経験がこっちで増幅されるなんて話は良く聞くもんね。高いスキルマテリアル買わずに済んでラッキーとでも思っとけば?。ま、直接戦闘力が上がるスキルじゃないかもだけど、無いよかマシでしょ?」


気楽に言うアーネスに、功は呟いた。


「どうなったんだこの世界は・・・俺まで魔改造されちまった・・・」

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