第11話覚悟
とにかく自分はどうしたいのか。
まずは元の世界に帰る。その為の方法を見つける。それまで石に齧りついても生き延びる。
一人で生きて行けるか?と、自問する。
答えは考えるまでも無く出る。
《無理》
この連中について行くしかない。ここは恐ろしい世界。生きて行くには力が必要だ。力とは単純に自分の力と仲間の力、数の力だ。
功は手の中の鱗をじっと見つめる。
《やっぱちょっと抵抗あっけど、背に腹は代えられねぇよな》
諦めて覚悟を決めるしかない。仲間を得るという事は、助けを得られるという事。
それと、同時に自分が仲間の助けにもならねばならない責任が生まれる。
銃を地面に置き、右手の鱗を握りしめる。
この手に有るのは守りのスキル。戦えるかは判らない。だが、盾にはなれるかもしれない。
眼を閉じて鱗が自分の胸に貼りつくのをイメージする。
正しいやり方かどうかは判らない。だが、2回目だからなのか、スムーズに吸収する事が出来た。
サラサラと分解して行く鱗、代わりに身体に染み込んで来る新しい力。身体の中で書き換えられる何か。
《ヘキサシールド》
心に念じる。
レスポンス良く現れる六角形の光が、功の前に展開された。
「無事吸収出来たみたいだな。形も大きさもこれなら申し分ない」
直径60cm程の薄青く透明な障壁。これから功の命を守る切り札になってくれるだろう。
ドクの言葉に軽く頷き、功は輸送車を振り返った。
「アンタ達と行くよ。それしかねぇし」
「だな」
ドクがバンバンと肩を叩き、サラディは嬉しそうに尻尾を振る。
変態2人はマイペースだ。
「朝まで結論かかんなかったな。アーネスに改めてこっちからお願いして来るわ」
言いながら立ち上がる。
「そうして来い。おい、それからそのジャケットと防具類、刃物は置いて行け。もう少しマシに改造しといてやる。ハチェットは刃が潰れてやがるしな」
「すまん。頼む」
ベルトに吊るしていたハチェットと剣鉈を渡し、ジャケットも脱ぐ。嵌めたままだったグローブも外し、代わりにガンベルトを腰に巻きつけた。
短く軽くなったオルトロスを無造作にベルトに挿し、輸送車に向かって歩き出す。
ドアが開けっぱなしの輸送車に顔を突っ込み、アーネスに声を掛けた。
「アーネス、今いいか?」
当のアーネスは手の中の何かを真剣に見つめて、考え事をしているみたいだ。
「いいわよ。なーに?」
「忙しいなら後でいいけど」
「いいわよ、ネットで割りの良い仕事検索してただけだから」
「ネット?」
《この世界にもインターネットが有るのか?》
「ネットよ、功の世界にもあるって聞いたけど?こっちにだってネットくらい有るわよそりゃ」
言いながら手の中ソレをテーブルに投げ出す。
「ソレってもしかしてスマホ?」
「そうよ、珍しい?功のとこじゃどうか知らないけどこっちじゃこれ無しでは生きて行けないの」
そう言えば、あのホラー男も瀕死でありながらもスマホらしき物を握りしめていたような。
「全素粒子携帯端末スマートフォン、略してスマホよ。通話、ネット、アイテムストレージ、通販、各種役所手続き、納税、決済サービス、身分証明。何でもござれの魔法のスマホ」
「マジか?スゲー進んでるな」
驚く功、アウトドア三昧でゲーム等をやった事があまり無い功にはアイテムストレージが何か判らないが、きっと凄い物なのだろう。
「で、何?覚悟決めてついて来る事にした?」
眉根を揉みながら、わざとダルそうに問いかけて来るアーネスに、功は簡潔に応えた。
「ああ」
眉根を揉む手で笑みを隠すアーネス。
「笑ってんの見えてるぞ。策士振りたいみたいだけどあんまり成功してないからな」
あまりの芝居の下手さに、思わず突っ込んでしまった。
「ちょっ!何言ってんの?何言っちゃってくれてんのかしら、サッパリ判んないんだけど!全然何言ってるのか判りませーん!」
物凄く判り易くとぼけるアーネスに、素直に頭を下げる。
「とにかく同行させて欲しい。頼む」
「ま、まぁアンタがそうやってどうしてもって頭下げてまで頼むなら同行させてやらないでもないけど・・・」
《案外判り易い奴だったんだなこいつ》
「あ、これ、賞金首が持ってたスマホ。この世界の必需品だからアンタのにしなさい。生体魔力認証書き換えるからこっち来て」
わざとぶっきら棒な態度で功を手招きすると、ホラー男が持っていたあの黒いスマホを取り出した。
「とにかくそこに座んなさいよ。登録しながら機能と使い方教えてあげるから」
言われた通り席に着く。
アーネスは黒いスマホを功に手渡すと、腰からナイフを抜き、ハンドルを功に向けた。
「これで指先刺して血を一滴スマホのディスプレイに垂らして」
ナイフを受け取った功は、黙って言われた通りにする。
血を垂らし終えると、アーネスはその指先に手を伸ばし触れた。
「我等が素となりし万物の祖よ、内なるマナを高めその形を戻せ。ファーストエイド」
元より大した痛みでも無かったが、完全に疼痛と傷が消える。
「すげっ!」
「何言ってんのよ。さっきのアンタ治すのなんかもっと大変だったんだから、お陰で魔力半分も持ってかれたのよ」
「重ね重ねありがとうゴザイマス・・・」
驚きつつも頭を下げる。
「そうね、一生感謝しなさい。なんせ命の恩人だからね私は。これから私の為に身を粉にして尽くしなさいよ」
「・・・」
アーネスとしては冗談で言っているのかも知れないが、功の方は事実命を助けられた身なので神妙に頷くしかない。
「まぁ、そういう本音は置いといて」
「本音かよ!」
「とにかく話を進めるわよ。さっきから全然進まないからアンタ黙って聞いてなさい。このスマホはさっきも言ったように物凄く多機能な上高性能なの。
ま、これはマナフォンⅣだから大分型落ちだけどね。ちなみに私のはマナフォンⅦ 2.0EX!!最新型なの!これ高かったんだから!何と言ってもカメラが高性能で、超望遠機能付き!おまけに解像度なんて従来の5倍らしいじゃない。何を基準に5倍なのかは知らないけどね!さらにアイテムストレージの容量なんてⅣの4倍以上有るし、音楽アプリでダウンロード出来る曲数なんて50万曲よ!1曲4分だとしても全部聞くのに数年かかっちゃうんだから凄いわよねー!重さも15g軽くなったんだって!15gなんて持った感じわっかんないわよねー。耐水圧だって50気圧よ50気圧。50気圧って水深何m?どんだけか知んないけど誰がそんなとこまで潜んのっつーの!あ、飴ちゃん食べる?」
そこにクールビューティは片鱗すら残っていなかった。
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