第10話装備とスキル

「ちょっと〜、なになになになに〜?男同士で楽しそうじゃな〜い」


功が打ち拉がれている背後から、若い娘の声が聞こえた。


清らかな川のせせらぎか、澄んだ鈴の音のような美しい声だが、喋り方といい、イントネーションといい、まず間違いなくパリピだ。


《パリピはどこの世界にも居る。1人見かけたら20人は居る》


明らかに功の偏見だが、昨今のキャンプブームで、このパリピたちにキャンプ場で散々迷惑をかけられて来た功は身構えずにいられなかった。


他人の迷惑などまるで考えないパリピ達と、一度ならず乱闘になった事すらあるのだ。


「新人君〜、傷治っちゃったの〜?いや〜ん、ちょっと勿体無〜い?もっかい血〜出してみな〜い?」


《ナニヲイッテラッシャルノカワカリマセン!》


軽く飛んで来た非常識発言に功が固まっていると、娘の後ろから、下手な男性アイドル顔負けのイケメンが顔を出した。


「不躾ですまない。姉は傷を負い、弱った男性が好きで、それをカメラで撮影するのが趣味なのだ。けして害意がある訳では無い。少し変わり者なのだ」


真面目そうな背の高い少年だ。眼の焦点が合い過ぎている気がするが、パリピの弟らしいこちらはまだマシか?


「で、すまないが姉の為にもう一度傷を負ってみないか?さっき写メを撮り損じたようなのだ。特に内臓がはみ出るくらいが姉の好みなのだが。そして男同士で楽しむのならば僕も是非交ざりたい」


「いや、お前も相当なモンだな」


訂正。こっちもおかしい。しかも危険な部類の変態だ。


助けを求めるようにドクを見ると、深いため息を吐きながらこの2人の紹介を改めてはじめた。


「こっちの変態姉がエルフのフィー。で、変態弟のガイストだ」


「あら〜変態ですって〜?それ程でもないわよ〜」


「変態とは失敬な。希少性癖と言ってもらおう」


照れる変態と踏ん反り返る変態。


「気にするな功、少ししたら慣れる。と言うか慣れろ。ちょっと、いや、かなり変わった奴らで協調性のかけらも無いが、腕だけはうちのパーティに居るのが不思議なくらいに立つ」


「・・・」


呆れ返る功、言葉の意味を理解する間もない。そんな功をまったく気にせず、自分達のペースを崩さない2人は、仕留めて来た獲物の下処理を始めた。


「姉のフィーはマークスマン。狙撃も出来るアタッカーで、斬り込みもする遠近両用のトリガーハッピーだ。精密なマークスマンズライフルにドラムマガジンてぇシロモン付けてるのはこいつくらいだな。弟のガイストはスナイパーで、大口径対物ライフル使いだ」


姉のフィーは嬉々として獲って来た鳥の羽を毟り、弟のガイストはそんな姉を手伝っている。


「ちなみにサラディはグレネーダー擲弾歩兵で、俺はマシンガンナー分隊支援機関銃手だ」


功にはスナイパーくらいしか判らない。


「功、仲間になれ」


言うなりドクは弄っていたショットガン、オルトロスを功に投げ渡した。


慌てて受け取る功。


「お前さんは近接戦闘に向いているんじゃないかと俺は思っている」


続けて体の後ろから何かを取り出し、それも功に投げ渡す。


ガンベルトに収まった二丁のリボルバー。


「全部あのくたばった賞金首の持ち物だが、クリーニングと出来る限りのカスタムはしておいた。リボルバーはラプター ホーネット 12mmマグナム。オルトロスと同じ旧式だが今も愛好家が現役で使ってる。強力なマグナム弾を発射する暴れ蜂だ」


腕に抱えた三丁の銃を呆然と見つめる功。


「あいつはこれを抜く間も無く後ろからぱっくりとやられたんだろうな」


ドクの言葉に、サラディが不安そうに一瞬後ろを見て、体を震わせる。


「お前さんの戦い方はスキッパーの傷や戦場から分析させて貰った。そんなお前さんの戦闘スタイルにピッタリな装備だ。オルトロスをソウドオフ(銃身切り詰め)にしたのもお前さんの使い勝手を考えてだな」


一拍置き、続ける。


「それからこいつだ」


さらにポケットから何かを引きずり出す。どこか見覚えのあるそれは、多分あの蛇モドキの鱗に違いない。


「マウンテン ロック スキッパーの額の鱗だ。お前さんは種族的にスキル適正が高いはずだから、こいつのスキルが吸収出来るかもしれん。やってみろ」


手の平程の六角形の鱗を渡される。


正直訳の判らない力を吸収するとか気持ち悪い。ペネトレートは訳も分からず緊急避難的に吸収したが、落ち着いて考えられる今では躊躇われた。

副作用とか心配してしまう。


しかし、本当に異世界に転移したであろう現状、生き残るには力が必要だ。


「こいつを吸収すると、どんなスキルが身につくんだ?」


生唾を飲みながらドクに訊ねる。


「ヘキサシールド、身体の前に六角形の障壁が出現して任意の対象を守る。大きさや出現する枚数、強度や出現範囲は使用者の練度と全素濃度に比例する」


《あぁ、アレか》


功には心当たりが有った。あの時、至近距離で放った弾は確かに空中に浮かんだ六角形の障壁に弾かれていた。


「珍しいスキルじゃ無いが、有ると無いとでは大違いだ。サラディも似たスキル、デルタシールドを持っている」


大人しい狼男を見ると、ペコリと頭を下げられた。つられて功もお辞儀を返す。


「俺が吸収しちゃっていいの?」


「お前さんがぶっ倒したんだから当然お前さんのモンだろ」


「ドクは持ってないの?」


功の問いにドクは肩を竦めた。


「俺には戦闘スキル適正が無い。俺は錬金術師だからな」


言葉を切り、また話し出した。


「ついでだから話しておこう。スキルの適正は個人によっても種族によっても違う。例えばエルフならば射程や剣身延長のスキル、エクステンションはほぼ誰でも吸収出来る」


エルフの話になったので当のエルフ2人を見ると、ガイストは軽く頷き、フィーはニッコリと血塗れの手を振って見せた。


「あと、魔法のスキルも得意よ〜。特に私は呪い系のデバフがだ〜い好き〜。私の〜魔法で〜のたうち回る姿を見てると〜濡れちゃうの〜💕」


《よし、こいつには近寄らないでおこう》


功が心に誓った瞬間だった。


「僕はCQCは苦手だ。遠くから獲物をいたぶるのがいい。あの感覚は何回やっても快感だ。勿論いたぶられるのはもっと好きだ」


《お巡りさん!この人ですっ!!》


「と言うのがエルフの種族特性と奴ら特有の変態属性だ。そうドン引きするな。獣人種は種族にもよるが体術スキルや範囲攻撃スキルを得意とする」


サラディが恥ずかしそうに頭を掻く。


「ドワーフはこういうのが苦手でな、そのかわりスキルなんぞ無くても身体は頑強。そして物造りスキル、錬金術のスキルが高い。何事も例外は勿論有るが。そしてお前さん達ヒューマン種は万能種族だが、小さくまとまって飛び抜けたものが無い。器用貧乏だな。だがオールラウンダーでもある」


「そしてスキルは個人によって、吸収出来るものと出来ないものがある。これが適正だ」


ガイストが肉を切り分けながら補足する。変態だが悪い奴ではないらしい。


「スキルの吸収にはスキルマテリアルと呼ばれるアイテムが必要な場合と、自分の特性から生える場合とある。その鱗もスキルマテリアルだな。僕達エルフは高等種族だから下等種の君達と違って最初から持っている場合が多い」


《訂正、やっぱり嫌な変態だ》


「後もう一つは、既に持っているスキルから派生して生えて来る場合だな。これは練度に依るところが大きい。つまり努力の賜物って奴だ。チートでは辿り着けない領域だ」


ドクが気にもせずに締める。こうしたやり取りは日常茶飯事なのだろう。


《情報が多過ぎる》


一旦1人になりたいが、そんな雰囲気でも無いようだ。

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