第9話 失敗作をいただく。
カンパネッロたちがダンジョンに潜り始めて数日が経った。
その間にいろいろなものが手に入ったのでカンパネッロはスキルの習熟もかねてアイテムの【練製】を行っていた。
中でも出来が良かったのは「シュッシュ」だった。
女の子が髪をまとめたり手首に通していたりするアノ「シュッシュ」である。
材料はスライムの粘液をはじめ拠点近くで取れた薬草で作ったゴム状のものに、御飯用に狩った獣から剥ぎ取った毛皮でモフモフにしてある。
そして特別なのが、ダンジョンの攻略中にドロップした鈴が縫い付けられているところだ。
この鈴はビー玉くらいの大きさなのだが、振っても音が出ない鈴なのだ。
この鈴の特別なところは装備者が奇襲なり不意打ちなりを受けそうになると音を立てるところにある。
これが地味に役立つ上に珍しい物らしい。
手に入ったのは一つだけだが、カンパネッロが倒した敵からドロップしたものなので、っと皆に譲られた。
その鈴を自作の装飾品に組み込んで作った「シュッシュ」は【蟲の調べ】と名付けてカンパネッロが装備している。
そのほかの装備も新しい素材で手入れをしているが大きく変わったところはない。
毛皮のシャツとスカート、黒いタイツに毛皮が施された木製のブーツ。
ブーツに関しては見た目には違いがないが、底やつま先なんかがダンジョンで手に入った鉱石で補強されている。
ブレスプレートや左手の籠手も見た目には変化がないが補強はされている。
そして、クマの尾頭付きのマントも少し軽く丈夫になった。
代り映えが無いように見えるが、おしゃれに目覚めたばかりのカンパネッロは昨夜完成させた【蟲の調べ】でもって、赤みを帯びた長い髪の毛をまとめてポニーテールにしていた。
と、小さなオシャレに気分良くしているカンパネッロさんでありますが、現在、今までの魔物より明らかに強いと分かるゴーレムを相手に一撃必殺をかましていた。
「この程度の強さなら質より量で来てくれた方が俺達の出番があって助かるな。」
「……ッスね。」
「…そんなことより、カンパネッロさんの髪型が変わったことで新たなトキメキを感じる私。」
「そんなことよりも、ゴーレムがいい素材を落としているので皆さん回収しましょう。」
みんなでドロップアイテムを回収し終えたところで、外で待機している十六夜から魔法の通信があった。
「みんなお疲れ様。」
「正直疲れる要素が無かったんだが。」
「それじゃぁ、姉御、お疲れ様です。」
「俺の方も余裕だぜ。」
「…………………。」
「…多分気にした方が負けるよ。」
「うん、分かるよ。とりあえずみんないいかい。」
とりあえずでみんなは周りの安全確認を行ってから十六夜の話に集中する姿勢をとる。
「マッピングをしてた僕の見解だけど、ダンジョンの中枢がその奥だよ。」
「嬢ちゃんがあっさり倒しちゃったけど門番がいたしな。」
「後ろにあからさまな扉があるッス。」
「これで間違いはないよ。ここはダンジョンマスターの居る管理されたダンジョンだよ。」
「それではリーダー、ここからどうしますか。」
「もう本当に嬢ちゃんに代わってもらってもいいんだよ。」
「ソレは少なくともここを攻略するまでは無いよ。」
「さよか。ならば俺はここの調査をこのまま続行しようと思う。敵が知性あるものだとすれば嬢ちゃんの強さはかなり予想外だろう。だからできるだけ奇襲をかけたいと思う。いいか。」
タイケンの言葉にヤリオ、カウンター、サリ―が頷いたので、カンパネッロも黙って頷く。
「僕としてはもしも交信ができなくなるようなら一度戻ってきてほしいけどね。反対はしないよ。」
「それじゃぁ最深部行ってみますか。」
■■■
いき込んで突入した扉の向こうは今までの洞窟然とした雰囲気とは異なり、明らかに人の手が加わっているのが分かった。
円形上の広場。
壁には格子がハマった牢。
何よりここには瘴気と呼べるものが満ちていた。
「ここの主は実力は知らんが性格がねじ曲がってるのは確かだな。」
タイケンが檻の一つを覗き込んでそうつぶやっくので、カンパネッロも一緒に覗き込んだ。
そこで見てしまった。ここの主がおぞましい者である事実を。
「なんだよこの肉塊は、気持ちわりぃなぁ。」
「―――フンッ!」
がつんっ!
「どうした!。」
「ケツが、嬢ちゃん蹴られたケツが割れるぅ~。」
「まぁ、タイケンが分からないのは仕方ないんだけど、それでもその物言いは彼女にひどすぎる。」
「―――ッァ、か…彼女だって。――――ッ!まさか、これが。」
「実はみんなに内緒にしてたスキルがあってね、【アナライズ】ってやつ。」
それは神クエストで得た徳ポイントの交換で勢いで習得したスキルだった。
「意外と便利でね、敵やアイテムの情報を知ることができるスキルなんだよ。」
カンパネッロは語りながらも他の折も見て回る。
「はぁー。人間なのはこの子だけで他のはみんなは魔物だな。」
「まさか―――、この肉塊が人間だってのか。」
「他の魔物も材料に人間が使われている可能性はあるけどな。」
タイケンだけでなく他のみんなの顔も青ざめている。
ただのモンスター退治、実際これまではただのモンスター退治だった。そう思っていたものがここにっきて信じたくない事実が出てきてしまった。
何より自らの目の前でうごめいている岩と肉塊が混ざり合ったものが人間だと認め切れていない。
「体はめちゃくちゃだけども心も魂も間違いなく人間だ。」
「そんなのヒドイッス。」
「―――嬢ちゃん何する気だよ。」
カンパネッロは鉄格子を掴むと力づくでこじ開けて牢の中に入る。
「人間の体にゴーレムを埋め込んだ上にキメラ化させようとしたのか、――――くそっ、節操のない。」
「まさか、それ助けられるのか。」
「保障なんて無いよ。それでも助けたいと思っちゃった以上はできることをしたいんだ。」
日本で育っていろんな漫画を見てきた。そこに描かれていたヒーロー、彼らにあこがれていたのはカズマも同じであった。
これはカズマの独りよがりかもしれない愚かな行為かもしれないけど、手を差し伸べずにはいられないのだ。
「ダイジョーブだよ~。ワタシもおんなじ気もちだから。だから二人で救おうよ。」
「あぁ、ネッロの知識は頼りにさせてもらうぜ。」
まずは基礎となる人の体の構築だった。
膨れ上がった肉塊から【錬製】のスキルで人の要素を絞り出してそたいをつくりだす。
その際に肉塊から悲鳴のごとき騒音が響く。
カンパネッロは自分たちのやっていることは彼女を苦しめるだけで、実際は一思いに情けをかけてやるのが正解なのかもしれない。
そう思えてしまうところでも、カズマはカンパネッロの励ましを受けて作業を続ける。
人体とその他の切り離しを試みるが、人体の一部はゴーレムと完全に融合してしまっていてもはや別物と言っていい状態だった。
また、ゴーレムの上から元が何だったかさえ分からない魔物の因子が植え付けられている。
分かりやすく言うと、この娘は人体とゴーレムと
その事実からこの子を解き放つことはもはや、この子を殺すこと以外なないだろう。
でも。
それでも。
――――、なんでだろうな、この娘が生きようと抗っているのが分かってしまう。
ならば助けようとするだろう。
カズマだって男の子なのだ。今は体が女の子だけど心は男の子なんだから、生きたいと、助けを求めているのを感じてしまったら助けずにはいられなかった。
カズマはラノベの主人公のようにヒーローになりたいのだ。
だからカンパネッロは、【錬製】のスキルの可能性を信じて手を尽くしてみたのだ。
もはや切り離せないほどこの子の存在がめちゃくちゃになっているなら、めちゃくちゃじゃないように彼女を人間たる形へと作り上げて見せる。
今までの遊び半分のスキルの使用とは違う。
本気のスキルは文字どうり輝いていた。
光の奔流に飲まれてカンパネッロ自身が自分の形を見失うぐらいに、助けたい娘の体を作り上げることに意識を集中していく。
骨格を、血管に神経を、筋肉を。
一から作り直す際にこの娘の自然な在り方を崩さないように、融合したゴーレムの要素を無理なく組み込んでいく。
おまけで付いているようなキメラの要素は人間よりもゴーレムの部分を中心に安定させていく。
いったいどれくらいの時間だったのだろうか。
カンパネッロが荒い息をつきながらスキルの機能を止めて目を開いたのは、この子を助けると手を差し伸べてからどれくらいの時間がっ経っていたのだろうか。
カンパネッロが息を整えてからゆっくりと目を開く。
目の前にはもう醜い肉塊はなく。
カンパネッロより頭一つ分背の低い褐色の肌をした少女が立っていた。
体のところどころにゴーレムを思わせる岩塊が見て取れる。
少女は目をぱちくりとさせた後、肘から先の岩塊でできている自分の手を眺めて、ぐっぱぐっぱ、っとしたかと思うと、突然その手が一回り大きくなったあと、縮んでいき普通の人らしい手になっていった。
そのあと自分の体を確かめるためにその場でターンしてみる。
その際にカンパネッロよりも大きいオッパイがプルンっと揺れる。
少女は一糸纏わね姿だった為、ここで女性二人から無言で睨まれた男達はだまって目をそらした。
ターンした少女の背中には蝙蝠とトカゲのしっぽが生えていた。っと言ったら女の子的には可愛くないのでドラゴンの尻尾と羽が生えていたとしておく。
ターンを終えて自分の体の調子を確かめた少女は無言でうなずく。
カンパネッロはイベントリから前につかっていたローブをまず少女に被らせた。
少女の髪は濃い赤色で側頭部からねじれた角が生えていたので襟の部分がうまく通らなくって少し破いた。
瞳も髪や肌と同じ灼瞳でクリックリの目で見つめられると保護欲をかきたてられた。
「体痛くない。声は出る?」
「――――っぁ、――――ぁぅ。」
カンパネッロの言葉に答えようとするものの声はまだうまく出せないようだ。
「うん、大丈夫。焦らないでゆっくり行こう。」
「とりあえず一旦拠点に戻ろうか。」
「ん、んん~。せっかくいらしたのにもうお帰りですか~。」
突然響いた声は仲間のものではなかった。
皆が声の出所に視線を向けるとそこには黒いローブを纏ったやせぎすの、おちょぼ口の男が立っていた。
カンパネッロは一目見ただけでこの男に生理的嫌悪感を感じた。
はっきり言ってキモかった。
正直声を掛けたくなかったのだが。
「……お前が、このダンジョンの主か。」
警戒して武器を構えるタイケン達を代表して質問する。
「ハイ。」
高い声がいちいち癇に障る男だった。
「ならば、ここにいる魔物やこの子をおもちゃにしたのも―――。」
「おもちゃなんてひどぉい。すべては真人に至るための大切な実験体なのですよぉ。」
「そうかよ下衆野郎。俺達の要件は分かっているよなぁ!」
「下衆野郎とはひどいですね。貴方に比べれば三流と言われる程度の成果しかお見せしていませんが、それとは別にワタシ女の子なのですよ。」
「――――よし。こいつ殺そう。」
「そぉ~んなことより、貴方、そこのエルフの貴方は真人を生み出すことに興味はありませんか。あればワタシがジオング教団に紹介しますよぉ~。」
「……タイケン、前言撤回だ。適度にボコって生け捕りにするぞ。」
「それ、嬢ちゃんにできるの。」
「……任せた!」
「しかしこいつってバカだよねぇ。」
「ド三流でバカで変態ぽいとか、色々俺には無理っぽい。」
「変態にだって人権はあると思うよ。」
「人権は有っても好感度があるとは限らない。」
「じゃぁアタシは?」
「…まぁ、嫌いじゃないけど。」
「カズマって素直じゃないでしょう。」
「すまねぇ嬢ちゃん、これはちょっと無理だ。」
「ハハハハハハハ、舐めないでもらいたいでぇすねぇ。ワタシはともかくワタシの作品はとっても強いのですよぉ。」
見ればどこから出て来たのかダンジョンマスターとタイケン達の間に5メートルはある。
「…ギリメカラ?」
単眼の像の頭をした巨人だった。
浅黒い肌でメタボ体形の巨人は巨大な拳でもってタイケン達を殴ろうとしていた。
カンパネッロはとっさに飛び出して大剣を叩き込んで受け止めようとした。
「そんなまさか、嬢ちゃんの攻撃で傷一つ付かないなんて。」
「姉御!」
「ギャァハハハハハハハ。ワタシの最高傑作だぞ。そんなちんけなナリでどうにかなるモノではない。」
拳を受け止めた時地面が砕けたがカンパネッロの体は無事である。
それよりも大剣のほうが問題だった。
「にゅあああぁぁぁぁぁぁぁぁ、痛い、痛い、痛い。全身がギシギシ言ってるぅぅぅ。」
「ネッロが大丈夫じゃなさそうだな。」
「コレダメ!ワタシ壊れちゃうぅぅぅぅぅぅぅ!」
「やっぱり
「ヒヒヒ、お嬢ちゃんは半殺しで許してあげます。手足がなくなっても私が新しいのを作ってあげますからねぇ。でも他の奴らはいらねぇ。ぶっ潰してしまいなぁあ!」
「【レット・ドーロ】。」
ドッッッグッッッシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!
「はい?」
肉片と血しぶきが降り注ぐ中、拳にハルバートの一撃を受けて、拳のみならず二の腕から肘、肩に至るまで爆散された巨人が倒れていく。
その様をただ呆けてみているしかなかったダンジョンマスターの目の前で、高く飛び上がったカンパネッロがハルバートを振りかぶる。
「うっっっそっっっおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんんんん!」
巨体を誇ったギリメカラ?をぶった切ったカンパネッロは降り注ぐ血飛沫をバックにハルバートを肩にかついで決め顔で仲間たちに笑いかけた。
「やっぱ大剣はいまいちだったわ。
そういうカンパネッロはこの時【戦斧の心得】【大斬撃】そして、【魔力付与】のスキルを使っていた。
通常、魔物を倒すには魔物の持つ魔力の被膜を破る必要がある。
これに最も有効なのが攻撃魔法だ。
多量の魔力を込めた攻撃魔法で魔力の被膜を破ってそのまま魔物の肉体を破壊するのだ。
だが、魔法使いは冒険者の中では数が限られているため、多くの冒険者は武器に魔石を仕込んでいる。
魔石は『異界型』の魔物を倒したときに手に入るのが最も多く出回っているが、たまに鉱山や年経た樹木からも採取される。
魔石の埋め込まれた武器は魔力の被膜に衝撃を与えることができる。
それでも魔石の質によっては魔物に有効打が与えられないこともある。
それをカンパネッロは、中の人も含めて知らずに魔物と化した3つ首イノシシに出会ってしまっていたのである。
本来ならカンパネッロが魔法を使えたのだから対処することもできなくはなかった。
だが、カズマになったカンパネッロは魔法を使うための十分な知識がなく、武器にも魔石が仕込まれていなかったため有効打を与えられなった。
それを、カズマはカンパネッロとの会話の中での思い付きで、武器に自身の魔力を纏わせることを試してみたのであった。
本来うまくいくはずのない戦術だったのだが、実践の中での集中力がこれを可能として、スキル【魔力付与】が完成した。
3つ首イノシシと戦った時はまだ慣れていなかったものの、魔法の触媒では上級にあるミスリルの効果もあり形になっていたが、その後の実戦では自作の大剣を使用していた。
こちらでは【魔力付与】の効果をうまく発揮できない出来にもかかわらずに今まで戦ってきたので、【魔力付与】の習熟度だけが上がり続けていた。
コンソールのスキル欄で確認すれば【魔力付与Ⅰ】から【魔力付与Ⅳ】になっている。
そして、これまでの戦闘経験値と【貢ぐ】してきたものによって
その結果、久々のミスリルハルバートの威力は以前より段違いに跳ね上がっていたのだった。
「う、うぅわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」
「…逃がさない。【アイヴィヴァインド】。」
切り札である巨人があっさり倒されたことで恐慌状態になったダンジョンマスターを捕える。
「…ジオング教団の情報源ゲット。」
「みんな聞こえる。」
そこに十六夜からの通信が聞こえてきた。
「そいつの胸からダンジョンと同じ魔力が出ているから、ダンジョンコアは身に付けているか、そいつじし―――――――ッ!」
リッリーーーン!
と切れ味のある音で【蟲の調べ】が危険を知らせてきた。
とっさにカンパネッロが音のした方を警戒しながら振り返ると、すれ違うように一条の黒い雷が走り抜けていった。
「ぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
黒い雷は真っすぐにダンジョンマスターに突き刺さり彼(彼女?)を一瞬にして焼き尽くしてしまった。
「みんな逃げろ。」
カンパネッロは今までにない危機感から皆にそう伝えた。
それから『敵』の姿をとらえて、これにげられんの?なんて思ってしまった。
『敵』の姿はミイラだった。
それもエジプトのマミーみたいなやつでなく、日本の即身仏みたいなミイラだった。
そのミイラが直立して立っていた。
いつの間にか、何処からともなく現れたのだ。
ミイラはあるのかどうかわからない目でカンパネッロたちを見つめているみたいだった。
「カズマ、カズマ。聞こえているか。聞こえていたら君の不幸を呪うがいい。」
「地蔵菩薩!」
「ハハハ、君のいい友人だった地蔵菩薩である。が、冗談向きで君の不幸は呪った方がいい。」
「どうゆうことだよ。」
「フム、
「すっげー初耳。」
「まぁそんな『代理戦争』のルールを無視する『敵』もいるわけだ。」
「こいつがソレか。」
「そんなものに早々にであったお主の不幸は例えるなら、「メガテン」でいきなり魔人に遭遇するようなものだ。」
「なんかアドバイスはないのか。」
「がんばれ。死んでも生き返らせてやるから。」
「期待した俺がバカっだった。」
「俺が時間を稼ぐから皆には逃げてほしかったんだけどな。」
「時間稼ぎには俺等もいた方がいいだろう。」
「ッスよ。」
「守りは任せてほしいですな。」
「…私も。」
「………サリー、俺の仲間になりたいって言ったとき、何でも言うこと聞くって言ったよな。」
「…え。」
「命令だ。あの子を逃がせ。折角助けた命を無駄にするな。サリーに任せたからな。」
「…分かりました。」
サリーが先ほど助けた少女を抱きかかえて逃げていくのを後ろ目に確認する。
「……何もしてこないッスね。」
「ただの口封じに来ただけで俺達には用はない。だったら良いんだけど。」
「そうはいかないみたいだぜ。」
ミイラはたぶん攻撃の意思を示しているのだろう。
先ほどの黒い稲妻は使ってこないのだが、――――――何故か鶴の構えをしていた。
「表情が無いから余計に不気味だな。」
「即身仏が鶴の構えって――――シュールすぎる。」
と、気を抜いたところで。
「来るッス。」
「まずはワシが止めます!」
ズッギャアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァンンンンン!
ミイラが振るった足の一蹴りで、カウンターの胴体が盾ごと、紙切れの様に引き裂かれていた。
内臓と血しぶきがまき散らされるその光景にカンパネッロが視線を奪われている中、――――タイケンとヤリオはカウンターの左右から挟み込むようにミイラに攻撃を仕掛ける。
ドッギュオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォンンンン!
鶴の頭のような構えから打ち出された二つの手刀はタイケンとヤリオの心臓を貫いていた。
「ハ…はは、――――なに…コレ。」
もはや笑うしかなかったカンパネッロの頭には、「何処の北斗の聖矢の奇妙な冒険白書?」と混乱するしかなかった。
そして――――――、
■■■
「新魂さん、イラッシャァーイ!」
「…………………。」
「どうしたどうした、反応がないぞ。そうかお主、何もできずにやられてしまったことに落ち込んでるのだな。」
「…………………。」
「ならばこの地蔵菩薩様が慰めてやろう。」
「……いいから、そうゆうの。」
「なんじゃい、もしかして一回死んだだけでくそげー認定ですか。お主はダクソやニオウやったことないヘタレなぬるま湯プレイヤーですか?」
「そんなんじゃねぇって言ってるだろうが。」
「じゃぁ何を落ち込んどるんじゃ。今まで自分が一方的に殺す側だったのに殺されたのがショックだったのか。大丈夫ちゃんと生き変えさせるから。」
「その生き返る中にタイケン達は?」
「入っとらんの。お主たち、向井 一馬と、今回は死んでおらんがカンパネッロの2人にとっては―――。」
「えっ、カンパネッロは死んでないのか。」
「無傷でぴんぴんしておるよ。お主が抵抗すらせんかったからな。あと、あの「敵」はどっかに消えたから逃げた二人も無事だ。」
「あっ――あぁ、そうか、よかった。」
「少しは元気が出たところで言わしてもらうぞ。」
「死んだ他の仲間は元からこの世界の住人だ。だからお主みたいに死後の世界扱いで生き変えさせられん。吾輩がやつらの魂にしてやれるのは迷わないように導くだけだ。」
「うん、そんなことだろうってことに皆が死ぬまで気が付かなかったことが、自分が死んでも大丈夫だってことに調子乗ってたのが、…すっごくバカだなぁって思えちゃって。」
「それで落ち込んどったのか。まぁ、死んでバカの一つは治ったことだろ。お主には死んでも終わらん役割がある。いつかはあの「敵」を倒してもらうことになるかもしれん。それまでに強くなれ。」
「石積ッション、一つ積んでは母の為、二つ積んでは父の為、三つ積んではタイケン達の為ってか…。」
「そうと分かればさっさと生き返ってやることをやれ。ハイ、ボッシュート。」
「へっ?」
そうかと思えばカズマの足元で地面に穴が開いたかのように。
「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――
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