第6話 初夜、そして朝―――
「ふっふうふ、ふーん。ふっふうふ、ふーん。」
「ぶうぶぶー、ぶー、ぶー、ぶうぶうーぶー。」
宴会もお開きとなり、カンパネッロは宿の部屋へと戻ってきていた。
鼻歌を歌うカンパネッロ(体)とぶぅぶぅ鳴くカンパネッロ(心)、もとい、鼻歌を歌うカズマとぶー垂れるカンパネッロである。
自分しかいない部屋の中で今日の成果を確認しているカズマと、部屋に自分しかいないことにぶー垂れるカンパネッロ。
何故こうなったかと言うと、―――この宿屋の隣の部屋が空いていたからである。
つまり、酔っぱらったサリーはカンパネッロの手によってそちらの部屋でお休みなのである。
それがカンパネッロにはいたくご不満なのである。
ややこしいでしょうが、
「酔った女の子にいたずらしたかったぁ。」
「俺がやらせねぇよぉ。てか、それで捕まるのは俺なんだよ。」
一連托生、一網打尽、である。
「小鳥がさえずる中、朝日が差し込む部屋で目覚めた彼女に添い寝しながら「やぁおはよう。」って語りたかったのに。」
「………地蔵菩薩に添い寝されてた俺に、それ言う。」
「あぁ~、あったねぇ~そんなこと。」
「つい今朝のことですよ。すでにトラウマだよ。」
木綿のへそ上シャツに木綿のパンツルックでベットに胡坐をかいているカンパネッロはバンバンとベットを叩く。
ちなみにカンパネッロが今着ている物はお風呂前に購入したものだ。
今朝着ていたものはカズマの趣味に合わなかった。
だから部屋着をこれにしたが、そもそもあれはカンパネッロが行きずりで助けたヤツからの貰いもんらしい。
とのことでその下着はいらないので【貢ぐ】しておいた。
そしたらパンツとキャミソールが武器になった。
いらないので保存はしない。ってか適当なもので上書きしたいところだ。
ちなみに、複数の武器を保存していたらそれぞれに名前を付けておいて、取り出すときにその名前を呼べば切り替えられるそうだ。
「そんなことよりぃー、サリーちゃんと同じ部屋が良かった。」
「俺のトラウマをそんなことと言わないでくれ、そんなことより。」
「ワタシのだってそんなこと扱いじゃないかぁ。……まぁいいけど、で、なにがどしたよ。」
「今日の成果だよ。で、まずはお金だが。」
イノシシ10頭の討伐にウォッシュ銀貨1枚、あの3つ首のイノシシで素金貨2枚だ。
「これで宿屋の代金などを支払ったら――。」
宿屋の代金(サリーは酔い潰れていたのでカンパネッロが立て替えた。)やカンパネッロが今着ている服を買う金を差し引いたら。
「素金貨が1枚とウォッシュ銀貨が3枚と、同じくウォッシュ銅貨が5枚になった。」
ウォッシュと言うのはここアーランド王国で生産されている貨幣である。
貨幣とはその材質により価値が変動するが、それだけでなく生産国の価値によっても変動するものである。
詳しい話はかなりややこしいが、【商業ギルド】を内包しているギルド協会はそこら辺の為替とか何かにも対応しているので便利である。
「お金を預けたり両替をしてくれたりと銀行みたいなことやっといて、権力にくみしないとか。…完全っに経済を握ってんじゃん。」
まぁ、それはおいといて、銅貨は500円玉くらいの大きさ、銀貨が100円玉くらい、素金貨は1円玉くらいの大きさだったけど、銅貨<銀貨<金貨なのは間違いないようである。
ウォッシュはWと略すらしいが、W銅貨10枚でW銀貨1枚に相当、W銀貨10枚で素金貨1枚に換算されるらしい。
ちなみに、今朝食べた朝食がラーメン+チャーハン+餃子のランチくらいのボリュームだった。
それを3人前食べてW銅貨3枚だったのだから、W銅貨1枚で1000円くらいと見ていいだろう。
そう考えるとイノシシ10頭でW銀貨1枚、つまり1万円は安くないか?と思うだろうが、肉や毛皮などの持ち帰った素材は冒険者が好きに換金できるのだから割は悪くないのだろう。
てか、3つ首のイノシシを狩ったことだけで素金貨2枚、20万円相当なのが驚きである。
―――だが、あんなモノが街にやって来て暴れでもして被害が出たりしたらと考えたら、20万ぐらいでは安いほうなのだろうか。
「ちなみにネッロは今までお金の管理はどうしてたんだ。」
「ぅん、てきとー。」
どうやら話す意味もないようだ。
お金に関しては基本的にギルド協会に任せてその街で必要になりそうな分をその都度引き出そうと決めた。
お金のことが決まったらそれ以外の成果である。
イノシシの肉などはみんな協会に引き渡して救援費用に充てたので今回は無い。
それ以外だと、戦闘経験である。
今日倒したものによる経験値でレベルが上がっていた。
◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□
カンパネッロ
Lv,3 HP130/130 MP115/115
[STA 63 [VIT 42]
[AGI 33] [DEX 36]
[MAG 43]
◆□◆□◆□◆□◆□◆□◆□
このレベルの上昇がどれだけ実益をもたらすのかは分からない。
それとは別に獲得したスキルがあった。
今回のクエスト以前にも言語関係のスキルは習得していたが、それ以外には何もなかった。
魔法スキルに関してもなかったはずなのに、森で用を足したときに水魔法が使えていた。
けど、今コンソールを見てみても、【水魔法】はおろか【初級魔法】も存在していない。
「どうやらネッロがもともと持っていた能力はそのまま引き継がれてはいるが、スキルとして明記はされてないみたいだな。」
「うぅ~ん、そうゆうの教えられたらいいんだけどねぇ、ワタシは普段スキルとか知ることができないし、知ろうともしなかったからねぇ。」
「ってことは、元からこの世界にはスキルがあったんだよな。」
「レヴェルとかステータスなんてのは無かったけどスキルはある事は有ったよ。」
カズマがカンパネッロの体で使用したスキルは心の中でスキル名を叫べば効果が出てきた。
それはカズマが獲得したスキルも、カンパネッロがもともと持っていたスキルも同じだった。
だが、使用はできたがカズマのコンソールではカンパネッロ自身のスキルを確認することができなかった。
「そもそもぉスキルを確認するスキルを持っている人なんて、ワタシは聞いたことがないけど~。」
「まぁ、そこら辺のことはいろいろ試していくことにするか。―――しかし、魔法に関しては困ったものだな。」
魔法はスキルと違って実際に呪文を口にしなければならない。
そこで昼に試してみたのだが。
「水を出したり火を出したりと一通りはできたのに、攻撃に使えそうな呪文は全く機能しなかったな。」
もともとカンパネッロが使えていた魔法もカズマとして呪文を唱えては発動しなかったのである。
「それはたぶん~、カズマが魔法を正しく理解できてないからだと思うなぁ。」
「つまるところ、魔法も新しいスキルと一緒に俺の努力次第だと。いいねぇ、面白いじゃん。」
カズマは日本にいた頃から、仕事にしても、遊びにしても、与えられたことをこなすだけより、自分自身で工夫をして新しいものを作り出すのが好きだった。
実際に社畜として食品工場で働いていても、将来は自分のラーメン屋を作るのが夢だったのだから。
「そういえばあのイノシシを使ったスープ美味かったなぁ。」
今日獲得したスキルとカンパネッロが持っていたらしいスキルを使って、何か新しいスキルを作れないかと考える。
「いやぁ~、体の感覚や味覚なんかがリンクしてくれて助かるよぉ~。
でさ、ものは試しにオナニーしてみ――――
「しません。」
「なんでさぁ、けち、けち、けちぃ~。オナニーとかサリーちゃんに夜這いとかしろよぉ~。」
「………ネッロさん、アンタ……そっちの趣味の人。」
「イエス。ワタシ両刀デス。けど、勘違いしないでよね。ワタシが好きなのは――――美少女と美少年と渋いおじ様だけなんだからね。」
「雑食じゃないんだからね。」と言い張るカンパネッロに、自分の倫理観と改めて向き合うカズマだった。
「これからの性活にはじっくりと時間をかけて話し合うとしても、今は神クエストの確認を先にしよう。」
あまりツッコミたくない性の話題ではあるが、ソレもこれもカズマが男の子であるからである。
一度手を出したらたぶん止まりそうにない自分なので、理性を総動員して我慢している。
「それならこっちでも確認ができたからしといたよぉ。【仕事をこなそう】【友達を作ろう】【魔力Cランク以上の魔物を1体討伐】がクリヤーされて4ポイント加算されてた。」
何か『脱・引きこもり』、のミッションみたいなのがあるが最初はこんなものなのだろう。
「これで合わせて5ポイントになる。これで何と交換するかだが。」
ポイント交換の対象を見てみると、
「メインの【神クエスト提示数追加】が1ポイントだし、まずはこれ取っておくか。」
カンパネッロの「いいとも~。」の声を聴きながらポイント使用の確定を押す。
「ネッロ、そう言うのって地蔵菩薩がくれたガイドブックに載ってたのか?」
「うん、そだよ~。いや~今の日本て色々面白可笑しいことになってんだね~。できれば行ってみたいよ。」
このカンパネッロなら日本の特定の文化にすごくなじむだろう。
むしろ、地蔵菩薩のガイドブックはそっちに偏っている気がして仕方がない。
いっそ、エロマンガのような展開にしても罰は当たらないんじゃないかと、そう思うカズマであった。
「おっ?このスキル良いな。3ポイント掛かるがどうしようか。」
メインを習得したことでサブの項目が増えた、ので、一度確認をしておくことにした。
「残り4ポイント、メインだけじゃつまらないしサブに突っ込むことを提案するぜ。」
「ネッロは本当に男らしいよな。で、そうするにしてもどれにしよう…か………。」
それはさりげなく交換対象に入っていた。
「―――――っ、か…簡……易……トイレ……だ…と―――っ。」
震える指で【簡易トイレ】のアイコンをクリックしてみると、『一定時間、周囲から見えなくするフィールドを形成、並びに便器の形成。(設備の追加可能。)』と、説明があった。
「
カズマは嬉しさのあまりに涙を流して喜んだ。――――ゆえに気づいていなかった。
見捨てていないということは、―――ばっちりと見られていたという事実を。
「え?トイレにするの。―――あっ、ホントに取った。」
「トイレを取らずして、何を取るというのかね。」
「いや、それならさっきのスキル、3ポイントするけどめっちゃいいやつじゃん。」
「じゃぁそれもゲット、これでポイントは無くなりました。」
「カズマも適当じゃないか。」
「いやいや、コレでもちゃんと考えていることがあるんだから。」
「ホントかいね。」
「明日、討伐に行く相談をする際に、準備に1日貰って試しておきたいことがあるんだよ。」
「今からしないのか?」
「いろいろ買い足したいものがあるから今日はしないよ。」
「じゃぁ、今日中にやっておくことは終わったのか。」
「あぁ、だから今夜はもう―――――
「夜這いだな!」
「行かねぇよ!」
「ならばオナニーで―――
「イカネェっよ!今夜はもう寝るんだよ。」
「1人寝の寂しさに火照る身体を慰めてほしいな。」
「…俺たちはもう1人じゃないだろ。2人で1人、1人で2人。それが初日からこんなんでどうするよ。」
「むしろ初日だからこそだろ。初夜だぞ。エロい事するところだぞ。」
「そう言うのはお互いの体が元に戻ってからにしようぜ。」
「その時はその時で、今は今しかできないプレイがあるんだから。」
「…俺、ネッロがエルフとドワーフのハーフじゃなくて、エロフとオークのハーフなんじゃないかと思えてきた。」
「ハハハ、ナイない。エロフ×オークだと生まれてくるのはエルフかオークでハーフなんか生まれないよ。」
「他の種族の組み合わせでハーフとか混血っていないのか。」
「どの種族でも異種姦で生まれてくるのは――――
「言い方ー。」
「どっちかの種族に限られていて性質が混ざるってことは無いよ。―――っぁ、いや、ドラゴンと人間だけは前例があるか。」
「ん?ハーフエルフってのがあるんじゃないのか。」
「アレはエルフが純血主義過ぎて、差別と迫害が他の種族迄伝わっただけだよ。」
「ファンタジーにエルフの闇を見た。って、冗談は置いといて、ならばやっぱりエルフとドワーフのハーフって。」
「ワタシ以外には前例がないね。まさに奇跡。」
「奇跡の生命体『カンパネッロ』。…おあとが宜しいのでこれにておやすみなさい。」
「あっ、ズルい。――――まったく、「おやすみなさい。」これ言うの久しぶりだなぁ。てか、今日は久しぶりにいっぱい喋ったし。よし、ワタシも寝よう。」
■■■
2日目の朝。
朝日が燦々と降り注ぎ、小鳥のさえずりが聞こえてくる気持ちのいい朝がやってきた。
寝心地のいいベットで寝ていたカズマは眩しさに目を覚ました。が、もう少し寝たかったので寝返りをうった―――
「…おはようございます。サリーちゃんです。」
「きゃっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!。」
「…あぁ、朝からカンパネッロさんの寝顔を堪能できただけでなく、可愛らしいお声が聞けて、…私幸せです。」
カンパネッロが目を覚ますと何故かサリーと同衾していた。
「―――っ、な…なに…これ……、なにが…え?…何が…ほんとどうなってんの?」
混乱するカズマだが頭をフル回転させる。
そして、その理由に挙げられるものは。
1つ、
カズマが眠りについたことで肉体の主導権がカンパネッロに移ったため、カンパネッロがサリーに夜這いをかけた。
1つ、
カンパネッロでは無くてサリーのほうが夜這いを掛けて来た。
1つ、
サリーが寝ぼけてトイレに行った後に部屋を間違えた。
1つ、
サリーが起こしに来てくれたが、布団に潜り込んできたという…アレ。
最初の2つだった場合はそれを体験できなかったことを残念に思うカズマだった。
いくら紳士的になろうとしても、やりたいことはやりたいのである。
つまりはノンケでなくムッツリなのである。
「おい、ネッロ。」
「むにゃむにゃ、もう食べらんないよぉ。」
ぐっすりとお休みの様である。
どうやらカンパネッロはあまり寝起きがいい方ではないようだ。
これではカンパネッロに確かめるのはすぐには無理だ。
よってシーツをめくって中を確かめてみる。
無事カンパネッロもサリーも服を着ていることが確かめられた。
そして同時に、……こう、汁とかなんかで汚れていないことも確かめられた。
ならば夜這いには至っていないということだろう。
そしてひとつ、ここはカンパネッロの部屋である事も確かなはずだ。
昨日サリーを運んだ時に見た隣の部屋は調度品が違ったはずだから。
つまり、サリーが部屋に勝手に入ってきたことになるが、…何時からだ。
「サリーは何でここに居るのかな。」
「…カンパネッロさんを起こしに来たら、気持ちよさそうだったからつい。」
はい、答えは最後のヤツと判明。
「…つい、だっこしてクンカクンカしちゃった。」
っと思ったら、他のんもちょっと混じってたぁ。
「てか、類は友を呼ぶというし…、サリーも変態って思った方がいいのか。」
「…変態である事は否定しない。…そして他に誰が変態であるかに興味があります。」
「………そんなことより、俺…鍵、掛けてたよな。」
「それならちょっとガチャガチャやったら開きましたよ。」
流石はファンタジー。
安宿の鍵に過度な信頼はしてはいけなかったようだ。
これからは気を付けよう。そう思いながらベットから降りる。
「サリー、着替えるから部屋から出ててくんないかな。」
「…一緒にお風呂に入った中じゃないですか。照れずにどうぞ。」
「TPO。…それはそれ、これはこれって区別を付けよう。まして、自分が変態だって認めた後なら。」
■■■
着替えている間にカンパネッロが目を覚ましたので今朝の顛末を話したら。
「よし、サリーちゃんと一緒に旅に出よう。」
と、言いだしてしまった。
旅の道連れが変態であるのに大変遺憾なカズマであるが、すでに恋人が変態だったので如何ともしがたかった。
『旅は道連れ、世は情け、変態同道危機一髪』については保留を続けて、さてさてとりあえずは朝食を食べて「サガの風」がたまり場にしているギルド協会の建物に隣接している酒場へ向かった。
そこでは朝っぱらから酒を飲むバカもいたりするのだが、幸いにも「サガの風」の面々は素面だった。
そこで互いの受けたクエストの情報を交換したところ。
「どうやら嬢ちゃんがギルド協会から受けたクエストのほうが本命になりそうだな。」
こう言っているが、どちらも何を退治すればいいのか分かっていない、退治するものが居なくてもそれを調べるのも仕事の内、であるのだが、カンパネッロ側には情報の確度には信頼度のある協会から場所の指定があったので、そこを調査することが最優先となった。
「場所もそんなに遠くないし、道もある。今日にでも出発してしまってもいいと思うが。」
「すまないが、できれば今日1日は準備にかかりたいのだが。」
「嬢ちゃんがそう言うのなら。誘ったのはこっちだからな。それじゃぁ出発は明日の早朝でいいかい。」
「ありがとう。さっそくで悪いが、準備に取り掛かりたいのでお先に失礼する。」
「おう。」
「でぇ、何をするつもりかなぁ。」
「ネッロはエルフとドワーフ、両方の性質を引き継いでいる。この中にはエルフの精製スキルやドワーフの製造スキルもあるんだろ。」
「もっちろん有るよ。」
「それを試してみたい。それと、そこから俺オリジナルのスキルを作れないか試してみたいんだ。」
「それって1日でできると思ってる?」
「なぁに、とっかかりぐらいでいいんだよ。」
「う~ん、そういうことならいいんだけど。――――サリーちゃん…付いて来てるよ。」
「ネッロとしては歓迎だろ。」
「変態にも矜持があるんだよ。…こう、当たり前についてこられるのはいかがなものかと、…私は慣れてないから。」
「俺だってストーキングされたのは初めてだよ。」
「…どうする。」
「…どうしようか?」
結局、悩んだ末にサリーは誘って一緒に買い物をして、余計なことは考えないことにした。
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